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  • 2023/11/01 掲載

DX最強企業の清水建設、立ち上げた新拠点の“中途半端な設備”が面白い効果を生むワケ

連載:第4次産業革命のビジネス実務論

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2024年に創業220年を迎える清水建設は、2021年から3年連続で経産省が認定する「DX銘柄」に選ばれるなど、建設業界では先進的にDXに取り組む企業としても知られています。そんな同社は2023年9月、イノベーションの創出と人財育成を目的とした新拠点「温故創新の森(Smart Innovation Ecosystem) NOVARE(ノヴァーレ)」(東京都江東区)を立ち上げ、運用を開始しました。同施設の設備には、イノベーションを促すあらゆる工夫が施されています。今回は、DX先進企業の清水建設ならではの超独特な施設に迫ります。

執筆:東芝 福本 勲

執筆:東芝 福本 勲

東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト
アルファコンパス 代表
中小企業診断士、PMP(Project Management Professional)
1990年3月 早稲田大学大学院修士課程(機械工学)修了。1990年に東芝に入社後、製造業向けSCM、ERP、CRM、インダストリアルIoTなどのソリューション事業立ち上げやマーケティングに携わり、現在はインダストリアルIoT、デジタル事業の企画・マーケティング・エバンジェリスト活動などを担うとともに、オウンドメディア「DiGiTAL CONVENTiON」の編集長をつとめる。主な著書に『デジタル・プラットフォーム解体新書』(共著:近代科学社)、『デジタルファースト・ソサエティ』(共著:日刊工業新聞社)、『製造業DX - EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略』(近代科学社Digital)がある。その他Webコラムなどの執筆や講演など多数。また、企業のデジタル化(DX)の支援/推進を行うコアコンセプト・テクノロジーなどのアドバイザーをつとめている。

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温故創新の森 NOVARE 外観
(筆者撮影)

清水建設が「DX銘柄」に3年連続認定のワケ

 清水建設は、経産省の「DX銘柄」に2021年、2022年、2023年と3年連続で選定されています。建設業界において3年連続でDX銘柄に選定された企業は清水建設のみです。

 DX銘柄2023への選定においては、清水建設の下記の点など高く評価されたようです。

■「DX銘柄2023」における評価ポイント(一部抜粋)
  • 既存事業および新規事業の両面において、バランスの取れたDX施策を実践している
  • DX推進人財の活用について、社内人財の育成だけでなく、アドバイザーやキャリア採用を行うなど、柔軟性を持った組織体制づくりに取り組んでいる
  • さまざまな媒体を活用し、積極的な情報発信を継続的に行っている

 同社がDX銘柄に選定されたのには2つの理由が考えられます。1つ目は、DX戦略がトップダウンで末端まで浸透している点、2つ目は清水建設が従来から得意としていたビルなどの建物の建設領域だけでなく、非建設領域の取り組みも進めてきた点などが挙げられます。ここからは、清水建設のDXへの取り組みの方針について見ていきます。

清水建設「デジタル戦略」の3つの柱

生成AIで1分にまとめた動画
 清水建設は2030年を見据えた長期ビジョン「SHIMZ VISION 2030」において、時代を先取りする価値を創造する「スマートイノベーションカンパニー」を、目指すべき企業像として掲げています。この背景には、新型コロナの影響などもあり、建物の在り方も大きく変わってきており、建設業にもイノベーションが求められるという考えがあります。

 2020年の新型コロナの感染拡大以降、企業の業務内容・プロセスの見直しが進む中で、デジタル技術を活用した事業・業務変革により、顧客や社会のニーズに応えられる体制づくりが求められるようになりました。また、建設業界においてはスマートシティなど、デジタルな空間やサービスを提供することが新しい街づくりのキーコンセプトとなっていきました。そうした中で、清水建設はデジタル戦略の見直しを行い、中期デジタル戦略2020「Shimz デジタルゼネコン」を策定しました。

 デジタルゼネコンの3つの柱は、「ものづくりをデジタルで」「ものづくりを支えるデジタル」「デジタルな空間・サービスを提供」です。この中で特に他社との差別化のポイントとなるのが新たな取り組み「デジタルな空間・サービスを提供」になります。

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清水建設のデジタル戦略
(提供:清水建設)

 この「デジタルな空間・サービスを提供」という1つの柱の実践の場として、今回、新拠点「温故創新の森(Smart Innovation Ecosystem) NOVARE(ノヴァーレ)」が立ち上げられました。

「温故創新の森 NOVARE」とは何か?

