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- 2023/03/31 掲載
シリコンバレー神話の終焉……EVにも大打撃、SVB破綻で「世界の脱炭素」が遅れるワケ
米国の動向から読み解くビジネス羅針盤
イノベーションは「10年超後退」する
SVBが3月10日に経営破綻した直後、スタートアップ支援を行う老舗のYコンビネーターのギャリー・タンCEO(最高経営責任者)は、「スタートアップやイノベーションが10年以上は後退する」と語り、中長期的なイノベーション創出への悪影響を示唆した。その後、米当局がSVBの預金を全額保護したことで最悪の危機は避けられたものの、シリコンバレーに本拠を構える企業の資金調達は不透明さを増している。米Wedbush証券が顧客向け分析で指摘したように、SVBはテック企業への資金の流れの大動脈であったからだ。
直近のSVB決算報告には、ベンチャーキャピタル(VC)から投資を受けるテック企業(ライフサイエンスを含む)のおよそ半数が同行と取引があり、VCが資金注入するテック新規上場(IPO)の40%以上がSVBからの保証を受けていた。
しかしSVBの経営破綻によって、多くのスタートアップが中小の米銀行から、バンクオブアメリカ、シティ、JPモルガンチェースなどの大手行に預金を避難。その結果、3月9~15日の1週間で、1,200億ドル(約15.7兆円)の預金が米中小行から流出した。
JPモルガンチェースの3月22日付の分析結果はさらに深刻で、2022年以降、預け入れにリスクがあると考えられる(SVBを含む)米国の銀行から、約1兆ドル(約130兆円)の預金が流出。その半分であるおよそ5,000億ドル(約65兆円)が、SVBの破綻後に流出した公算が大きいとしている。
手持ちのキャッシュすべてをSVBなどの脆弱な銀行に預けていた多くの顧客が、安全のため、預金を複数行に分散させているわけだが、それはローン金利などの有利な条件を引き出す上で障害になると専門家は指摘する。
なぜなら、顧客がすべての金融ニーズを委ねるほど、銀行は面倒見が良くなるからだ。預金分散の安全と引き換えに、多くのスタートアップは低利ローンを受けにくくなると予想される。
「近所の肉屋さん」的存在だったSVB
SVBはテック企業向け金融のパイオニアだ。IT業界で莫大な先行投資が必要となることや、審査時間を短くしてでも借り受けが必要なケースがあることをよく理解していた。そのため、規制へのこだわりが小さく、SVBが貸し出しする際はリスクを負ってくれる存在であった。米ファストカンパニー誌が指摘するように、「近所の肉屋さんやパン屋さんのように、個人的な付き合いをしてくれた」SVBは、シード(創業前または創業直後)後の利益を生み出せない企業にも喜んで貸し付けを行った。
大手行のように予見可能で安定したビジネスばかりを扱うのではなく、時には返済条件や金利の再交渉に応じるなど、忍耐強く面倒を見た。その代わりとなる金融機関は見当たらず、スタートアップを育むエコシステムの重要な一部が消滅した影響は小さくない。
有力VCのSequoia Capitalにおけるパートナーであり、伝説的なベンチャーキャピタリストであるマイケル・モリッツ氏は、「過去40年間に最も重要なビジネスパートナーであったSVBを失った」と述べ、その消滅を惜しんだ。
では、具体的にどのようなスタートアップが打撃を被っているのだろうか。 【次ページ】EV普及に悪影響? サステナブル技術に大打撃
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