- 2025/07/23 掲載
ロボット導入は冷蔵庫と同じ? 使いやすさと導入容易性が中小企業の現場を変える
フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。
大型家電購入時の考慮点
家庭に冷蔵庫のような大型家電を導入する際には、いくつか押さえておくべきポイントがある。まず確認すべきは設置スペースだ。本体サイズだけでなく、搬入経路の幅や高さはもちろん、扉の開き方や壁との干渉、放熱スペースも含めてチェックしておかなければならない。そして棚の配置や引き出しの開閉など、日常の使い勝手や使い方に合った構造かどうか確認する。キッチン内の動線の確認だけでなく、家庭の人数や生活スタイルに合った容量を選ぶことも重要だ。一人暮らしか、4人家族か、まとめ買いはするのか? それによって要件は変化する。
省エネ性能も重要である。冷蔵庫は常時稼働する家電であり、年間消費電力量が少ない機種を選ぶべきだ。脱臭機能や静音性など、快適さに繋がる機能も見逃せない。デザイン面も好みと合うにこしたことはない。
保証やアフターサービスの内容も確認しておくと安心だ。特に主要部品の保証期間や、修理対応の体制が整っているかは、とても重要だ。価格は、本体だけでなく、長期的な電気代やメンテナンス費用も含めて総合的に判断すべきである。見た目や一時的な割引に惑わされず、性能と信頼性を重視したい。
最後に、搬入や設置、不要家電の引き取り対応についても確認しておく。設置サービスやリサイクル費用が別途かかるケースもあるため、購入前に条件をしっかり把握しておく必要がある。これらを踏まえて検討すれば、後悔のない大型家電選びができる。
大型家電の購入は中小企業のロボット検討と似ている
「何の話をしているのか」と疑問に思った人も、すぐに「ははあ、そういうことか」とお気づきになった方もいると思う。大型家電の購入時に検討すべき内容は、中小企業のロボット検討と非常によく似ているのである。中小企業は、予算も現場スペースも限られている。まず、広くない現場にちゃんと導入できるのか、ちゃんと狙った動きができるのか。動かしはじめたあと、現場作業の邪魔にならないか。これらの事前検討はとても重要だ。
ロボットを導入して動かし始めたとしても、そもそもちゃんと使いこなせるかどうかという懸念を持つ会社の人も多い。ただでさえ人手不足である。ロボットの面倒を見るために割く人的リソースも潤沢ではない。だからアフターサポートが気になる人は多い。
ロボット導入は会社改革や新たなリクルートと直接的に繋がっていることも少なくない。「きれいな現場」や「かっこいい機材」は現場の環境そのものであり、人集めにおいても重要だ。
と、いうわけだ。つまるところ中小企業がロボット導入に踏み切れない理由は、
- 初期のトータルコスト
(ロボット本体 + インテグレーションコスト) - 運用・保守の不安
(人材不足による運用継続性への不安) - 個別業務への適合性
(既存工程の変更コストをかけずに導入可能なのかといった懸念) - 技術的知識やノウハウの不足
(人材育成コスト)
の4点に集約される。基本的に家電購入のときに検討するべき項目と同じだ。逆にいえば、これらの課題に対して家電のように「大丈夫です」とちゃんと答えられるメーカー、そしてシステムインテグレーターのような導入業者自体も、まだまだ不足しているということだ。
URは産業用ロボ市場への食い込みを目指す高速モデルを市場投入
中小企業だけに限った話ではないが、リスクアセスメントを行えば安全柵を使わずに運用できる協働ロボットは、省スペースで使える産業用ロボットとして使われることも多い。協働ロボットの動作速度は通常の産業用ロボットよりも遅いし、単品コストも高い。だが省スペースで運用できる。結局はトレードオフであり、何を優先すべきかなのだ。適したケースでは十分に戦力になる。
とは言っても、製造現場ではやはり速度は速いにこしたことはない。「遅い」というのは、協働ロボットの欠点としてよく挙げられる項目の一つだ。当然、この課題にも各メーカーそれぞれ対応しようとしている。
協働ロボットのパイオニアで最大手のユニバーサルロボットも、2025年5月に同社最速となる最大5m/sのTCP(ツール・センター・ポイントの略。アーム先端に付けるハンドの中心)速度を達成した「UR15」を発表し、市場に投入した。
動作中も安全機能は常時有効だ。単にTCPが速いだけではなく、手首軸の回転速度も速い。ワークの向きを変える姿勢変更作業などにおいて6倍以上の処理能力があり、サイクルタイムの短縮が可能だという。作業が速く終わることは電力量の削減にも直結する。
熟練が必要だった調整技術も簡単設定
さらに独自の「OptiMove(オプティムーブ)」という技術で、アーム軌道を最適化し、振動を抑えながら滑らかな動きを実現できる。「OptiMove」は2025年2月に投入されたソフトウェアで、安全機能の設定値を逸脱しない範囲のなかで、荷重や重心設定をもとに効率的な動作パラメータを自動算出する。
たとえば液体容器を搬送するような動きでも「OptiMove」を適用すると明らかに液面の揺れが減少する。従来は熟練技術者でも設定にはかなりの時間を必要とした作業だが、誰でも簡単に、スライダー一つでロボット各軸の効率的な動作条件を簡単に設定できる。余計な制動がなくなるので関節のギアへの負担も減り、ロボット自体の寿命も伸びる。
「UR15」は高速ロボットなのでサイクルタイム短縮も可能だ。7月に行われたメディア向け説明会で日本支社代表の山根剛氏は性能をアピールし、「非協働型のロボットの市場も取り込める」と見込みを語った。既に7月から出荷している。
ロボットの構想を簡単にするシミュレーションツール「UR Studio」
このメディア発表会で、URは面白いツールを発表した。「UR Studio」というシミュレーション・サービスである。周辺機器も含めて実際の導入環境を模した動作環境を簡単にシミュレーンできるウェブアプリケーションだ。ユーザーはウェブ上からログインして、ブラウザで、ロボット本体や据えつけるための架台やテーブル、ワークなど、事前に用意されているデジタルアセットや設定をポチポチするだけで、大雑把な動作シミュレーションを行うことができる。視覚的な検証だけでなく、サイクルタイムのシミュレーションも行える。しかも無料で使える。
あくまで簡易シミュレーションとされているが、エンドエフェクタの選択や、加工機やパレットなどのデジタルアセットは一通り用意されているし、ピック&プレイス、パレタイジング、マシンテンディングやネジ締めなど簡単なアプリケーションは「テンプレート」として事前に用意されている。ロボットの動作範囲やリーチ、干渉、作業フロー、サイクルタイムの確認まで、レイアウト・動作の事前検証と可視化が一通り、サクッとできる。
そう、これを使えば「冷蔵庫を買ったけれど、おさまらなかった」、「入れてみたけどドアが壁や棚にあたってしまう」、「動線上の邪魔になる」といった課題を解消するための、事前検討が可能になるのだ。ロボットがどう動くのか、動けるのかは一目瞭然だ。現場導入前の設計だけでなく、導入のための意思決定を容易にするためのツールである。
繰り返しになるが、しかもこれはウェブ上で、無償で使えるのである。専用アプリケーションをインストールする必要すらない。実際にアクセスしてみることをおすすめする。このようなツールはロボット導入の敷居を下げるためにとても有効だと思う。
「UR Studio」は簡易シミュレーションではあるが、2024年末にリリースされた新しいOSである「Polyscope X」との連携を前提としており、作成したプログラムをそのまま実機にエクスポートすることも可能だ。 【次ページ】ユニバーサルロボットもAI活用、NVIDIAとも協業
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