- 2026/09/07 06:50 掲載
【単独】パナソニックが今、70年の常識を自ら壊すワケ…新シェーバーに隠された覚悟(2/2)
連載:家電で読むメーカー戦略図鑑
壊れたから買う時代は終わる? 新市場をひらいた意外な需要
同社のシェーバー事業が70周年を迎えた2025年にはグローバルの累計出荷台数が2.4億台を突破し、グローバル展開も積極的に進めているところ。その尖兵となるのが、インバウンド顧客の購入比率が高いパームインシリーズである。新フラッグシップモデルとして開発された「ラムダッシュ パームイン PRO6枚刃」のコンセプトやターゲット層について、マーケティングを担当するパナソニック ビューティ・パーソナルケア事業 パーソナルブランドマネジメント部 パーソナル国内マーケティング課 主務の田中亨氏は次のように語る。
「従来のシェーバーは壊れたから買い替えるという方が大半でしたが、パームインはデザインが魅力的、自分の価値観に合うといった理由で、これまでシェーバーを探していなかった層やT字カミソリ派の方にも選んでいただいています」(田中氏)
さらに、女性から男性へのギフト需要という新しい市場もひらけたという。
「今回の6枚刃モデルは、これまで培ってきた手のひらサイズでの感動的な剃り味という『機能価値』と、持ったときやインテリアに馴染む『感性価値』を極限まで高めた製品です。身だしなみを整える時間を作業ではなく、暮らしの質や自分の気持ちを上げるスイッチのような特別な体験に変えていただきたいという思いで企画しました」(田中氏)
6枚刃を手のひらサイズに、フラッグシップ化への本気度
新モデルでは、グリップタイプの最上位機と同等の6枚刃ヘッドとリニアモーターをそのまま採用。ラインアップは、金属の冷涼感と圧倒的な質感を誇るアルミ削り出しの「METAL EDITION」2機種と、海水から抽出したミネラル成分を活用した三井化学の新素材「NAGORI」を採用した1機種(2色)を展開している。「METAL EDITIONは金属特有のヒヤッとした手触りや重厚感によって、自分にとって特別なこだわりの道具を持つ楽しさを感じていただくためにたどり着いたモデルです。一方でNAGORIモデルは、1つひとつ模様が異なり、洗面空間に優しく溶け込むパームインのアイコニックな価値を体現しています。お客さまの好みやライフスタイルに合わせて選んでいただけるよう、対照的な2つの世界観をご用意しました」(田中氏)
ラムダッシュシリーズはヒゲの状態に合わせて最適なパワーに自動制御する「ラムダッシュAI+」を搭載するが、新モデルはパームインシリーズとして初めてラムダッシュAI+の状態を光で知らせる「ナビLED」を搭載した。
シェービング中にヒゲの濃い場合はLEDがオレンジ色に、ヒゲが薄い場合は白色に光る。ゴミやホコリの量を検知してお知らせしてくれる掃除機の「クリーンセンサー」のように可視化してくれるので、より剃り残しのないシェービングができる。
全自動洗浄充電器まで作り直した、担当者が明かす異例のこだわり
METAL EDITIONの上位モデルには、新しく開発した専用の全自動洗浄充電器「パームインポッド」が同梱される。商品企画を担当するパナソニック ビューティ・パーソナルケア事業部 パーソナルブランドマネジメント部 メンズグルーミング商品企画課 主幹の池田建太氏は、パームインポッドについて次のように語る。
「最高の体験価値を持つパームインにしようというところから企画がスタートしました。ヒゲが濃い方ほど毎日の手入れは手間になりますし、メンテナンスの動線や洗面台での置き姿も含めて最高のものにしたいと考え、自動洗浄機の開発に踏み切りました」(池田氏)
従来のラムダッシュシリーズの全自動洗浄充電器は本体を立てて挿す形状だったが、パームインポッドは本体を裏返して設置し、上からフタを閉める新構造を採用した。
「洗面台に置いたときの美しさを最優先しました。従来の形だと、本体の底面にある定格表示などが常に見えてしまい、洗面空間の美観を損ねてしまいます。フタで包み込む構造にすることで家電らしさを消し、さらにフタを閉めるという動作自体を洗浄スタートのトリガーにすることで、所作としての美しさも追求しました」(池田氏)
