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自治体ごとに取り巻く課題が異なる地域部を営業基盤とする地域金融機関に対しては、地元自治体や顧客からの地域活性化支援への期待が益々高まっている。少子高齢化を念頭に、これまで自治体ごとに整備してきたインフラを、複数自治体連携による広域で整備に切り替えることで、自治体間での重複投資が排除されるだけでなく、投資コストの按分化を通じて各自治体の運用コスト低減も可能となる。そこで本稿では、域内事情に精通した地域金融機関だからこそ可能となる地域貢献のあるべき姿を取り上げてみたい。
期待される地域の特異な「資源」や差別化因子の導出
金融庁ではこれまで、地域金融機関に対し「融資量の拡大に依存したビジネスモデルは持続可能でない」といったメッセージを発信し続けてきた。併せて、地域の企業経営者向けに金融機能の改善に向けた示唆を得ることを目的とした実態調査を実施しており、この中で興味深い回答が多数寄せられている。
たとえば、地域企業の経営者は、金融機関を「資金面のほか、コンサルや海外展開支援等のサービス提供の面でも助けられている」と高く評価する一方、「資金の貸し借りがある金融機関は交渉相手であり、相談相手にはなり得ない」といった厳しい意見も確認できる。
こうしたデータも踏まえ金融庁は、金融機関が自ら掲げる目標の「量」から「質」への転換を促すことを目的に、地域貢献を通じたスキームとして出資規制を思い切って緩和した。
地域における円滑な事業承継や事業再生などに地域金融機関が貢献できるよう、5%を超える出資を容認したわけだ。そのうえで地域金融機関に地域商社の設立などによる地域貢献を促してきたといえる。
自治体の移住定住施策には「働く場」を与える必要あり
域内の人口増を目的に自治体が策定する地方版総合戦略及び人口ビジョンにおいては、人口増加施策として多くの自治体が移住・定住促進策を掲げている。東京、大阪などの都市部で移住・定住フェアを開催する自治体が目につくのは「どの自治体でも同じことを考えている」ためだ。
反面、こうしたイベントを推進する自治体の中には「65歳以上の流入人口ばかりが増加し、かえって社会保障負担が増した」といった悩みを抱える事例もみられるなど、新たな問題の芽を生み出しかねないことに留意が必要だ。
本来、自治体が望むのは若手人口の流入である。高齢者ばかりの流入にとどまれば、税収増も消費増も地域の活力となるであろう将来の子供の数の増加も期待しにくいのだから当然だ。
また、地域部に移住を希望する方の多くが現地での職探しに苦慮しており、地元自治体も農業(就業自体にも古くからの慣習で制約が存在する)や林業といった特定職種しか対象者に紹介できない、といった悩みも抱えている。
つまり、働く場が用意できず、自治体は本来ターゲットとしたい若年層に訴求することが困難な状況にある。移住に占める高齢者の割合が増加するのは「職探しの必要がなく」ハードルが低いことが背景にあるのだ。
地元の地勢や実情に精通した地域金融機関には、このように自治体が陥りがちな「はじめに移住ありき」の現状を変え、「はじめに職ありき」を生み出す取組みへの援護射撃が十分に可能だと筆者はみている。
企業誘致活動は自治体の首長が政治力学などによりトップダウンで活動を展開する例が多いとされる。そのうえで、まずは地域に所在する企業群のサプライチェーン・バリューチェーンを業種別に分析し、不足する機能を補完可能な企業を特定することが大切だ。次に当該企業が必要とする資源を提供可能な場所すなわち「用地」の探索、また環境適応を踏まえたアセスメントやデューデリジェンスにかかる外部専門家の紹介、といった一連のプロセスで自治体の企業誘致活動そのものを「企画段階から」側面支援すれば良いのだ。
その際、候補先企業からは「移転に際し有意な補助金や助成を得られるのか」といった質問を必ず受けることだろう。あらかじめ国・都道府県・地元自治体が提供する補助金などの支援スキームを整理し、「なぜこの地を推奨するのか」を訴求することも欠かせない。
【次ページ】地域金融がサポートすべきは「好立地店舗の複合機能化」であるワケ
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