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  • 2023/09/05 掲載

トランプの邪悪な「組織的虚偽作戦」、日本も無視できない2024年米大統領選2つの潮流

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2024年に実施される米国大統領選挙。投票まで1年余だが、秋から本格的に有権者と世界に向けたメッセージの訴求が始まる。トランプvsバイデンの再現が叫ばれる中、トランプは虚偽の主張をしてもなお、共和党での支持率首位を誇っている。トランプの揺るがぬ支持に対して、バイデンに勝ち目はあるのか。そして両者はどのような「戦略広報」を打ち出すのか。新たな2つの潮流に注目し、解説する。

執筆:埼玉大学名誉教授 政治学博士 平林 紀子

執筆:埼玉大学名誉教授 政治学博士 平林 紀子

専門は、現代米国政治、政治マーケティング・広報。とくに米国大統領選挙・政権における経営とマーケティングおよび広報戦略の事例分析。
東京都出身、早稲田大学政治経済学部政治学科卒、早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了。埼玉大学教養学部・助教授、同大学人文社会科学研究科・教授(2002年~2022年)を経て、2022年4月より名誉教授。米国ハーバード大学行政大学院・ジョージワシントン大学政治経営大学院にて客員研究員(1999年~2001年)。
主な著作に、「マーケティング・デモクラシー: 世論と向き合う現代米国政治の戦略技術」 (単著、春風社、2014年)、「政治コミュニケーション概論」 (共著、ミネルヴァ書房、2021年)、「現代のメディアとジャーナリズム6:広報・広告・プロパガンダ」 (共著、ミネルヴァ書房、2003年)など

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政治マーケティング戦略の最重要部分である「メッセージング」、有権者に向けて何をどのように、どんな手段で訴求するのか
(Photo/Shutterstock.com)

トランプvsバイデン?2024年大統領選広報の焦点

 大統領選挙まで1年と2カ月。世論調査では、共和党はトランプが独走、2位のデサンティスを40ポイントも引き離す。支持理由は、トランプの起訴は司法を政治の武器に使う民主党の陰謀にすぎず、バイデンに勝てるのは彼だけと確信するから。

 一方民主党は、バイデン優勢ではあるが、若者やマイノリティなどの民主党基盤層が乗り気でない。高齢と経済対策の遅さ、致命的なのは「トランプに勝てる確信」がもてないメッセージの弱さ。秋から本格的に有権者と世界に向けたメッセージ訴求が始まる。マーケティング戦略の総仕上げ、戦略広報の勝者が競争を制する。

 米国の選挙における戦略広報とプロモーションは、日本と違い公職選挙法の規制がほとんどないので、資金と最新技術と戦略的知恵を結集した総力戦である。マーケティングの大家フィリップ・コトラーによれば、戦略広報のメッセージングの三大要素は「届く・響く・動かす」(伝達、説得、動員)。

 2024年選挙の戦略広報の第一の注目点は、「響く」メッセージのテーマとしての「オーセンティック(正統性、本物感)」である。

 大統領選挙は、各党候補を一本化する州別予備選挙・党員集会(2024年1月~)と、全米対象に両党候補が直接対決する一般選挙(9月~11月5日投票)の二段階に分かれる。予備選挙は各党の支持者が対象なので、基本テーマは「党路線をどうするか」だ。

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共和党は、トランプ党化の是非と保守性の度合い、民主党はバイデンの是非と、移民など党内を割る争点が主な焦点となる
(Photo/Shutterstock.com)

 一方、一般選挙は支持層の動員と、無党派層説得の鍵をにぎる「この選挙の選択の意味」、つまり「問題と解決策」のフレーミングが重要である。雇用やインフレ対策、財政均衡など経済運営をめぐる競争なら共和優勢、社会保障や地球温暖化や最高裁保守化が焦点になれば民主寄り。しかしもしトランプ対バイデンの再対決になれば、政治不信時代の「オーセンティック」をめぐる闘いとなるだろう。

 この選挙が問う本物感は、「パーソナリティのブランド一貫性」と「虚偽でない事実」という二つの次元がある。トランプはパーソナリティの本物感で優位だ。嫌われてもブレない一貫性ある強烈パーソナリティ、8年変わらぬブランドストーリーと政策が信頼感を作る。

 トランプの「選挙不正」の主張は根拠に乏しく、6件の法的案件を抱え、起訴決定4回、それでも基盤支持層の支持が揺るがないのはなぜか。「トランプはそういう人」だからだ。欠点は先刻承知、それをしのぐ強さ、大胆な行動力交渉力の魅力がトランプの強みだ。逆にバイデンは、“whataboutism”(息子ハンターは脱税や違法外国取引の疑いで司法省捜査対象、そんなお前に批判する資格はない)と、保守派の切り返しにあう。

大衆を欺く、トランプによる3万件の虚偽発言

 しかし、どんなに魅力的で力量あるワンマン経営者への信頼があっても、その経営に違法性や倫理違反があれば、コンプライアンスの観点から許されない時代である。

 トランプの常習的な虚偽発言、根拠疑わしい主張はこれまでも、報道機関などのファクトチェックで明らかになってきた。ワシントンポスト紙がトランプ第一期政権4年間の発言(SNS投稿含む)を分析したところ、事実に基づかないこれらの発言が計3万件、1日平均21件にも上った。

 2020年選挙後半から選挙後の彼の虚偽発言の多くは、「20年選挙は盗まれた」不正主張である。しかしアトランティック誌2020年3月号記事によると、20年選挙のトランプ陣営自体が、デジタルマーケティングの鬼才ブラッド・バースケール選対本部長の指揮の下、10億ドル規模の組織的虚偽情報作戦を実行していた。

 ロシアの2016年米大統領選挙介入の「台本」に倣ったというその内容は、まず対立陣営に関するうそをピンポイントSNS広告で狙い撃つ。虚偽情報をSNSに投稿し、ボットを使って「オルタナティブ影響力ネットワーク」と呼ばれる保守派メディア相互連携大広報網に大量拡散させ、保守派インフルエンサーを使って炎上させ、AIアルゴリズムを逆手にとってリベラルメディアの筆頭CNNの全国ニュースにしてしまう。

 この悪賢い広報マシンは、親トランプの富豪が構築した「デジタル生態系システム」を基に動く。そのほかにも、批判的な報道記者の全発言から問題を見つけて、社会的に抹殺する。本物に酷似したニセ地方紙ニュースサイトを作り、記事は本物、見出しは虚偽という仕掛けで読者を欺く。陣営はこの作戦本部を、映画「スターウォーズ」の悪の要塞(ようさい)「デススター」と確信犯的に命名した。

 トランプの虚偽に対抗し事実を武器に闘うバイデンの20年広報チームは、デススターに対する自称「反乱同盟軍」。2023年、脅威は去っていない。バイデン陣営は、「トランプ政権の是非」よりも「虚偽対事実」、選挙の正当性否定や暴力、専制主義から「民主主義を守るか否か」に、対立軸をずらす。

 パーソナリティとしてのオーセンティックではなく、民主政治のあり方としてのオーセンティックを問うのだ。民主主義を守る正統はバイデンというメッセージは、劇的に「響く」効果はないものの、この選挙を民主主義防衛の選択と意味づける人が、世論調査で徐々に増えているのは確かだ。

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2020年以降、大統領選挙の広告費が大幅に増えた理由とは?(次のページで詳しく解説します)
【次ページ】2020年以降、デジタル広告費が大幅に増えた理由

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