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  • 2022/11/25 掲載

豊田章男氏も疑う完全EV化…2035年の達成が“絶望的”と言える4つの壁

連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤

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米国の環境規制に決定的な影響力を持つカリフォルニア州では、2035年からガソリン車およびハイブリッド車の新車販売が禁止される。日本の自動車メーカーにとり、戦略の変更を迫られかねない事態だ。しかし、同州のEV推進派からは「本当に目標が達成できるのか」との懐疑的な声が上がっているほか、トヨタ自動車の豊田章男社長は「EVの普及には時間がかかる」との見解を示している。日本政府も2035年までに新車販売の100%をEVにする目標を掲げているが、EVの普及はかなりハードルが高そうだ。環境対策で世界最先端を走るカリフォルニア州の動向を考察し、EVの今後を占う。
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EV普及のハードルはなぜ高いのか
(Photo/Getty Images)

必要な電力は1.5倍、詰めが甘すぎる供給計画

 国内総生産(GDP)の規模で日本に次ぐ第4位に浮上する過程にあるカリフォルニア州は8月、2035年からガソリン車およびハイブリッド車の新車販売を禁止すると議決した。具体的には、州内で販売する新車のうち炭素ゼロ車の割合を2026年に35%、2030年に68%、2035年に100%に引き上げて、ガソリン車を全廃するというものだ。同州が決めた環境規制は、15以上の他州でも自動的に採用される仕組みとなっており、同州の決定は全米に波及すると言っても過言ではない。

 だが、2035年までの新車完全EV化は「言うはやすく行うは難し」だ。大きな問題の1つは、州内数百万台のEVを支えるグリッド(電力網)の整備について、具体的な計画がまだ初期段階であり、さらに現時点で電力供給がタイトであることだ。

 直近の例を挙げると、猛暑日であった8月31日、州の送電系統を管理する独立系統運用機関(CAISO)が、利用可能な電力供給源を全て使い切った。このため、州全域の送電網に関する緊急事態宣言を発令し、計画停電の見通しを明らかにした。さらにCAISOは、太陽光の発電量が弱まる午後4時から午後9時までの節電を要請するとともに、「EVの充電を避けること」を呼び掛けた。

 実際のところ、計画停電はギリギリのところで避けられた。しかし、EV充電の自粛要請を発出したタイミングは最悪で、カリフォルニア州当局がガソリン車全廃を発表してからわずか数日後だった。

 州民は「停電が発生した場合にEV充電ができなくなる」「太陽光発電をはじめとするクリーンエネルギーは頼りにならない」という不安心理を覚え始め、同州の電力網には長期の懸念が存在している。

 現在、州内では約100万台のEVが走っている。テキサス大学のジョシュア・ローズ教授などが2018年に行った試算では、カリフォルニア州内のすべての自動車をEVで置き換えた場合、電力供給量を試算時点の1.5倍に増やす必要がある。

 そこで問題になるのが、化石燃料や核燃料を使った発電を2045年までに太陽光や風力で置換して供給量も増やす計画だ。現時点で州の発電量の36%は再生可能エネルギーでまかなえているが、100%となれば話は別だ。2045年の目標達成には、再生可能エネルギー発電施設の建設ペースを5倍にする必要があり、計画の詰めの甘さが際立つ。加えて、太陽光発電用の土地選定・環境アセスメント・事業許認可・送電線建設にも多くの制約が存在するほか、グリッド拡張に欠かせない変圧器の供給も圧倒的に不足している。

 だが、今夏の電力危機を受けて、ニューサム州知事と州議会は2025年の廃炉が定められていたディアブロ峡谷原子力発電所の閉所を2030年まで遅らせる決定を下した。中国などから輸入する太陽光パネルの価格高騰で太陽光発電計画が遅れるといったことも相まって、EV充電需要の急増を満たせるグリッド建設が予定通りに進まない可能性の高さを示唆している。

目標のわずか6%…圧倒的に不足する充電施設

 カリフォルニア大学デイビス校のダニエル・スパーリング教授は、「2035年までの完全EV化の目標は達成が大変困難だ。人々が実際にEVを購入して使ってくれなければ、絵に描いた餅だ」と語る

 その大きな障害の1つが、充電施設の不足だ。現在、カリフォルニア州には8万カ所もの公共充電ステーションが存在する。普及率は全米でも高い部類に入るが、2030年までに予定している120万カ所に対して約6%とほど遠い。にもかかわらず、州内自治体による充電施設建設の許認可手続きが自家用と業務用でバラバラかつ複雑で、申請から完工までに半年から1年はかかる。充電施設を整備するスピードを上げることも難しいようだ。

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充電施設の普及率の低さはEV普及を妨げる障壁となってしまう
(Photo/Getty Images)

 このように充電施設不足が解消されない中、EV推進の社論を掲げる有力地元紙のロサンゼルス・タイムズが9月に、ラス・ミッチェル記者のEV体験記を掲載した。愛車のフォードF150ライトニングに乗り、州を南北に貫く高速道路、約650キロを走破する「旅行記」である。

 ミッチェル記者によれば、道中では充電ステーションが地図やアプリで見つけにくいだけでなく、公共であるはずの施設で「共同住宅の住民オンリー」などの制約が存在することが多かったようだ。やっとたどり着いた利用可能な充電器も「急速型」ではない上、決済手段にも不具合のあることが多かった。

【次ページ】まとめ:EV普及が難しいと言える「4つの障壁」
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