- 会員限定
- 2025/09/05 掲載
もう無視できない「原発の役割」、AI時代に取り残されている「謎ルール」とは
連載:小倉健一の最新ビジネストレンド
1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長。現在、イトモス研究所所長。著書に『週刊誌がなくなる日』など。
電力事業者が苦戦している「5年」の期限
日本のエネルギー政策は新たな段階に入った。関西電力は次世代革新炉の新設に向けた地質調査を開始し、九州電力もグループ経営ビジョン2035に次世代革新炉の開発検討を盛り込んだのだ。政府は2050年のカーボンニュートラル達成を掲げ、原子力の最大限活用を明確に打ち出している。東日本大震災のトラウマから事実上凍結されていた新規原子力発電所の建設は、現実的な選択肢として再浮上したわけだ。
しかし、電力各社が未来への投資に踏み出そうとする今、この歩みを阻害し得る巨大な岩盤が存在する。
それは、技術的な困難や資金的な問題ではない。「特定重大事故等対処施設」(通称「特重」(注))を巡る問題だ。
https://www.energia.co.jp/judging/gaiyou/pdf/gaiyou_h261126_1.pdf
特重は航空機衝突といったテロ攻撃に備えるためのバックアップ設備とされる。原子力発電所の再稼働や新設には、この設備の設置が義務付けられている。
この特重、特重の設計や工事に関する計画が認可されてから5年以内に設備を完成させなければならない、という期限設定がある。この「5年以内」という数字が、果たして確固たる科学的、技術的な根拠に基づく期限として適切であるのかは議論の余地があり、絶対的な拘束力を持つ規則として、これまでに電力事業者の首を締め上げてきた。
「間に合わない」場合はどうなる?
その例に漏れず、この期限に現在影響を受けているのが、東京電力柏崎刈羽原子力発電所7号機の稼働だ。東京電力は、特重の工事完了時期について「7号機の工事完了時期の見通しを2029年8月、6号機の工事完了時期の見通しを2031年9月」と正式に公表した。
しかし、「5年以内」という期限に照らし合わせると、7号機の設置期限は2025年10月であり、間に合わないことになる。再稼働がまたできないとなれば、エネルギー安定供給を揺るがしかねない。過去には、九州電力の川内原子力発電所1号機と2号機も、過去にこの5年ルールを守れず、2020年に一時停止に追い込まれた。その後、特重の整備を完了させた後に、ようやく再稼働が認められたわけだが、この例のように、規制が厳格に運用され、稼働に影響を及ぼすという前例は現に存在するのだ。 【次ページ】特重が抱える「矛盾」とは
エネルギー・電力のおすすめコンテンツ
エネルギー・電力の関連コンテンツ
PR
PR
PR