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- 2023/11/21 掲載
日銀の利上げ時期がいよいよ確定か、賃金は大幅上昇?円高?そのあと何が起きるのか
【連載】エコノミスト藤代宏一の「金融政策徹底解剖」
2005年、第一生命保険入社。2008年、みずほ証券出向。2010年、第一生命経済研究所出向を経て、内閣府経済財政分析担当へ出向し、2年間「経済財政白書」の執筆、「月例経済報告」の作成を担当する。2012年に帰任し、その後第一生命保険より転籍。2015年4月より現職。2018年、参議院予算委員会調査室客員調査員を兼務。早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。担当領域は、金融市場全般。
利上げの前提となる物価の見通しはどうか
現在、物価上昇率は日銀の物価目標である2%を大幅に上回って推移している。日銀が10月31日に示した展望レポートによれば、物価見通しは2023年度がプラス2.8%、2024年度がプラス2.8%、2025年度がプラス1.7%であった。仮に予想どおりとなれば、日銀の物価目標である2%を3年連続で上回ることになる。植田総裁は物価上昇のメカニズムについて、輸入物価上昇を起点とするものを「第1の力」、賃金上昇を起点とするものを「第2の力」と表現している。
2023-24年度は「第1の力」による物価上昇、2025年はそのバトンが「第2の力」に引き継がれると見ているが、「第2の力」は物価上昇率を2%程度に維持するほど力強くはならないとの見立てである。それゆえ、日銀は緩和的な金融政策を継続するとしている。
マイナス金利を解除する場合の植田総裁からの説明
植田総裁は「2%の物価目標が安定的に見通せるようになるまでマイナス金利は解除しない」と繰り返している。仮にマイナス金利を解除する場合、植田総裁は「賃金・物価の持続的な上昇が見通せるようになった」と説明するだろうか。利上げについて筋の通った説明ができるか否か、それが中央銀行総裁として腕の見せ所になるのではないかと思う。仮に、為替対策や金融緩和の副作用に対処するための利上げであっても、政策金利引き上げそれ自体は賃金・物価に下押し圧力をかけるので、その合理的な説明が求められる。
0.1%ポイントという軽微な短期金利の引き上げが、実体経済に大きな影響を与えるとは考えにくいものの、それまでの説明とやや矛盾することもあって丁寧な説明が必要になる。筆者が想定する日銀の説明は、「緩和的な金融環境を長く続けるための利上げ」というもの。すなわち、第2の力が弱い中で、「金融緩和の持続性を高めるためにマイナス金利を解除する」という論法である。
これは7月のYCC柔軟化を決定した際にも使われていた。また日銀は「利上げをしても政策金利は中立金利以下である」との認識を示すと思われる。中立金利とは、景気やインフレを加速も減速もさせない金利水準のことであり、中央銀行が決定する政策金利が中立金利よりも低い状態にあれば、それを金融緩和と呼ぶ。
日銀は日本の中立金利がどれくらいであるか具体的数値を示していないが、政策金利が0%台前半であれば、多くの専門家が「現在の政策金利は中立金利以下である」と判断するだろう。 【次ページ】政策金利の連続的な引き上げが難しい理由
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