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- 2025/12/26 掲載
TSMC熊本は本当にフル稼働するのか、1兆円計画で誰も語らない現実
なぜTSMC熊本に「1.2兆円」が必要だったのか
世界最大の半導体受託製造企業(ファウンドリー)であるTSMCは熊本県菊陽町で、日本初の量産拠点を立ち上げた。2021年11月に正式発表され、運営会社として子会社のJapan Advanced Semiconductor Manufacturing(JASM)が設立された。JASMの出資比率はTSMCが過半を占め、ソニーグループ、デンソー、トヨタ自動車が参画している。熊本工場は車載・産業向け半導体を主用途とし、22/28nm(ナノメートル)や12/16nmといった成熟プロセスを中心に生産する計画として位置づけられてきた。トヨタが第2工場への参画を発表した際の資料でも、22/28nmを含む複数世代のプロセスが対象と明記されている。
政府が強調する支援理由は「経済安全保障」だ。新型コロナウイルス禍以降、半導体供給の不安定化は自動車や産業機械の生産停止を招き、日本の製造業に深刻な影響を与えた。
こうした反省から、国内に一定の生産能力を確保することが政策目標として掲げられた。経済産業省はJASM第1工場の計画を認定し、最大助成額を5,000億円とする方針を示している。
一方で、第1工場で生産される成熟プロセス半導体について、当初想定ほどの需要が見込めていないとの報道も出始めている。車載半導体市場は2022~2023年の供給不足を経て調整局面に入り、一部の顧客では在庫積み上がりが指摘されている。関係者の間では「量産開始後もフル稼働が前提とは言い切れない」との見方が広がる。
TSMC側は公式に需要減速を認めてはいないものの、グローバルでは成熟プロセスの稼働率低下が指摘されており、熊本もその影響を免れない可能性がある。供給不足を前提に設計された政策が、市況変化にどこまで耐えられるかが試されている。
第2工場に「最大7,320億円」 累計1兆円超の意味
政府は2024年2月、JASMの第2工場計画に対し、最大7,320億円の補助金を交付する方針を発表した。第1工場の最大5,000億円と合わせると、公的支援は最大1兆2,320億円となる。第2工場は2024年10月に建設を開始したが、その後、当初計画の一部を見直す動きが明らかになっている。市場環境の変化や需要見通しを踏まえ、量産開始時期や導入プロセスの構成について再検討が行われているとされる。
海外メディアでは、第2工場について4nm級プロセスへのアップグレードをTSMCが検討している可能性があるとの報道も出た。仮に先端化が進めば、日本にとっては技術水準向上の機会となる一方、EUV露光装置など追加投資が必要となり、コストとリスクは増す。
補助金がここまで膨らんだ背景には、日本がTSMCのグローバル投資計画の中で優先順位を確保したいという思惑がある。ただ、計画変更が常態化すれば、補助金設計そのものの妥当性が改めて問われることになる。
【次ページ】日本の製造現場は何を得たのか? その波及効果
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