- 2025/07/15 掲載
「もう待てない」ANAが仕掛けた“異例すぎる発表”に驚き……その裏に潜む「JALの影」
連載:北島幸司の航空業界トレンド
航空会社勤務歴を活かし、雑誌やWEBメディアで航空や旅に関する記事や連載コラムを執筆する航空ジャーナリスト。世界の航空の現場を取材し、内容をわかりやすく解説する。テレビ、ラジオの出演経験もあり、航空関係の講演を随時行っている。ブログ「Avian Wing」の他、エアラインなど取材対象の正式な許可を得たYouTube チャンネル「そらオヤジ組」も更新中。大阪府出身で航空ジャーナリスト協会に所属する。
ANAの新ビジネスクラスシート
ANAが今回“異例の発表”を行った舞台は、2025年6月16日~22日に開催された世界最大級の航空展示会「パリ航空ショー」である。偶数年のロンドン、奇数年のパリ開催で知られるこの国際見本市で、ANAはかつてない規模のプロダクト発表を行った。目玉は、新しいビジネスクラスシート「THE Room FX」だ。従来、超大型機であるボーイング777-300ERに搭載されていた「THE Room」に匹敵する快適性を、中型機クラスで実現する──そんな野心的な挑戦だ。
シート構造の薄型化で空間を最大化しつつ、クッション厚1.5倍・画面サイズ1.4倍の改良を加え、さらにタッチレスでモバイルバッテリーが給電できる装備も加えた。
最大の特徴は“ノン・リクライニング”である。シートが倒れなくても、体の移動だけでフルフラットな快適姿勢をとれる構造は、まるで自宅のリビングでソファに沈み込むような感覚だという。
この設計思想は、先行して同様のシート構造を採用したフィンエアーと酷似しているとの声もあるが、ANA側は「ゼロベースで独自開発した」と明言している。デザインは英アキュメン、製造は仏サフランと、欧州勢と連携して国際線使用機材に相応しい仕様とした。
ここまでのシートであれば、世界トップクラスのエアラインのプロダクトとして互角以上に戦っていけそうだが、今回注目すべきはその“発表の場”である。
通常は国内からの発信を基本とするANAが、世界の航空業界が注目する国際見本市を選んだ背景には、JALとの熾烈(しれつ)なプロダクト競争がある。JALが導入したA350-1000の新造フラッグシップ機に、既存機で真っ向から挑もうとする──その覚悟がにじむ戦略的な選択だ。 【次ページ】「もう待てない」と焦るANA……JALから“1年半もの遅れ”
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