- 2026/08/13 06:50 掲載
世界最大級の訓練施設に突撃取材、ユナイテッド航空「世界一の組織」を作る人材育成術(2/2)
連載:北島幸司の航空業界トレンド
100年の歴史…経営危機など「失敗」も見せる深いワケ
今回の取材では、訓練施設内にあるユナイテッド航空を象徴するアーカイブも視察する機会を得た。世界最大のトレーニングセンターの中に、100年の歴史を伝えるアーカイブがあることは偶然ではない。技術を教えるだけでは企業文化は継承できない──そう考えた現役パイロットが1980年代に歴史財団を立ち上げたこと自体が、ユナイテッド航空の人材育成を象徴している。そこには創業以来の会社の歴史をはじめとして、制服、客室サービス用品、広告、機内誌、時刻表、模型、写真、さらには過去の経営資料まで数多く保存されている。
一見すると企業博物館のようにも見える。しかし、その役割は展示ではなく、教育にあるようだ。案内してくれたユナイテッド航空歴史財団社長のポール・グッドイヤー氏は、「歴史展示は過去を懐かしむためにあるのではありません。未来をつくるために学ぶものなのです」と話してくれた。
ユナイテッド航空は経営危機、業界再編、同業他社との統合を経験してきた。その成功だけではなく、失敗も含めて社員へ伝えている。だからこそ、「なぜ現在のルールがあるのか」「なぜ安全を最優先するのか」を全員が理解できるのである。
展示を見て驚かされるのは、数々の「世界初」を生み出してきたことだ。その1つがコンピューター予約システムである。グッドイヤー氏によれば、「1950年代にユナイテッド航空は世界でも先進的なコンピューター予約システムを導入しました」という。
後に発展する航空予約システムの原型であり、現在の航空業界の基盤を築いた技術の1つである。また、ハワイ路線の発展にも大きく貢献した。第2次世界大戦後から1980年代にかけて、米本土とハワイを結ぶ旅客の約80%をユナイテッド航空が輸送していた時期もあったという。
筆者が「最も心動かされた」展示
ヘリテージセンターを歩いていて、筆者が最も心を動かされた展示がある。それは、2010年に統合したコンチネンタル航空のコーナーである。鮮やかなオレンジ色の客室乗務員制服、ゴールデンテール時代のロゴ、機内サービス用品、社員バッジ、歴代制服などで棚は埋め尽くされていた。普通なら「吸収された会社」の歴史として倉庫へしまわれても不思議ではない。しかしユナイテッド航空は違った。統合した航空会社の歴史を消し去るのではなく、その文化や伝統を現在のユナイテッド航空を構成する重要な要素として保存し、公開しているのである。
グッドイヤー氏は歴史財団の役割について、「航空会社は統合を繰り返します。しかし、そのたびに企業文化や資料が失われてしまいます。だからこそ私たちは、それらを未来へ残さなければならないのです」と話した。
航空会社の歴史は、社名が変われば終わるものではない。そこで働いた社員、搭乗してくれた乗客、積み重ねてきた安全運航の経験、そのすべてが現在のユナイテッド航空を形づくっている。
グッドイヤー氏はツアーの最後に静かにこう語った。「父親も息子もユナイテッド航空職員です。私もユナイテッド航空が大好きです。だから歴史を守りたいのです」。この一言に、歴史財団の存在意義が凝縮されているように感じた。
過去の成功だけでなく失敗や統合の歴史まで受け入れ、それを次の世代へ受け継ぐ企業が強い。デンバーで見たヘリテージセンターは、単なる企業内博物館ではなかった。
社員が自らのルーツを学び、企業文化を未来へつなぐための「学びの場」であり、100年企業ユナイテッド航空のDNAを育み続ける「記憶の格納庫」だったのである。
最新鋭機への投資はもちろん重要である。しかし、それ以上に人への投資を惜しまない。訓練施設もアーカイブも、そのためのインフラなのである。
ANAにも通ずる「安全への価値観の高さ」
ユナイテッド航空はANAと太平洋路線で共同事業を展開し、長年にわたり密接な協力関係を築いてきた。今回の取材を通じて感じたのは、両社が共有している安全に対する価値観の高さである。ユナイテッド航空にはもう1つ特徴がある。歴史を教育へ積極的に活用している点である。過去の経験を教材とし、それを企業文化として受け継ぐ。その積み重ねが社員の判断力となり、組織全体の力となっている。ユナイテッド航空には、教育こそ最も利益率の高い投資であるという考え方が、会社全体に浸透している。
デンバーで目にしたトレーニングセンターとアーカイブは、その当たり前の事実を改めて教えてくれた。世界一の航空会社とは、最も多くの飛行機を持つ会社ではない。人を育て、その人が次の世代へ知識と文化を受け継いでいく仕組みを持つ会社こそが、本当の意味で世界一のエアラインなのである。
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