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  • 2023/03/14 掲載

【緊急解説】シリコンバレー銀行の破綻をどうみるか? 日本への影響とは

FINOLABコラム

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2023年3月10日シリコンバレーバンク(Silicon Valley Bank=SVB)が米連邦預金保険公社(FDIC)によって経営破綻が宣告され、事業を停止するとともに、FDICの管理下に入ることが発表され、世界に衝撃が走った。経営不安が報じられてから破綻に至るまでの期間が短く、何が起こったのかという声もあり、その経緯を説明するとともに、これから想定される多くのスタートアップへの影響と日本への波及効果を整理してみたい。

執筆:FINOLAB Head of FINOLAB 柴田 誠

執筆:FINOLAB Head of FINOLAB 柴田 誠

FINOLAB設立とともに所長に就任。東大経済学部卒、東京銀行入行、池袋支店、オックスフォード大学留学(開発経済学修士取得)、経理部、名古屋支店、企画部を経て1998年より一貫して金融IT関連調査に従事。2018年三菱UFJ銀行からMUFGのイノベーション推進を担うJDDに移り、オックスフォード大学の客員研究員として渡英。日本のフィンテックコミュニティ育成に黎明期より関与、FINOVATORS創設にも参加。

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シリコンバレーバンクの破綻と影響をどうみるか?
(Photo:July Ko/Shutterstock.com)

シリコンバレーバンク(SVB)とは? その特徴

 SVBファイナンシャル・グループ傘下のSVBは1983年に創業し、口座開設のスムースさや機動的なサービスがスタートアップやベンチャーキャピタル(VC)で評判となり、VCが投資する米国のテクノロジーやヘルスケア分野の多くのスタートアップがSVBと取引するようになった。

 起業家に身近な銀行としてのイメージが定着した同行は、シリアルアントレプレナー向け資産運用を手がけたり、グループ内のVCによる500件以上の投資を行ったりして、シリコンバレーのエコシステムの中核を担う金融機関としての地位を固めていった。2008年にはイスラエル、2012年には中国で合弁会社を設け、ベンチャー投資の需要を呼び込むためのグローバル展開も図っている。

 日本では2021年にあおぞら銀行がSVB関連の投資ファンドであるSVBキャピタルと提携という実績がある。このように、米国のベンチャー投資拡大を背景として業量を拡大したSVBは、米連邦準備理事会(FRB)によると、2022年末時点の総資産は約2,090億ドル(約28兆円)で、資産規模は全米16位となっていた。

シリコンバレー銀行「業況変化」を探る

 コロナ禍に伴う金融緩和によるカネ余りで、スタートアップは資金調達を拡大した。2021年の米国のVC投資は過去最高となり、資金調達に成功したスタートアップがSVBに預金した結果、2022年3月末時点での預金残高は前年比6割増の1,980億ドルとピークに達している。

 預金が増えていったが、エクイティ(株主資本)で資金を調達していたスタートアップの融資需要は低調であったため、SVBは調達した資金を、主として住宅ローン担保証券(MBS)や米国財務省証券(米国債)などの有価証券での運用に充当した。

 米連邦準備理事会(FRB)が2022年3月に利上げを開始し、急な金利上昇に伴い保有する債券の含み損が拡大。含み損を考慮するとすでに実質債務超過の状態に陥っていた。さらに、金融引き締めとともにスタートアップの資金調達環境も急速に悪化し、スタートアップからの預金も流出に転じ、預金残高は2022年末には、ピーク時から13%減少するに至っている。

シリコンバレー銀行の「経営危機の表面化と破綻」

 金利上昇による業況の悪化についてはかねてより話題となっていたが、それが本格的な信用不安につながり、経営破綻に至るまでは、以下の推移のようにたった3日間という結果となった。

日付 発生した事象
3月8日 米国債など売却可能な有価証券のほぼ全額210億ドルを売却
(金利上昇での債券価格下落により、税引き後利益ベースで18億ドル損失計上)
資本増強のために普通株発行などで22億5000万ドルを調達すると発表
3月9日 SVBファイナンシャル・グループの株価が急落、前日比60%安
身売りを検討中との報道も出て、VC業界を中心に信用不安が拡大
資金繰り懸念が広がり、預金を引き上げる動きが顕在化
3月10日 米連邦預金保険公社(FDIC)がSVBの経営破綻によって事業を停止、FDICの管理下に入ることを発表
翌週13日から営業を再開し、預金保険の適用を受ける25万ドル以下の預金の引き出しを受けることになると説明

 シリコンバレーのVC業界を代表する有名人であるピーター・ティール氏が投資先にSVBからの資金引き上げをアドバイスしていたということが報道されたように、SVBに預金を預けていたスタートアップ「取り付け騒ぎ」を起こしたことが短期間に資金繰りを苦しくさせ、FDICが早期に判断を下したことにつながった点は特徴的である。

 過去の「取り付け騒ぎ」というと、店頭に個人顧客の列ができるものであるが、SVBの場合には、多くの企業がインターネットバンキングによる操作を行い、アクセスの集中によって途中からつながらなかったり、取引処理ができなくなったりする状況も生まれていたようである。

 破綻後の管財人となったFDICによると、22年末の預金残高約1750億ドルのうち89%に当たる約1560億ドル(約21兆円)は預金保険の対象とならない25万ドルを超える大口預金であった。これは、同行が個人の小口預金の比率が低く、スタートアップが調達した資金の受け皿となってきたことによる。2022年末時点のSVB開示資料における預金構成によれば、テクノロジーやヘルスケア領域のスタートアップが4割を占め、法人預金が全体の8割以上となっていた。

 今後の資産査定、破綻処理の動向によっては、保険対象となっていない預金部分については損失が発生する可能性もあり、その影響については次項で考えてみたい。

画像
破綻とFDIC管理下に入ったとの告知
(出典:SVB Webサイト 2023-03-12)
【次ページ】シリコンバレー銀行の破綻、「金融システム全体」「日本」へ影響は

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