• 2025/06/18 掲載

実データ不要でAIロボット開発「40倍」高速化、NVIDIA「Cosmos-Transfer1」のヤバさ

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AIの次のフロンティアとして注目されるロボティクスと自動運転分野だが、データ不足という大きな課題に直面している。これに対しNVIDIAは人工データによるソリューションを提唱し、「Cosmos-Transfer1」という新モデルを発表した。単純な3D情報から写実的な映像を生成し、ロボット学習の効率を劇的に向上させるAIモデルだ。これにより、物体の把握から複雑な動作、またエッジケースを含む多様な状況に対応できるAIシステムの開発が加速することが期待される。NVIDIAはこのモデルをオープンソース化することで、物理AIエコシステムの拡大を狙う。
執筆:細谷 元

細谷 元

バークリー音大提携校で2年間ジャズ/音楽理論を学ぶ。その後、通訳・翻訳者を経て24歳で大学入学。学部では国際関係、修士では英大学院で経済・政治・哲学を専攻。国内コンサルティング会社、シンガポールの日系通信社を経てLivit参画。興味分野は、メディアテクノロジーの進化と社会変化。2014〜15年頃テックメディアの立ち上げにあたり、ドローンの可能性を模索。ドローンレース・ドバイ世界大会に選手として出場。現在、音楽制作ソフト、3Dソフト、ゲームエンジンを活用した「リアルタイム・プロダクション」の実験的取り組みでVRコンテンツを制作、英語圏の視聴者向けに配信。YouTubeではVR動画単体で再生150万回以上を達成。最近購入したSony a7s3を活用した映像制作も実施中。
http://livit.media/

  構成:ビジネス+IT編集部
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NVIDIAのジェンスン・フアンCEO
(Photo: jamesonwu1972 / Shutterstock.com)

ロボティクス、自動運転車の開発におけるこれまでの課題

 生成AIの活用によるロボティクスや自動運転技術の開発加速が期待されるところだが、大きなボトルネックが存在する。データ不足だ。

 ロボットや自動運転システムは、その精度を高める上で、周辺環境のさまざまな状況に対応する学習が必要となる。特に重要なのがエッジケースと呼ばれる例外的な状況への対応だ。テスラが2025年に自社工場での稼働を予定する人型ロボット「オプティマス」や、アマゾンがすでに75万台以上導入している倉庫用ロボットなど、実用段階に入りつつある産業用ロボットの開発現場でも、この課題は顕在化している。

 最大の難関は、AIロボットに「一般化」能力を身につけさせること。特定タスク用のデータセットでトレーニングを行い、未経験のタスクにも対応させることが求められる。たとえば、衣類をたたむ作業を明示的に学習させなくても、乾燥機から衣類を取り出してたたむといった複合タスクをこなせるロボットの開発がロボットスタートアップPhysical Intelligenceによって進められているという。

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Physical Intelligenceが開発するロボット

 しかし、こうした汎用性の高いロボットの開発には、膨大な学習データが必要となる。実際の環境で多様なデータを収集するのは、時間とコストの両面で大きな負担であり、開発プロジェクトが滞る要因になっている。特に人型ロボットのような複雑なシステムでは、その動作の多様性から、さらに大量のデータが求められる状況だ。

 この課題に対し、NVIDIAは人工データ/シミュレーション技術の活用を提唱する。実データの収集に伴う課題を解決することで、ロボティクスや自動運転技術の開発を加速し、自社のハードウェア需要を高めるのが狙いだ。

NVIDIAの戦略、Omniverseによるアプローチとその可能性

 NVIDIAのシミュレーション技術の集大成と呼べるのが「Omniverse」と呼ばれるデジタルツインプラットフォーム。これは実世界の環境や施設をバーチャル空間に再現し、その中でロボットやAIシステムの学習・検証を行う技術基盤となる。

 2025年3月末に「Mega NVIDIA Omniverse Blueprint」のプレビュー版がリリースされ、製造業やサプライチェーン分野の企業が活用を開始している。この技術を導入したアクセンチュアやシェフラーは、Agility Roboticsの人型ロボット「Digit」のシミュレーションを実施。複雑な生産環境における人間とロボットの協働、施設レイアウトや物流の最適化などを仮想空間で検証中という。

 デジタルツインは物理的に正確な仮想レプリカであり、ロボットや自律型フリートの相互作用、協働、複雑なタスク処理の方法を実際の展開前にシミュレーションし検証するための重要な実験場として機能する。開発者はNVIDIA OmniverseプラットフォームとUniversal Scene Description(OpenUSD)フレームワークを使用して、施設やプロセスのデジタルツインを開発できる。このシミュレーションファーストのアプローチにより、開発サイクルが劇的に加速され、実世界でのテストに関連するコストとリスクが削減されるのだ。

 NVIDIAのGTCで発表されたIsaac GR00T Blueprintも、Omniverseを核としたソリューションだ。同社のジェンスン・フアンCEOが明らかにしたように、わずか11時間で78万件の合成軌道(人間の実演データ換算で約6500時間、9カ月分に相当)の生成に成功。これを実データと組み合わせることで、GR00T N1の性能を40%向上させている。

 また、NVIDIAはゼネラルモーターズとも包括的な提携を結び、工場のデジタル化や次世代の自動運転システムの開発を推進しているが、ここでもOmniverseが活用されている。生産ラインのデジタルツインを作成することで、ダウンタイムを削減するためのバーチャルテストや生産シミュレーション、製造の安全性と効率性の向上を目指す。

 こうした仮想環境でのシミュレーションによって、実世界のデータ収集に伴う時間とコストの問題は大幅に軽減する。しかし、まだ課題は残る。いかに仮想空間をより「現実」に近づけ、生成したデータの質と多様性を高めるかという課題だ。 【次ページ】Transfer1による変革、人工データのスケーリングを加速
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