• 2026/09/02 07:00 掲載

AIを使う企業ほど「残業が多い」? 馬渕磨理子氏に聞く“成果が出る投資”の条件(2/3)

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AI投資できる企業、できない企業…広がる「K字型格差」

──国内投資を増やす必要がある一方、大企業と中小企業では投資余力に大きな差があります。大企業はAIやサイバーセキュリティに先行投資できますが、中小企業は賃上げの原資すら確保できないところもある。

馬渕氏:今は自社だけではなく「取引先がきちんとセキュリティ対策をしているか」まで見る時代になっています。

 大企業と中小企業の間には明らかに格差があります。価格転嫁する力にも差がある。設備投資にも当然差が出ます。

 これは米国でいう「K字型経済」に近い構図です。強い企業は投資によってさらに強くなり、体力のない企業は投資できず、さらに差が広がる。

 特にセキュリティの場合、中小企業だけの問題では終わりません。対策が十分でない中小企業がサイバー攻撃を受け、そこから取引先の大企業まで被害が波及する可能性があるからです。攻撃者が大企業を直接狙うのではなく、セキュリティ対策が相対的に弱い取引先を足がかりに侵入するケースもあります。

 中小企業のセキュリティ投資は「その会社だけの問題」ではなく、日本全体、サプライチェーン全体で考えるべき課題です。

──大企業と中小企業の投資格差を埋めるうえで、補助金などの支援だけでは限界もあります。中小企業がAIやセキュリティへの投資余力を生み出すには、まず価格転嫁によって「稼ぐ力」を高める必要があるのでしょうか。

馬渕氏:そう思います。利益を生み出せなければ賃上げはできませんし、優秀な人材も獲得できません。当然、設備投資に回す原資も生まれません。

 消費者側から見れば値上げは厳しい。だからこそ、値上げだけを進めるのではなく、賃上げとセットで考えなければなりません。物価が上がる中で賃金も上がり、個人が活力を持ってお金を使えるようになることが大切です。

 大企業ではすでに賃上げが進んでいますから、中小企業も適切に価格転嫁しながら賃上げを進めていく必要があります。

 また経済を見るうえでは、個人消費だけでなく、企業の設備投資が堅調かどうかも重要です。個人がお金を使い、企業も将来に向けて設備投資をする。どちらか一方ではなく、個人部門と企業部門の双方でお金が動く状態をつくっていく必要があります。

──投資原資を確保できたとしても、中小企業がAIやセキュリティに必要な人材やノウハウをすべて自前でそろえるのは難しい。限られた人員の中で、どこまで内製し、どこから外部の力を借りるべきでしょうか。

馬渕氏:大企業では専門人材を社内に抱えやすい。一方で中小企業の場合、すべてを自前でやるにはハードルの高さがあると思います。中小企業の場合、一部はベンダーやコンサルタントなど外部の力を借りることも必要でしょう。ただし、大切なのは全部を丸投げしないことです。

 外部に伴走してもらいながら、最終的には社内に1人でもAIやITについて分かる人材を育てていく。そういう考え方が必要です。

 最初から社内だけで人材を育てるのは難しいので、外部の知見を借りながら学び、少しずつノウハウを社内に蓄積していく。いわば「半分は自前、半分は外部」という形です。そのうえで、最後は社内に判断できる人がいる状態をつくる。そうすれば、すべてを外部任せにするよりも組織として強くなります。

 仮に20人規模の会社であれば、専任者でなくてもいいと思います。総務部門などとの兼任でも構いません。営業や経理を担う人がいるのと同じように、AIやITについて理解し、外部の専門家とも話ができる人が社内に1人いる。それだけでも大きく違います。

 経営者自身がAIやITを使ってみることも重要です。実際に使えば、どの程度の専門性が必要なのか、育てた人材にどんな価値があるのかも分かってくる。外部の力を活用しながらも、社内に知見を残していくことが、中小企業の投資を持続的なものにするうえで欠かせません。

AI導入がゴールになる日本企業…成果を分ける「最初の問い」

──政府が掲げる成長分野でもAIは重要項目です。ただ、AIツールやシステムを導入するだけでは生産性向上にはつながりません。DXでも、投資に対してどれだけ成果が出たのか把握しづらいという課題がありました。それはAIにも地続きの問題です。

馬渕氏:私もそう感じています。先日、経済財政白書を基にした日本経済新聞で、「AIを活用するほど残業が多い傾向がある」という趣旨の記事が出ていました。それを読んで、「日本らしいな」と思いました。

 世間や同業他社がAIを導入し始めたから自分たちもやらなければいけない──そういう発想だけでは十分とは言えません。導入はゴールではないからです。

 日本企業では、まず他社と同じ環境を整えることがゴールになりやすい。AIを導入した結果、組織として何を生み出したいのかというところまで突き詰めていないケースが多いのではないでしょうか。

 AIの導入作業が増えたのに、これまでの業務がそのまま残っていれば、当然仕事は増えますよね。導入したことによってどの業務を効率化し、アウトプットにつなげるのかまで考えなければ意味がありません。

 企業経営では何かを導入するときに、そのための会議や検討、ルールづくりが増える。極端に言えば、「AIを導入するための会議のための会議」が生まれてしまうこともあります。一方で、これまでの業務はそのまま残っている。これでは、AIを導入したことでかえって仕事が増えてしまいますよね。

 もう1つは、AIによって業務を効率化できても、そこで生まれた時間や余力に、また新しい仕事をどんどん入れてしまうことです。せっかく1時間かかっていた仕事が30分になっても、空いた30分に別の仕事を何も考えずに入れてしまえば、働く時間そのものは減りません。

 だからこそ、AIを導入する前に「何のためにAIを使うのか」「何を減らすのか」「生まれた時間を何に使うのか」まで決めておくことが重要です。AI導入そのものではなく、その先にどんな成果を生み出すのか。そこから逆算して考える必要があります。


──AIを導入すること自体ではなく、それによってどのような成果を生み、自社のビジネスにどれだけ有益なのか。そこをシビアに見極める段階に入ったと。

馬渕氏:今は過渡期です。本当に重要なのは、新しいテクノロジーを使って、自分たちの会社がどのような付加価値を生み出せるのかに焦点を合わせることです。

 AI投資では、「自社だからこそAIで何を実現できるのか」という問いを最初に立てることが重要です。そこまで考えて初めて、意味のある投資につなげられます。 【次ページ】高い報酬だけでは不十分、AI人材を引き留める「3つの条件」
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