• 2026/06/16 掲載

スペースX無双か、まさかの日本逆転か…「宇宙AIデータセンター」争奪戦の意外な行方(2/2)

連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤

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マスク氏もべゾス氏も次々参戦…最有望はやはり“あの企業”

 米国の宇宙データセンター計画をみると、ベゾス氏のProject Prometheus、グーグルのProject Suncatcher、エヌビディアのSpace-1 Vera Rubin Moduleなど有望プロジェクトが目白押しだ。

 中でも、マッキンゼー出身のフィリップ・ジョンソン氏が率いるスタートアップ スタークラウドは、2025年11月にエヌビディアのGPU「H100」5基を搭載した「1キロワット級ミニ宇宙データセンター」の軌道投入と試験運用に成功しており、注目だ。

 将来的に地上データセンターが排出する温暖化ガスの低減を目指すこのプロジェクトは、現時点ではデータセンターと呼べるものではない。あえて表現するなら、「演算可能なGPUを搭載した衛星」だ。しかし、いずれは8万8000基の衛星を打ち上げ、20ギガワット級のAI向け演算能力を提供する野心的な計画である。

 「本命」はなんといっても、次世代の計算基盤を宇宙に求めるスペースXの計画だ。

 同社は現在、その通信サービスであるStarlinkを提供するために1万400基近い衛星を運用しているが、低軌道データセンター計画においては、なんと100万基規模の衛星を配備するという。規模はスタークラウドの5倍に相当する100ギガワット級で、米国で現在利用されているデータセンター向け電力消費の2割がまかなえる。すでに、通信事業の規制監督を行う連邦通信委員会(FCC)に対して申請書を提出済みだ。

 スペースXの申請書によれば、太陽光発電データセンター衛星は「AIコンピューティング能力への高まる需要を満たす最も効率的な方法」であり、「太陽光をフル活用できるカルダシェフ・スケールのタイプII文明になるための第1歩」、かつ「惑星間で人類が複数の星にまたがる未来を確実にする」ためのものであるとの、大袈裟とも思える説明がついている。

 一方で、スペースXが米証券取引委員会(SEC)に提出した申請書は、より現実的だ。低軌道データセンターのリスク要因として、「軌道上でのAI向けコンピューティングおよび軌道上、月面、惑星間での産業化に向けた当社の取り組みは初期段階にあり、技術的に極めて複雑で、実証されていない技術が関わっており、商業的に実現できない可能性がある」と明記されている。

 技術的な問題をクリアしなければならないことに加えて、そもそも軌道上データセンターが構想された大きな理由である「経済性」「収益性」をいかに実現するかは、現時点では不明である。

 しかし、技術面におけるAI各社との協業や、低コストの衛星打ち上げのノウハウを蓄積したスペースXが、現時点で宇宙データセンター実現に最も近い位置にあることは確かであろう。

日本、中国も本気…米国勢脅かす「国家プロジェクト」級計画

 このようにAI先進国である米国では、スペースXなど有望プロジェクトが目白押しだが、国外には「強敵」が控えている。

 たとえば、日本の航空宇宙コンサルティング企業であるスペースブラスト。同社はJAXAの「軌道上データセンター構築技術」コンセプトに基づき、宇宙で生まれるデータを宇宙で処理し、その価値を地上へ届ける次世代インフラである「宇宙AIクラウド」実現に取り組んでいる。

 EUにおいても、クリーンエネルギーを研究するASCENDプロジェクトの一環として、ソブリンデータを強調した軌道上データセンター構想が進められている。この計画には、フランスの宇宙開発企業であるタレスアレニア・スペース(Thales Alenia Space)や、アラブ首長国連邦のスタートアップであるマダリ・スペースが参加している。

 しかし、最も注目されるのは、中国の準国家プロジェクトとして進められている北京軌道辰光科技の軌道上データセンター計画だろう。この計画は、84億ドル(約1兆3,352億円)の準備的な資金調達合意を得て動きだしており、米国のライバルと熾烈な競争を繰り広げることが予想される。北京軌道辰光科技は、2035年までの軌道上データセンター実用化を目指している。

さすがに無理?待ち受ける“課題まみれ”の現実

 大いに期待が高まる軌道上データセンターだが、採算が合わなければ実用化の可能性はない。ベゾス氏は2025年10月のイタリアTech Weekで、「運用コスト面で、宇宙データセンターは今後数十年で、地上のデータセンターよりも優位に立てる」と主張したが、特に根拠は示さなかった。

 「あと10年ほどで、宇宙でのデータセンター運用コストのほうが、地上より安くなる」と主張するセントラルフロリダ大学のフィル・メッツガー教授の試算もあるが、実際の経済性は未知である。

  一方、AIインフラのコスト削減方法として、高コストなGPUによる「学習」に代わり、低消費電力のシステム上で動作する「推論」に投資家が注目している。AIコンピューティングにおいて推論が主流となれば、低軌道データセンターのコストが劇的に下がり、ペイするビジネスになる可能性はあるだろう。

 技術的な問題も山積みだ。宇宙に存在するがゆえの維持管理や故障対応の困難さ、データ通信のセキュリティ問題、熱放出の効率化、軌道の混雑化や衛星同士の衝突予防、耐用期間後の宇宙ゴミの発生、宇宙空間における規制の適用など、一朝一夕には解決できない課題ばかりだ。

 とはいえ、旺盛なクラウド需要があり、地上でAIデータセンターが厄介者扱いを受ける中で、軌道上データセンターの研究や開発はさらに加速してゆくだろう。どのような新技術やイノベーションがもたらされるのか、目が離せない。

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