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  • 2023/04/12 掲載

バブル期の水準が異常だっただけ「賃金が増えていない」という大多数の誤解

連載:賃金の誤解を解く

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賃金と生産性について考えるとき、それを時間単位で考えるか、1人当たりで考えるかは前提条件として大きな分岐点になる。そうした観点でいえば、残念ながらメディアで行われる賃金に関する多くの議論のなかには多大な誤解が含まれている。年収水準、時給水準、生産性の推移をデータで振り返りながら、その誤解を解き、日本経済の未来を展望する。

執筆:リクルートワークス研究所 坂本 貴志

執筆:リクルートワークス研究所 坂本 貴志

一橋大学国際公共政策大学院公共経済専攻修了後、厚生労働省入省。社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府にて官庁エコノミストとして「月例経済報告」の作成や「経済財政白書」の執筆に取り組む。三菱総合研究所にて海外経済担当のエコノミストを務めた後、リクルートワークス研究所に参画。著書に『ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う』(講談社現代新書)、『統計で考える働き方の未来――高齢者が働き続ける国へ』(ちくま新書)。

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図表2:生産性の推移(後ほど詳しく解説します)
(出典:内閣府「国民経済計算」)

賃金水準を「年収水準」でとらえることの誤り

 賃金の基調をとらえるときは、それを年収水準でとらえるのではなく、時給水準でとらえることが重要である。当然だが、労働時間を増やせば1人当たりの賃金や生産性が高まる。しかし、それは長時間労働の代償が伴うものであり、本当の意味で賃金や生産性が上昇したとはいえない。そう考えれば、こうした要素を計測する場合に、時間当たりで考えることは自然である。

 一方で、世の中の多くの議論は1人当たりの年収水準を用いて行われている。たとえば、1人当たりの平均年収が伸びないことをもって賃金が上がらないと語られるが、これは根本としておかしな議論だ。

 先述の通り労働時間を延ばして年収水準を伸ばしたとしても、それは社会が豊かになったとはいえない。時給水準が高まるなかで、自身が必要な時間数を働きながら豊かな生活を送ることができるようになって、初めて日本人の生活水準が向上したといえる。

 現在、女性や高齢者の労働参加の拡大や働き改革の浸透によって平均の労働時間は短くなっており、その誤りはますます大きくなっている。こうしたなかで賃金や生産性の計測単位について正確な理解が形成されなければ、経済の基調を大きく誤ってしまう。

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年収は上がっていないが、時給は上がっているという事実

 それでは、年収水準と時給水準の時系列データを取ると、その形はどれだけ変わるか。図表1は、厚生労働省「毎月勤労統計調査」から労働者の時給水準と年収水準の推移を取ったものである。

 これをみると、時給と年収でその形は全く異なっていることがわかる(図表1)。労働者の平均時給は2022年で2,392円。2012年には2,138円であったから、10年間でプラス11.9%の伸びになる。経済の実勢から大きく外れた賃金水準や、過剰雇用が問題視されたバブル後の水準(1997年:2,288円)も上回っている。

 一方で、年収に直すと一転してその伸びは鈍化する。2022年で390.9万円とバブル後の水準(同:431.4万円)を大きく下回る水準となっている。おそらくこの数字は、多くの人がメディアなどを通じて日本の悲惨な状況を説明したデータとして目にしたことがあるだろう。

 しかし、ここまで説明してきている通り、一部の男性のみが「24時間戦えますか」のような働き方をしていた時代と、現代の「年収」水準とを比べることにあまり意味があるとは思えない。

画像
図表1:年収と時給の比較
(出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査」)

 この話は決して難しい話ではない。経済が専門でない人もすぐに理解できる話である。しかし、このような基本的なことであっても、データの見せ方によっては経済の実勢と異なる状態を想起させてしまうことがある。世の中の賃金に関する議論のなかにはそのような要素が実に多く、日本の賃金に対する誤解を形成してしまっているのだと考えられる。 【次ページ】生産性に比して「高すぎた」バブル期の賃金

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