- 2026/08/31 06:10 掲載
AIでイノベーターは育つ?大手製造業3社の調査で見えた「社員を動かす」意外な条件
アクト・コンサルティング 取締役
経営コンサルタント
大手コンサルティング会社を経て、現職。
製造業、情報サービス業などの、事業戦略、IT戦略、新規事業開発、業務革新、人材育成に関わるコンサルティングを行っている。
公益財団法人 大隅基礎科学創成財団 理事。
関連著書『Think big Move fast M&Aを軸にした新規事業開発へシフトする方法』、『成功の拡大再生産 日本の再成長とAI活用競争で勝つために、問題解決一辺倒から脱却する』、『出来ない仕事にアサインし、矢面に立たせ、助けない 日本の成長限界を突破するコンサルティング会社のイノベーター育成方法』、等
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Linkedinアカウント:www.linkedin.com/in/彰-野間-74076076
AIで「成果を出すイノベーター」は育つのか?
「私は努力しています」
これは、数々のイノベーターを取材してきた筆者が、大手製造業3社のイノベーターを対象に非公開調査を行った際、ある参加者が口にした言葉です。
調査を通じて見えてきたのは、高い成果を上げる人たちが、決して持って生まれた才能だけに頼っているわけではないということでした。むしろ、成果につながる思考や行動を意識し、それを繰り返し実践していたのです。
たとえば、消費者の心理を深く理解するために、心理学だけでなく哲学まで学んでいる人がいました。また、製品コンセプトに非常に高い達成水準を課し、それを実現する方法を寝ても覚めても考え続けている人もいました。
画期的な技術やヒット商品の開発、新たなビジネスモデルの構築などによって大きな収益を生み出したイノベーターと、その思考・行動を組織に普及させる先行企業を調査したところ、企業や業界を超えて、イノベーターには共通する特徴があることが分かりました。
本稿の前半では、大手製造業3社で実施した調査を基に、イノベーターに共通する思考・行動と生成AIの具体的な使い方を紹介します。後半では、その方法を一般社員に広げる試行から見えた、人の行動を促すAIプロンプトの仕組みを解説します。
本稿を通じて、AIを単なる情報収集や効率化の道具にとどめず、社員の思考と行動を変え、イノベーターの知見を組織に残すための実践的な視点をつかんでいただければと思います。
成果を出す人は何が違う? 3社6人に共通した「3つの思考」
以下は、大手製造業3社のイノベーター6人への調査から見えた、イノベーション実現に共通する思考・行動です。3社に限定したのは、AIが発展途上であり、現時点で大規模な企業調査を行っても確実なことを断言することは難しく、同じ問題意識を持つ経営者と前向きに協力してくれるイノベーターがいる企業を絞った調査が成果を生むと考えたからです。
なお、本調査は非公開で実施したため、具体例については、弊社がこれまでに蓄積してきた別の事例を紹介します。
■絶対に実現するという「執念」
絶対に実現するという執念がイノベーションに欠かせないのは当然です。しかし、その気持ちを常に維持している人は、決して多くありません。
たとえばキリンで、世界初となるカフェインゼロの緑茶飲料を開発した塩野貴史氏は、「本気でやり切る」ことが重要だと語りました。塩野氏は、次のように話しています。
「失敗して止めたり、誰かに言われて止めたりする取り組みは、担当者が本気ではないんだなと感じます。私自身もプロジェクトが止まりそうになる機会は山ほどありましたが、開発した技術とその価値を本気で信じていましたので、どんなに逆境であっても止めませんでした」
■足で稼いだ「知見」
イノベーターは、イノベーションに必要な多くの知見を持っています。妥当な問いを立てる、高い水準で判断する、多面的な視点で考えるといった知見です。
これらの中には、社内資料やインターネット上の公開情報から得られるものもあります。しかし、イノベーション、すなわち現状の延長線を超える価値を生み出すためには、それだけでは足りません。社外の有識者との議論や、成功・失敗の体験を振り返る中で導き出された知識、視点、切り口、行動規範、原理原則など、実際の行動を通じて得た知見が必要です。
東レで炭素繊維複合体の一体化成形品量産技術など、さまざまなイノベーションを実現した本間雅登氏は、素材だけでなく、工法や成形機械などの知識がなければ課題は解決できないと考えました。
そこで関連技術を学び、世界中の加工工場を訪ね、実物を見ながら技術者と議論を重ねました。その結果、本間氏は「脳内工場」と呼べるほど豊富な知識を身に付けたのです。
■知見や協力を得るための「躊躇(ちゅうちょ)しない行動」
前述した知見を獲得するためには、社内だけでなく、社外の有識者にも会う必要があります。場合によっては、競争相手に会わなければならないこともあります。
また、イノベーションを「絶対に実現する」ためには、関係者の理解や協力も欠かせません。
そのためには、普段から「彼、あるいは彼女が言うなら応援しよう」と思ってもらえるような信頼を築く行動が必要です。必要であれば、経営者への直談判もいとわない。そうした、ためらわない行動が求められます。
リチウムイオン2次電池の発明でノーベル賞を受賞した吉野彰氏は、当時の旭化成に電池の知見がなかったため、競争相手のもとへ試作品を持参し、話を聞きに行きました。
また、デュポンの元CTOである林隆一氏は、ナイロン66の耐熱温度を向上させる提案が受け入れられなかった際、カナダなどの協力者とともに米国本社を説得し、やがて大型製品を生み出しました。
ただの「壁打ち」じゃない、天才たちが実践する「AI活用法」
イノベーターはAIを、単なる情報収集や壁打ちの相手として使うだけではありません。前述した3つの思考・行動を実現するための情報源として活用していました。たとえば、対象となるテーマの重要性を理解し、「これは必ず達成しなければならない」という執念を強めるために使う。あるいは、実現できるまで諦めずに考え続けるための視点や切り口を得る。さらに、誰に会うべきかを認識するための情報源として活用する、といった使い方です。
ただし、AIから得られるのは、あくまでも必要な情報の「一部」にすぎません。
イノベーターが得る情報には、「躊躇しない行動」によって社外の有識者に会い、ときには飛び込みであっても、会うべき人に会うことで得られる情報が含まれています。
また、社外の専門家との真剣な議論から得られる解釈など、現在のAIが持っていない重要な情報も少なくありません。
さらに、「躊躇しない行動」には、上長や意思決定者、協力を求める社外パートナーらと議論し、協力を引き出すことも含まれます。
その際、AIから説得方法に関する情報を得れば、これまでよりも説得力のある提案はできるでしょう。
しかし、対象となる人にはためらわずに会いに行き、協力や決断を妨げている要因を聞き出し、説得するという行動がなければ、関係者を動かすことはできません。
企画書を書いて上長に提出するだけでは、これまでの延長線上にない革新的なアイデアに向けて、人を動かすことはできないのです。 つまり、AIでイノベーターを育てるカギは、優れた答えを出させることだけではありません。AIを使って新たな視点や「次に誰に会い、何を確かめるべきか」を具体化し、それを実際の行動につなげることです。大手製造業3社の調査から見えてきた「社員を動かす」条件とは、AIに思考を任せることではなく、AIを起点に人間の執念、知見、そして躊躇(ちゅうちょ)しない行動を引き出すことだと言えるでしょう。 【次ページ】 AIプロンプトが社員を動かした意外な理由
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