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  • 2025/07/23 掲載

参政党・神谷代表も参考にした……米トランプ広報から学ぶ「共感マーケティング」戦略

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今回の参院選で躍進を遂げた「参政党」。米ニューヨーク・タイムズ紙によれば、代表の神谷 宗幣氏は「感情に訴えるテーマや常識を覆す言葉の多くをトランプ氏から学んだ」と語り、インタビューの中で「自分こそが日本版トランプに最も近い存在だ」と述べた。本稿では、支持層の熱狂を生むトランプ流「共感マーケティング」の戦略に迫る。
執筆:埼玉大学名誉教授 政治学博士 平林 紀子

埼玉大学名誉教授 政治学博士 平林 紀子

専門は、現代米国政治、政治マーケティング・広報。とくに米国大統領選挙・政権における経営とマーケティングおよび広報戦略の事例分析。
東京都出身、早稲田大学政治経済学部政治学科卒、早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了。埼玉大学教養学部・助教授、同大学人文社会科学研究科・教授(2002年~2022年)を経て、2022年4月より名誉教授。米国ハーバード大学行政大学院・ジョージワシントン大学政治経営大学院にて客員研究員(1999年~2001年)。
主な著作に、「マーケティング・デモクラシー: 世論と向き合う現代米国政治の戦略技術」 (単著、春風社、2014年)、「政治コミュニケーション概論」 (共著、ミネルヴァ書房、2021年)、「現代のメディアとジャーナリズム6:広報・広告・プロパガンダ」 (共著、ミネルヴァ書房、2003年)など

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「共感」の作り方とは?
(写真:ロイター/アフロ, Joshua Sukoff/Shutterstock.com)

分断も炎上も計算済み……「トランプ広報」の“推し活”戦略

 ドナルド・トランプ氏が2016年の大統領選で打ち立てたのは、単なる勝利ではない。従来型の「政策説明」から、感情を揺さぶる“マーケティング型広報”を前面に押し出すことで、その手法はより高度かつ洗練されたものへと進化した。

 その基本的特徴は第一に、「大統領自身が広報の中心(セルフ・ブランディング)」で、従来の「広報部門による調整された発信」と異なり、報道官よりも大統領本人が広報の主導権を握る。

 以前はTwitter(現X)、現在はトランプ氏自身が立ち上げたTruth SocialなどのSNSで、本人が1日に何度も、時刻場所を問わず、思いついた瞬間に直接メッセージを発信する「顔が見える広報」だ。

 基本的特徴の第二は、「ブランドマーケティング広報」である。

 具体的には、「常時キャンペーン体制(Permanent Campaign)」で就任後も“選挙風の集会”を継続し、広報スタイルは「統治」よりも「選挙モード」を維持。政策の説明よりも感情の動員(絆の維持)に重きを置く広報であり、スピード勝負でもある。24時間体制で発信と反論を繰り返し、支持者との一体感を絶やさない。

 また「ブランドとスローガンの徹底活用」で、「MAGA(Make America Great Again:米国を再び偉大に)」や「America First(米国第一主義)」など、簡潔で感情的なスローガンを一貫して使う。大統領は外交の場でさえ、MAGAキャップ着用のビジュアルを変えない。世界中がそのブランドを認識し、反復使用することで広報を助ける。

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MAGAキャップを着用するトランプ氏
(出典元: Joey Sussman / Shutterstock.com)

 また、トランプ陣営は2024年8月に選挙不正で逮捕された時の「マグショット(犯罪容疑者写真)」を印刷したTシャツなど、機会ごとにさまざまな商品として売り込むマーチャンダイジングにも巧みだ(下の写真)。支持者にとって、グッズ購入は“推し活”であり、連帯感の象徴でもある。

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マグショットを印刷したトランプ陣営公式グッズ。AP通信によると、発売後数日間で約710万ドル(約10億円)の資金を調達したという
(出典:トランプ陣営ホームページ)
 一方、「事実軽視とオルタナティブ・ファクト(事実ではない嘘の事象を、事実のように故意に語ること)の使用」が際立つ。

 実証的事実よりも感情的・印象的な決めつけ表現を重視する。誇張・歪曲(わいきょく)・虚偽も多く含まれ、「事実」の信頼性よりも、自己に有利な解釈を優先する。広告倫理規準ならば違反だらけの、「フェイクニュース」製造拡散の大統領だ。

 わかりやすい差別化と感情動員の手法として、「対立と分断をあおる手法(ポピュリズム的広報)」を使い、差別化が明確な「エリート vs 庶民」「移民 vs 米国民」「都市部 vs 地方」といった対立軸を利用して、支持者に「我々 vs 彼ら」の物語を訴求する。

 2024年選挙で最も「効果的な広告」といわれるトランプ陣営制作のトランスジェンダー攻撃「Kamala is for they/them. President Trump is for you.(カマラ氏は、ジェンダーに配慮した人たちのための政治をするが、トランプ氏はあなたのための政治をする)」はその典型例だ。

 CBSニュースによると、トランプ陣営は2024年10月1日から16日間にこの広告を5万5000回近く放映するため、1,900万ドルを支払った。さらにすべての激戦州で、3万回以上放映。全米人気のNFLや大学フットボールの試合中継で多く流され、放送後のトランプ支持率を2.7%押し上げたという検証結果もある。また2020年選挙でバイデン氏を勝たせた重要な層の1つ、文化的に中道穏健で「woke(目覚めた進歩派)」を嫌う郊外居住の女性層を、トランプ氏に傾かせたともいわれる。

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トランプ氏の変わらぬ「闘士ぶり」に、選挙献金や商品購入を通じた支持者の「推し活」はヒートアップした
(出典:トランプ陣営ホームページ)
 その人のブランドは、「危機の演出と“救世主”イメージの構築」でさらに強化される。

 「国境危機」「不正選挙」「極左の脅威」など、絶えず危機を演出し、自らを“唯一の解決者”として訴求する。問題解決型マーケティングでいう「ヒーロー・ナラティブ(物語)」である。

 2024年7月の選挙集会中での暗殺未遂事件でトランプ氏は、狙撃直後にSPらに支えられながら拳を振り上げて健在ぶりを示し、「神が使命を与えた闘士」イメージを最大限利用した。 【次ページ】新聞からTikTokまで、メディア空間を“支配”する方法
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