AIでシステム運用保守はどう変わる? ビジネス価値を最大化する組織への転換とは
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なぜ今、システム運用保守の「変革」が求められているのか
しかし、クラウドやAIが浸透した現在、システムはマネージドサービスやAIサービスを組み合わせて構成されるようになった。小さくリリースし、運用しながら継続的に改善する開発スタイルも広がっている。こうした変化に伴い、運用保守の現場にも、変化を前提として自らシステムを進化させ続ける働き方が求められている。
一方で、多くの企業がこの転換に踏み出せずにいる。現場の知識やノウハウが文書化・共有されておらず、育成や引き継ぎが難しい。手作業が多く、オペレーションミスが発生する。コストセンターと見なされ、新しい取り組みに割く余力がない──。さらに、AIや自動化を取り入れたくても、安全性や監査に対する不安から導入に踏み切れないという声も根強い。変革の必要性を感じながらも、身動きが取れずにいる現場は少なくないだろう。
そこでアクセンチュアでは、『AIでシステム運用保守はこう変わる!』と題したセミナーを開催。本セミナーを通じて一貫して示されたのは、人とAIの役割分担を適切に設計しながら、運用保守を進化させていくという現実的な道筋だ。まずは第一部の講演と対談をもとに、その具体的な考え方を詳しく解説する。
AIに代替される作業、運用保守エンジニアに残る役割
シニア・マネジャーの井上 拓也氏は、「チャットボット型のAIやコーディングエージェントを運用保守担当者に配っただけでは、まずできません」と述べた。そのうえで、監査や内部統制にも耐えられるガードレールを備えた、共通プラットフォームの必要性を説いた。
講演後の対談は、モデレーターを務めたアソシエイト・ディレクターの上原 雄貴氏による、次の問題提起から始まった。
「顧客から『5年後、10年後に情報システム部門や運用はどうなっているのか』とよく聞かれます」(上原氏)
オペレーション業務を中心に担う人材は、AIに代替されやすいといわれている。こうした見方に対し、樋口氏の答えは明確だった。
AIによる自動化が進んでも、運用保守を担うエンジニアの役割そのものが失われるわけではない。樋口氏は次のように語る。
「結論としては、運用保守を担うエンジニアは未来永劫なくならないと思っています」(樋口氏)
樋口氏は、安定性を最優先し、「変えないこと」を是としてきた運用保守の現場に、速度・柔軟性・汎用性を備えたAIという新たなケイパビリティ(能力・特性)が持ち込まれたことで、混乱が生じていると分析する。
その一方で、「抽象化してしまえば、起きていることは従来とあまり変わりません。原理原則と最新テクノロジーを追いかけ続けるという、エンジニアの本質は変わらないのです」とも付け加えた。
上原氏も、現場で感じている変化について次のように語った。
「繰り返すことはAIがやり、人間はどんどん新しいことをやっていく。熟練工はもちろん必要ですが、『その人しか知らない』という状況が薄れていくので、学び続けないといけません。現場でも肌で感じます」(上原氏)
これを受け、井上氏は、この数カ月で自身の周囲に起きたエピソードを紹介した。自身がオーナーシップを持つアプリケーションに改修依頼があった際、これまでメンバーへチャットで送っていた依頼文を、そのままコーディングエージェント「Claude Code」に渡したという。すると、部下に任せようとしていた改修作業が、依頼文を変えることなくすべて完了したのだ。
「答えをちゃんと導けるのは人間にしかできませんが、そこに行く道筋が単純なものであればあるほど、簡単にAIに取って代わられていくと強く感じました」(井上氏)
AIで生産性が上がる人、下がる人の決定的な違い
さらに樋口氏は、Databricks CEOのアリ・ゴディシ氏の発言として、AIだけでは業務知識や求められる成果を十分に理解できず、人間がコンテキストを与え、ガバナンスする必要があるという考え方を紹介した。 この発言を踏まえ、樋口氏は「これからの運用保守エンジニアの主な仕事は、自分たちの知見をAIが理解し活用できる形へ整理していくことになるでしょう」と今後を展望した。
この「知見をAIが活用できる形に整理する」という考え方は、上原氏が講演で語ったナレッジ管理の考え方とも重なる。上原氏は、「AIの実行を阻むのは資料不足ではなく、業務の完了条件が人の頭の中にあること」と指摘した。AIを効果的に活用するためには、これまでベテランにしかできなかった判断を仕組みとして再現し、例外的な案件だけをベテランが担う状態を目指す必要があるという。
その実現に向けて上原氏が提示したのが「6点セット」だ。具体的には、依頼の共通窓口、責任範囲の明確化、AIが利用できる業務知識、システム接続基盤、統制・ガバナンス、継続的な改善運用の6項目で構成される。 AI活用では、単にナレッジを蓄積するだけでなく、依頼の入口から実行、統制、改善までを一貫して設計することが重要だという。
こうした仕組みの整備が不十分なままでは、人の介在が減らず、AIと人の双方に費用がかかる「中途半端な自動化」に陥ってしまう。上原氏はそのリスクに警鐘を鳴らし、まずは最初の30日で1つのタスクを一気通貫で完了できる状態をつくり、90日を目安に対象を徐々に広げるスモールスタートを推奨した。
