- 2026/10/20 10:50 更新
火星衛星探査MMX「緊迫の134分間」の全貌、世界初に挑むJAXAの“綿密すぎる”作戦とは(2/2)
サンプル採取の方法は?
MMXサンプリングのミッション要求は、「2センチメートル以上の深さから10グラム以上の試料を採取すること」となっている。表層の風化していない新鮮な物質と、過去の地質学的記録を保持したサンプルを確実に確保するため、日本とNASA(米国航空宇宙局)が提供する2方式の採取装置を組み合わせることで、成功率を高める狙いだ。日本側が開発したロボットアーム式の表面採取装置「C-SMP」は、探査機が着陸してマニピュレータ(CRMS:Corer Manipulator System)の先端にある中空のシリンダー(コアラー)をフォボス地表面に差し込み、表面下の土壌ごとくり抜く形で10グラム以上を採取する。もしも目標地点が岩などで硬い場合は、別の柔らかい地点を探して確実に採取するシーケンスも組み込まれている。
NASAが提供する、高圧ガスの噴射を利用した採取装置「P-SMP」は、小惑星探査機「OSIRIS-Rex」で実証された技術。探査機の着陸脚に搭載され、フォボス表面との距離が10センチメートル以下の状態で作動する。ガス噴射によってレゴリス(注)を巻き上げて収集する方式で、短時間の滞在でも確実に物質の一部を捕集することができる。
【134分】着陸から離陸までの「綿密すぎるシナリオ」
機体開発と並行して、ミッションの主要イベントは綿密な運用計画が検討されている。その緊迫感が伝わる、サンプル採取のシーケンスの検討例を紹介しよう。着陸からサンプル採取、離陸まで134分にわたる緊張の瞬間のシナリオである。※第69回宇宙科学技術連合講演会「4M09 火星衛星探査計画MMXのLOWTによる着陸滞在運用検討状況」を基に筆者作成
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着陸脚を伸展させ、地球とのリアルタイム通信を確立するために、中利得アンテナ(MGA)を指向させる。
正確にフォボス表面に接地しているかを確かめるため、3本の着陸脚を1本ずつ数センチメートル伸展・収縮させ、地表反力等のデータをテレメトリ(注)で確認する。
広角カメラ「OROCHI」にホコリが付着するのを防いでいた「レゴリスカバー」を展開する。
探査機本体から採取装置本体(C-SMP)へ、滞在運用開始のトリガー信号を送信する。
探査機のシステム設定を着陸フェーズから「滞在観測・サンプリング設定」へ変更する。
C-SMPのマニピュレータを、着陸時の安全固定姿勢から、稼働可能な姿勢に変更する。
地形計測センサによって1回目のサンプリング地表面の撮像を行い、データを地上局へ最優先でリアルタイム送信する。
続いて地形計測センサ(TMSU)による2回目の撮像。1回目と異なる視角から撮影し、データを地上へ送信する。
地上運用管制室(JAXA相模原キャンパス)にて2枚の画像を受信し、目視および解析で画像を確認する。
地上で、受信画像から「どこをサンプリングするか」の最適なピンポイント位置を決定。C-SMPを駆動するための個別コマンドを生成し、地球からフォボスへと送信する。
サンプリング時のレゴリスの舞い上がりによる光学系汚れを最小化するため、一度OROCHIのレゴリスカバーを閉じる。
探査機が地球からのサンプリング位置指定コマンドを受領した後、C-SMPが内蔵する自動シーケンスに従い、自律サンプリング動作を開始する。
マニピュレータが駆動し、コアラー(採土器)を地表に射出。シリンダーにレゴリスを取り込み、スコップ部を分離してコアラー内にしっかりとサンプルをホールド(最速では103分で完了)する。
探査機のシステム設定を離陸モードへ変更開始。並行してマニピュレータの関節を折りたたみ、「離陸姿勢(格納・固定状態)」へ戻す動作を行う。マニピュレータ各関節のショートブレーキを施し、C-SMPの機械的な離陸時固定・収納を完了させる。
離陸時のスラスタ噴煙やレゴリス飛散から防護するため、OROCHIのレゴリスカバーを再度閉じる。
離陸の1分前に、P-SMPを駆動し、圧縮ガスを吹き付けてサンプルを素早く採取する。
探査機はスラスタを強力に噴射し、フォボス表面から離脱して上昇軌道へと移行する。
MMXの難しさは、フォボスからサンプルを採取する1つの技術だけにあるのではない。大型の探査機を火星周回軌道へ正確に投入し、通常の周回が難しいフォボスと擬周回軌道で並走しながら観測、着陸地点を選び、限られた滞在時間の中でサンプルを確実に採取して再び離陸する──それぞれの技術と運用を途切れなくつないで初めて、ミッションは成立する。
とりわけ着陸後は、地表の状態を確認し、地球側で採取地点を判断してコマンドを送り、日本とNASAが開発した2方式の採取装置で試料を確保するまで、綿密なシーケンスが組まれている。「はやぶさ」「はやぶさ2」で培ったサンプルリターン技術を土台にしながら、その舞台を火星圏へ広げるMMXは、日本の惑星探査にとって技術的にも大きな一歩となる。
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