パームインポッドは、本体を裏返して設置し、洗浄ボタンを押してからフタを閉めることで洗浄がスタートする。従来のグリップタイプの場合、本体裏側に充電用の端子を備えているが、パームインの場合は本体のワイヤレス充電採用に合わせ、全自動洗浄充電器でも金属接点をなくしてワイヤレス充電に対応させたという。
開発を担当したパナソニック ビューティ・パーソナルケア事業部 パーソナル商品部 メンズ商品設計課 主任技師の永島唯哉氏は、パームインポッドの開発の苦労について明かした。
「10年以上大きなフォルムを変えていなかった洗浄機を、1から見直す作業は想像以上の苦労がありました。ファンやポンプといったコア部品をすべて小型化・刷新し、さらにフタの裏側にはワイヤレス充電用コイルも組み込んでいます。また、お客さまが手持ちの当社電気シェーバー用USB電源アダプターでどこでも使えるよう5V/1A(5W)の電力制限下で動作させる設計に挑みました。そのため乾燥時間は従来の約80分から約180分へと伸びましたが、生活リズムを考えれば大きなデメリットにはならず、洗面台で場所を取らないコンパクト化を何よりも優先しました」(永島氏)
このパームインポッドは別売(単体販売)も用意されている。
「NAGORIモデルをご購入された方や、最初は本体のみで買って後から洗浄の手間を省きたくなった方にも柔軟に対応できるよう、別売をご用意しました。お客さま自身が自分に必要な組み合わせを選択できるのも、今回のパームインの強みです」(田中氏)
先行予約段階では、「METAL EDITION」に強い引きがある一方で、質感の柔らかな「NAGORI」モデルと別売のパームインポッドを組み合わせて予約する購入者も現れるなど、狙い通りの広がりを見せているとのこと。
「自分を整える体験」を強化する、パナソニックの戦略
海外展開について池田氏は「地域によって濃淡がありますが、他にはなかなかないコンセプトの商品としてご好評いただいています」と語る。「台湾や韓国、中国、香港など、日本で流行っているものを積極的に取り入れてくれる国や地域で人気に火がつきました。電動シェーバーの市場規模が大きい欧州や米国でも徐々に火がつきつつある状況です」(池田氏)
田中氏は今後の展開について次のように言及した。
「パームインシリーズの価値はスペックだけではないと思っています。しっかり剃れるだけでなく、シェービングの楽しさや、剃る前後も含めた価値提供を引き続き追求し、新しい市場を創造していきたいと考えています」(田中氏)
最後に、開発に関わった3人に、今回の自信作をどのような体験として届けたいのかを聞いた。
「ヒゲを剃らなきゃいけないから剃るという義務感から、毎日のシェービングが楽しみになり、自分の気持ちにスイッチが入るような特別な時間へと変わる体験をお届けしたいです」(田中氏)
池田氏は、「私たちが今考え得る最高の価値を詰め込んだ製品です。ワイヤレス充電など、一部のスペックではグリップ型を上回る機能がこのサイズに凝縮されています」と自信を見せる。永島氏は開発過程を振り返りながらこう語った。
「金属筐体の削り出しは設計上非常に苦労しましたが、試作品が並んだときの格好よさには心から感動しました。手首の直感的な動きで肌を撫でるように剃る新しい体験を、こだわり派の方だけでなく若い世代も含めた多くの方に体感していただきたいです」(永島氏)
電気シェーバーの概念を塗り替えてきた「ラムダッシュ パームイン」。その新モデルは、単に6枚刃の深剃り性能を手のひらサイズに収めた製品ではない。男性美容市場が広がる中で、シェービングを「作業」から「自分を整える体験」へと変えようとする、パナソニックの戦略商品と言えるだろう。
2027年度にラムダッシュ パームインシリーズを同社シェーバーの販売金額の5割にするという目標は、決して小さくない。70年続くシェーバー事業で、パナソニックは“握って剃る”という当たり前をどこまで塗り替えられるのか。パームインは、その試金石になりそうだ。
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