対談でも、上原氏は管理職の視点から次のように語った。
「自分がAIをどんどん使っていくと、部下の仕事や働き方はどうなるのか。新しく来た方はどうキャッチアップするのか。AIの方がいっぱい知っているとなれば、ナレッジ化されたものを逆にAIから教えてもらい、それを人が学んで、コンテキストを返していく。AIと人の一体型で成長していくことになると思います」(上原氏)
問い合わせ対応工数を最大50%削減…「Accenture GOGEN」とは
マネジング・ディレクターの内海 一統氏は、自身がシステム運用保守の責任者を務める中で、2023年後半からGOGENの前身となる仕組みを開発していたと明かした。
「運用保守はナレッジやドキュメントがすでに溜まっており、生成AIと極めて親和性が高い領域です。一方で、ナレッジの属人化や、参照に時間がかかるという問題もあります。これを生成AIでスッと解決できるのではないかと考えました」(内海氏)
GOGENは、運用保守現場に蓄積された知見をAIが活用できる形へ変換し、業務の効率化と高度化を支援する。主な提供価値は以下の5つだ。
・暗黙知の形式知化
・ワークフロー設計
・判断支援
・統制・自律
・改善・刷新
アクセンチュアが蓄積してきた運用ナレッジを標準アセットとして搭載しているほか、「ワークフローデザイナー」を使って、専門知識がなくてもAIエージェントを構築できる。各社の業務やシステム環境に応じてカスタマイズできる点も特徴となっている。
シニア・マネジャーの長谷川 寛氏によるデモンストレーションでは、接続するデータを変えるだけで、ヘルプデスクの月次レポートが障害レポートへと切り替わる様子が披露された。さらに、「タスクの消化は進んでいるが、優先度の高いバックログが解消されておらず、目に見える進捗につながっていない」といった示唆まで、自動で提示された。
シニア・マネジャーの杉本 知真氏によれば、実装済みの主要なAIエージェントは、「問い合わせ対応」「レポート作成」「ナレッジ生成」「定型作業の自動化」「障害分析・対応」の5つだ。
導入効果のポテンシャルとして、アクセンチュアの試算では、問い合わせ対応で最大50%、障害対応で最大20%、定型作業で最大40%の工数削減が見込まれるという(※実際の効果は対象業務や導入条件によって異なる)。導入期間は、要件のヒアリングからPoC、初期セットアップまで、約3カ月が目安だという。
「完全自動化は目指さない」あえてワークフローを残すワケ
「SaaS型では情報が漏れるかもしれないという声が各社から多く、まずはプライベートクラウドベースで提供しています」(内海氏)
ドキュメントやガイドも整備されており、導入時につまずいた場合には、カスタマーサポートによるフォローを受けられるという。
「そもそも、どのエージェントから導入すべきかわからない」という問いに対し、ビジネスコンサルティング部門に所属する杉本氏は、次のように回答した。
「初期診断として業務の実態や工数を紐解き、どこに対処を当てるのかというスコープの議論から伴走することも可能です」(杉本氏)
さらに内海氏は、「我々の支援が必須というわけではなく、正しいアプローチで進めるために必要であれば支援できるということ」と補足した。
対談の後半では、内海氏が「Claude CodeやCodexが台頭する中、ワークフロー型は古いという見方もある。GOGENは製品として今後どう進化していくのか」という問いを投げかけた。
これに対する長谷川氏の答えは、次のようなものだった。
「自律化の割合はどんどん増えていくと思います。ただ、こと運用保守はミスができない世界。1つミスがあればとんでもない機会損失が起きるからこそ、承認ゲートやハーネスが必ず必要で、それを守る仕組みとしてワークフローは非常に良いと思っています。完全自動は難しい。『AIがやったから』では済まされず、どこかで人間が責任を持たなければなりません」(長谷川氏)
AIによる自律化が進んでも、ミスが大きな損失につながる運用保守では、人による承認や統制の仕組みを外すことはできない。その仕組みとして、ワークフローが重要な役割を果たすという考えだ。
杉本氏は、今後注力すべき領域としてナレッジマネジメントを挙げた。
「ツールを買うのは後からでもできますが、暗黙知や、皆さまが現場でやられている非定型な仕事は、後から財産にしていくことができません。そこをしっかりAIで代替できるところまで、全速力で進化を進めたい」(杉本氏)
最後に、内海氏は以下のように述べて対談を締めくくった。
「『運用保守はコストセンター』と思われがちな世界を、我々は変えていきたいと考えています。システムを使ってビジネス価値をどう最大化していくかは、システム保守をやっている人にしかできない仕事。そういう仕事に転換していきたい」(内海氏)
AIによる自動化が進展しても、人による統制や判断が不要になるわけではない。本セミナーを通じて示されたのは、運用保守の役割がシステム維持からビジネス価値創出へと広がりつつあるということだ。「Accenture GOGEN」は、その変革を支える選択肢の一つとして位置付けられている。