• 2026/09/02 07:00 掲載

AIを使う企業ほど「残業が多い」? 馬渕磨理子氏に聞く“成果が出る投資”の条件(3/3)

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高い報酬だけでは不十分、AI人材を引き留める「3つの条件」

──一方でAI人材の獲得競争は激しく、自社で育成した人材ほど転職市場で高く評価される。企業は、育てた人材をどう定着させるかという難題にも直面しています。

馬渕氏:そこで企業側が考えなければならないのが、「報酬」「権限」「誇り」の3つです。

 一定の報酬水準は当然重要です。しかし、人間は報酬だけでは動かない。

 自分にどれだけ意思決定の「権限」があり、裁量を持って仕事ができるのか。そして最後に、「この会社だからこそできる開発をやっている」という「誇り」を持てるかどうか。

 労働市場の流動性が高まっていますから、技術を身につけた人は、より高い条件で簡単に転職できます。自分で考えてアクションできる人材は企業にとって非常に大切な存在です。人材流出しないために、組織としてどこまで権限委譲できるのかが問われています。

──早い段階から若い人材に裁量を与えることが、長い目で見た組織の強さにつながるのでしょうか。

馬渕氏:そうです。私が実際に企業の現場を見ていても、裁量権を与えられている従業員のほうが、生き生きと働いている。自分で考え、意思決定できる余地があることは、力を発揮するうえでとても重要です。

 デフレの時期は、物価も金利も大きく動かず、色々な物事が長く滞留していました。しかし、足元では物価が動き、金利も上がり始めています。経営を取り巻く環境そのものが変化し、意思決定に求められるスピードも速くなっているのです。

AI時代に変わる「良い会社」の物差し

──AIやセキュリティ、人材への投資は中長期的な視点で成果を見ていく必要があります。

馬渕氏:まさに今、「PL(損益計算書)経営」から「BS(貸借対照表)経営」へシフトしています。

 これまでは、売上高や利益、コストといった1年間の業績を示すPL上の数字を重視する経営が中心でした。ただ、短期的な収益だけを追っていては、企業の本当の価値は見えてきません。

 BS経営で重要なのは、単年度の利益だけではなく、その会社が中長期でどのような資本や強みを蓄積しているのかを見ることです。AIへの投資や自社が持つデータ、人材などを、どう企業価値につなげていくのかという視点です。特に上場企業では、海外投資家からもこうした中長期を見据えた経営が求められています。

 目先の売り上げや利益だけを見ていては、設備投資や成長分野への投資、人材や取引先を大切にすることの価値は見えてきません。短期的なPLだけを追いかけて、本当に強い会社、良い組織として残っていけるのか。今まさに、そこが問われていると思います。

──先ほど、人材の定着には「誇り」も重要だという話がありました。企業価値を考える上で、こうした数字では捉えにくい部分に企業はどう向き合うべきでしょうか。

馬渕氏:そこは難しいところです。最近は従業員へのアンケートでエンゲージメントを測ったり組織の状態を数値化しようとする企業も増えています。ひずみが見つかれば、福利厚生や働き方を見直すきっかけにもなります。経営者やマネジメント層が、本当に人材を大切にしているのかが問われています。

 ただ、本質は「この会社で働くことに誇りを持てるか」です。だからこそ、数値化できる指標だけを見るのではなく、従業員がその会社で働くことに対してどう感じているか、数字では表せない部分にこそ企業は向き合う必要があります。

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