• 2026/06/18 掲載

西武池袋線と東急東横線、つながってるのに“別世界”な訳…沿線が示す「稼ぎ方の差」(2/2)

連載:小林拓矢の鉄道トレンド最前線

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東急になく、西武にはある…路線構造に見る「決定的な違い」

 文化だけではない。両路線のビジネスモデルにおける最大の違いは、「有料特急」が走っているかどうかである。

 西武池袋線には、001系「Laview」を使用した特急「ちちぶ」「むさし」が走っている。「ちちぶ」は池袋から飯能を経由して西武秩父へ向かう観光・ビジネス特急であり、「むさし」は飯能までの通勤客を主な対象とする特急である。

 一方、東急東横線の特急は料金無料の通勤電車用車両を使用している。夕方時間帯の一部急行で「Qシート」という座席指定サービスを提供しているものの、西武のような有料特急とは性格が異なる。

 では、なぜ東急東横線には本格的な有料特急がないのか。その理由は、路線の長さを見ればわかりやすい。西武池袋線は池袋から飯能まで43.7km、さらに西武秩父までは76.8kmある。

 一方東急東横線は、渋谷から横浜まで24.2km、さらにその先のみなとみらい線を含めても28.3kmしかない。ちなみに西武池袋線では、池袋から所沢までが24.8km、小手指までが29.4kmである。

 つまり、東急東横線は短い路線なのである。通勤・通学客をメインにする東急東横線に対し、西武池袋線は通勤客だけでなく、長距離客や観光客の利用も考慮する路線だといえる。

 この違いは、ターミナル駅の構造にも表れている。東急東横線の渋谷駅は、折り返し列車こそあるものの、基本的には東京メトロ副都心線と直通する駅になっている。一方、西武池袋線の池袋駅は行き止まりの駅である。

 地下鉄に直通する列車もあるが、それは東京メトロ副都心線の池袋駅を通り、小竹向原から西武有楽町線に入り、練馬で西武池袋線に合流する。

 列車種別も対照的だ。東急東横線は基本的に「特急」「通勤特急」「急行」「各駅停車」というシンプルな構成である。これに対して西武池袋線は、「特急」「快速急行」「急行」「通勤急行」「快速」「通勤準急」「準急」「各駅停車」と細かく分かれている。

 西武池袋線では、ラッシュ時に急行系・快速系の種別を細かく使い分け、停車駅を振り分けることで混雑緩和を図っている。東急東横線では、そこまで細かく種別を分ける必要がない。

 短距離・高密度の都市路線である東急と、長距離・観光輸送も抱える西武。この違いが、鉄道のビジネスモデルにも表れているのである。

犬猿の仲だった西武と東急がつながった「2013年の出来事」

 どちらも鉄道を中心としながら、さまざまなところで因縁のある西武と東急。その両者の鉄道が、同じ広域ネットワークの中で本格的につながったのが、2013年3月のことだった。

 東京メトロ副都心線と東急東横線の相互直通運転が始まり、東急東横線、横浜高速鉄道みなとみらい線、東京メトロ副都心線、西武有楽町線・池袋線、東武東上線が1つの広域ネットワークとして結ばれたのである。

 これにより、東急東横線の線路に西武鉄道の車両が走り、西武池袋線の線路に東急電鉄の車両が走るようになった。

 さらに現在では、東京メトロ副都心線、相模鉄道、横浜高速鉄道みなとみらい線、東武東上線の車両も関係する。西武池袋線と東急東横線は、鉄道各社が相互乗り入れによって協力し合うことを象徴する路線になっている。

 ちなみに、この相互直通が始まった2013年当時の東京都知事は猪瀬直樹氏だった。猪瀬氏は西武を論じた『ミカドの肖像』、東急を論じた『土地の神話』の著者でもある。

 いずれにせよ、かつてのように競合し、対立する時代から、利用者の利便性と業務効率を重視して協調する時代となり、鉄道ビジネスの変化がこの2路線にははっきりと表れている。

 ただし、協力関係になったからといって、西武池袋線と東急東横線が似た路線になったわけではない。むしろ両者は、路線の性格も沿線文化も大きく異なっている。だからこそ、相互直通によってつながり、補い合うことは非常に合理的で興味深いのだ。

 両路線をまたがる座席指定列車としては「S-TRAIN」がある。平日は西武鉄道と東京メトロ有楽町線を行き来し、土休日には元町・中華街から横浜、渋谷を経由し、東京メトロ副都心線や西武池袋線などを通って西武秩父へ向かう。

 また「Fライナー」は、東急東横線では「特急」「通勤特急」の停車駅に停車し、西武池袋線では「快速急行」の停車駅に停まるという、速達性を重視した列車である。西武、メトロ、東急を行き来する中で、列車種別がこまめに変わっていくのも面白い。

西武と東急が象徴する、鉄道ビジネスの“変化”

 さらに最近では、東急電鉄の車両が西武鉄道に移籍し、「サステナ車両」として活用されようとしている。なお、これは東横線の車両ではなく、西武池袋線で使われるものでもないが、かつてライバルだった両者の関係が変わったことを示す象徴的な出来事ではある。

 渋谷から西武百貨店が消えようとしている一方で、西武と東急の鉄道は、いまも同じネットワークの中でつながり続けている。

 団地の多い西武池袋線と、ブランドタウンが連なる東急東横線。沿線文化もビジネスモデルも大きく異なる2路線が、東京メトロ副都心線を介して結ばれていることは、首都圏の鉄道ビジネスが「沿線を囲い込む時代」から、「広域ネットワークで価値を高める時代」へ移ってきたことを物語っていると言えるだろう。

 似ているからつながったのではない。違うからこそ、それぞれの強みを持ち寄る意味がある。西武池袋線と東急東横線の関係は、競争から協調へと変わった鉄道ビジネスの現在地を映しているのである。

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