- 2025/12/09 掲載
【独占】「テクノロジーこそが世の中を変える」SBI北尾社長が警告する「AIの次の危機」
前編はこちら(この記事は後編です)
テクノロジーこそが世の中を変える
AIもブロックチェーンも、SBIではかなり早い段階から取り入れてきました。まだ「AIって何?」という認識だった頃から、社員に「全員使え」と号令をかけていました。その後は新入社員の教育にもAIを組み込みました。そういう“先取りの文化”を組織に根づかせたかったのです。ブロックチェーンについても、Webが成熟した次に来るのは、ブロックチェーンをベースにしたアプリケーションの世界だと考え、「これで世の中が変わる」と言い続けてきました。金融だけでなく、契約や物流、教育、医療など、あらゆる分野に応用できる。だから私は、単なる投資としてではなく「社会のインフラをどう作り変えるか」という視点でこの技術を見ています。
SBIの投資ファンドも、常に最先端の技術を追いかけてきました。量子コンピューターにしてもそうです。暗号資産の安全性を保つためには、量子の時代に対応した新しい技術が必要になる。だから世界中のベンチャー企業を探し回って、有望な技術に先行投資してきました。こうした取り組みの根底にあるのは、「技術を知ることこそ経営の第一歩」という信念です。
私はいつも言いますが、経営は時間の関数です。どれだけ早く気づき、どれだけ先に動けるかで勝負が決まる。今のようにテクノロジーの変化が激しい時代では、1年遅れることは10年遅れるのと同じです。
だから私は、少しでも「これは有望な技術だ」と思ったら、即断で動きます。量子コンピューターにしても、ブロックチェーンにしても、最初はみんな半信半疑でした。でも今では、それが世界を動かす主役になっているでしょう。
テクノロジーの本質は、人を置き換えることではありません。人がより創造的に生きるための力です。私は、AIや量子のような技術を、単なるビジネスの道具としてではなく、人間社会をより良くするための“知恵”として捉えています。世の中を変えるのはテクノロジーですが、その方向を決めるのは人の心です。だから、技術と倫理の両輪で進まなければならないと思っています。
金融を超えて“社会”を再設計する「デジタルスペース生態系」
私は今、金融の先にある「デジタルスペース生態系」という世界を構想しています。金融というのは、あらゆる産業の裏側に流れる血液のようなものです。ですが、いまの世の中では、その血液が循環しきれていません。お金も情報も偏在している現状があるからこそ、私は金融を核にしながらも、それを超えた新しい生態系をデジタル空間の中に作ろうとしているのです。この考え方は、孫 正義さんともよく話します。彼とはもう20年以上の付き合いですが、基本的な思想はあまり変わりません。互いに「デジタル情報化への同志」だと言い合ってきました。孫さんはインターネットに注目して時代を切り拓き、私は金融を通じて社会のインフラを変えてきた。今はその両方が、AIやブロックチェーンで一つに融合しようとしています。現実の世界とデジタルの世界が重なり合い、経済活動も文化も教育も、その中で再構築されていく、これが「デジタルスペース生態系」の本質です。
たとえば、ブロックチェーンのトークンを使えば、金融取引だけでなく、地域経済や教育支援を含めたさまざまな領域で「信頼の可視化」が可能になります。そして、AIが人の行動データを学習し、より公正で持続可能な意思決定をサポートする。こうした仕組みを支え、金融の枠を超えて、産業と生活の根幹を再設計していくことが、私の次のテーマです。
さらに、「デジタルスペース生態系」は、単なる技術の話ではありません。社会のあり方そのものを問い直す構想です。産業構造も教育も、そして価値観も変えていく。金融という現実の世界から、デジタルという仮想世界の可能性をいかに融合し、橋渡しするか。
やはり世の中を変えるには、評論家ではなく実践者でなければなりません。だから私は、本を書くだけでなく、実際にリスクを取って投資し、会社をつくり、制度を動かす。言葉だけで終わらせない。理論と歴史観の両方を持って、行動することが本当の“革命”だと思っています。 【次ページ】なぜ住信SBIネット銀行をドコモに売却したのか?
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