 温故創新の NOVAREは、イノベーション推進の場、社会とのコミュニケーションを図る場として設立されました。

 イノベーションカンパニーという「言葉」だけを経営トップが語っただけでは組織の末端まで変わることは難しいかもしれません。しかし、清水建設では、温故創新の森 NOVAREを立ち上げ、イノベーションカンパニーに向かうための思いをすべての従業員やパートナー、顧客などに伝えるための場としての役割を同施設に託しているのです。

 ここで言う「イノベーション」には、「事業構造のイノベーション」「技術のイノベーション」「人財のイノベーション」の3つの要素が含まれています。

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温故創新の森 NOVARE設立の狙い
(提供:清水建設)

 この施設のキーワードは「温故創新」という造語です。似た言葉である「温故知新」の意味は「故きを温ねて新しきを知る」ですが、この、「知」を「創」に変えることで、清水建設の歴史に裏打ちされた匠の技などを生かしながらイノベーションを起こすという意味を持たせています。

 「森」は「Ecosystem(エコシステム)」を意味しています。温故創新の森 NOVAREの実際の環境は植栽に囲まれており、環境に優しい森のイメージを感じますが、この言葉にはそこを流れる水や風のような外部のプレイヤーとの連携、さらに、土台としての清水建設が培ってきた伝統や技術などの融合に向けた思いが含まれます。

 温故創新の森 NOVAREでは、2023年9月に、「NOVARE Hub(ノヴァーレハブ)」、「NOVARE Academy(ものづくり至誠塾)」、「NOVARE Lab(技術研究所潮見ラボ)」の3つの建物が運用を開始しました。創業220年を迎える2024年春には、「NOVARE Archives(清水建設歴史資料館)」、「旧渋沢邸」の稼働が予定されています。

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温故創新の森 NOVAREの全景
(提供:清水建設)

「温故創新の森 NOVARE」設立の狙い

 清水建設は、温故創新の森 NOVAREという場を活用し、多様なパートナーとの共創、建設事業の枠を超えた活動の実践、社会の発展に貢献できる人財の育成を目指すとしています。また、新たなイノベーション・人財育成拠点の開設にあたり、拠点運営を担う部門組織「NOVARE」を新設しています。

 以前から、イノベーション推進活動に取り組んできた清水建設は、これまで進めてきた多様な取り組みを「全員参加型のイノベーション」としてさらに活性化させることを目指しており、その役割を組織としてのNOVAREが担うことになります。

 組織としてのNOVAREには、技術研究所の中で社外技術の活用や社内技術の展開など、技術を核とした事業創出を担ってきた組織ミッションが移管され、場としての温故創新の森 NOVAREのイノベーション機能の中核となるイノベーションセンターとして再編されました。

 清水建設は、イノベーションのプロセスを、4つの段階を繰り返し行うことだと定義しています。そのプロセスは下記の4つにあり、この(頭文字をとった)DDRSプロセスが繰り返されることが重要であるとしています。

■イノベーションを起こすための「DDRSプロセス」
  1. (1)Discover(ディスカバー):課題の発見
  2. (2)Define(ディファイン):仮説の立案
  3. (3)Refine(リファイン):検証と実践
  4. (4)Scale(スケール):社会実装

 NOVARE Hubは、このDDRSのつながりが、イノベーションプロセスとして落とし込まれた空間構成となっています。

 そんなNOVARE Hubでは産学共同プロジェクトや起業家とのイノベーションなど、さまざまなイノベーションがすでにはじまっています。

 清水建設は、ベンチャー企業の立ち上げ支援を目指し、アクセラレータープログラム「SHIMZ NEXT」を推進しており、2022年11月から参加スタートアップ企業の募集を開始しています。

 具体的に本プログラムでは、事業テーマとして「建設・まちづくり」「レジリエンス」「環境・エネルギー」を設定し、海外の36社を含む計79社のスタートアップから応募を得て、「建設・まちづくり分野」の9社、「レジリエンス分野」の1社、「環境・エネルギー分野」の6社をパートナー企業として選出しています。

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イノベーションの活性化に向けた取り組み
(提供:清水建設)

 清水建設社内でも、コーポレートベンチャーの立ち上げを目指した社内公募などを推進しています。それでは、具体的に温故創新の森 NOVAREの施設の中身はどのようなものになっているのでしょうか。 【次ページ】不規則さがこだわり? 創造性を駆り立てる“独特な施設”

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