• 2026/02/09 掲載

さえない西武、おしゃれ東急に完敗でも…住民がぞっこん「唯一無二」の居心地の秘密

連載:小林拓矢の鉄道トレンド最前線

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西武沿線に住んでいると、「最近ちょっと暮らしやすくなった」と感じる場面が増えていないだろうか。こども定期の値下げ、駅前の変化、親しみやすい車両、家族で出かけやすい施設の多さ──こうした変化の背景にあるのが、西武グループが進める「沿線に人を住み続けさせる」戦略だ。では、なぜ西武はこの方向に舵を切ったのか。その背景をたどると、「東急との古いライバル関係」に行き着く。東急が「おしゃれな街」のイメージを磨き上げる一方で、「おしゃれ路線」にはなれなかった西武は、どんな独自の生存戦略を描いたのか。
執筆:鉄道ライター 小林 拓矢

鉄道ライター 小林 拓矢

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。「東洋経済オンライン」「ITmedia」「マイナビニュース」などに執筆。Yahoo!ニュースエキスパート。単著に『京急 最新の凄い話』(KAWADE夢文庫)、『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)など。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)などがある。

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「西武は東急コンプ?」それでも独自のポジションを築けた、唯一無二の“西武の武器”
(Photo:picture cells / Shutterstock.com)

西武鉄道が仕掛けた「こども定期月500円」“破格”の理由

 西武グループは今、なりふり構わぬ勢いで「沿線住民の囲い込み」に動いている。その象徴と言えるのが、2026年3月に実施される運賃改定だ。

 その中身は、子育て世帯にとって衝撃的なものだった。小児IC運賃を一律50円にするだけでなく、小児通学定期を一律1カ月500円にするという。さらに驚くべきは、小児ICカード限定で、月額1,000円で西武全線が乗り放題となる「小児全線フリー定期券」の導入だ。これは大手私鉄初の試みである。

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【画像付き記事全文はこちら】西武鉄道が2026年3月14日から導入する小児向け新運賃施策
西武鉄道が2026年3月14日から導入する小児向け新運賃施策。小児IC運賃は一律50円、通学定期は月500円、全線フリー定期は月1,000円という“破格設定”が話題だ。

 西武鉄道では2010年から「こども応援プロジェクト」を立ち上げ、2023年には「西武鉄道キッズクラブ」を設立するなど、ファミリー層へのアプローチを続けてきた。そしてこの動きは、物価高に直面する現代人にとって、「ブランド沿線」よりも“現実的に得をする選択肢”として存在感を増しつつある。

 だが、ここで気になるのは、「なぜ西武だけが、ここまで踏み込めているのか」という点だ。物価高の影響を受けているのは、かつてのライバルである東急を含め、ほかの私鉄も同じである。

 特に西武と東急は、私鉄業界を代表するライバルだった。しかし、ある出来事をきっかけに西武は同じ土俵に立てなくなる。

 そこで西武は、同じ土俵で戦うことをやめ、「不利だった条件」をあえて武器に変える戦い方を選んだ。その選択が今、他社には真似できない“武器”として効き始めているのだ。西武が手に入れた、唯一無二の生存戦略とは何か。

東急になれなかった…西武が抱える「歴史的コンプレックス」

 西武グループは東急グループなどと同じく、鉄道事業と沿線開発をセットにしてビジネス展開した事業者として知られている。鉄道敷設と同時に住宅地開発、観光施設、商業施設を組み合わせることで乗客を創出し、沿線人口を増やす――いわゆる“私鉄型まちづくり”の原型を築いた存在だ。

 このモデルを牽引した象徴的な経営者が、西武グループの創業者・堤康次郎(通称「ピストル堤」)と、東急グループを率いた五島慶太(通称「強盗慶太」)である。

 「ピストル堤」「強盗慶太」はいずれも通称(綽名)として知られている。堤康次郎の「ピストル堤」は由来に諸説あるが、“ピストルが発射された場面でも動じなかった”とされる事件や、強引な事業手法を象徴する呼称として語られてきた。五島慶太の「強盗慶太」は、買収・合併を通じて事業拡大を進めた経緯と結びついた通称として、学術的にも言及されている。

 両者は鉄道敷設や沿線開発、観光地開発を巡って激しく競い合い、箱根エリアの開発をめぐる対立などを含め、戦前・戦後日本の私鉄史を語る上で欠かせない“ライバル関係”として現在もたびたび言及されている。

 しかし、その後の展開は大きく異なった。東急グループは五島慶太から五島昇にビジネスを継承し、鉄道・百貨店・不動産が一体となった「東急ブランド」を発展させ続けた。のちの二子玉川やたまプラーザに代表されるような、洗練された街づくりである。

 対する西武は、そうはいかなかった。堤康次郎の死後、グループ内の事業は兄弟間で分割される形となり、鉄道・不動産などの基幹事業は堤義明が、百貨店や流通事業は堤清二が主導する体制へと分かれていった。

 堤一族は兄弟が多く、仲良くまとまってやっていけばよかったのだが、そうはならなかった。堤清二が「西武流通グループ(後のセゾングループ)」を立ち上げて独立し、事業によっては本家である西武グループと競合さえするようになった。そしてセゾングループ自体も、やがて解体の時を迎える。

 本来、鉄道事業と流通(百貨店・スーパー)などの周辺事業は、相互に送客や需要創出を支え合う関係にある。しかし西武グループでは、こうした流通部門がグループ外に分かれる形となり、結果として東急グループのように鉄道、流通、都市開発が一体となった経営モデルとは異なる道を歩むことになった。

 こうした経緯もあり、現在の西武グループでは鉄道事業を中核とした経営方針がより明確に打ち出されている。鉄道を軸に据え、その魅力を高めることで沿線全体の価値向上につなげようとする姿勢がうかがえる。

 その方針は、車両デザインやサービス施策、駅周辺の再開発など、さまざまな場面に反映されている。その象徴的な事例の1つが、西武線の中核駅である所沢駅周辺だ。 【次ページ】所沢がその象徴、西武線の駅にやたら西友が多いワケ
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