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  • 2025/09/26 掲載

欧州は「原発復活」だが…日本は?コスト面と脱炭素で「停止はいいことナシ」なワケ

連載:小倉健一の最新ビジネストレンド

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長らく脱原発を国是としてきた欧州各国で今、驚くべき政策転換が起きている。2022年のロシアによるウクライナ侵攻が引き金となり、ベルギーやスイスといった反原発の代表格が次々と原発回帰を表明しているのだ。背景にはエネルギー危機と気候目標達成への切迫した課題がある。理想を追求したドイツの脱原発が皮肉にも招いた結果とは何か。そして人工知能(AI)やデータセンターの急拡大で電力需要が激増する時代に、日本が学ぶべき教訓とは。プレジデント元編集長の小倉健一氏が解説する。
執筆:ITOMOS研究所所長 小倉 健一

ITOMOS研究所所長 小倉 健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長。現在、イトモス研究所所長。著書に『週刊誌がなくなる日』など。

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電力需要「急増」時代に原子力回帰の姿勢見せる欧州の動きとは
(Photo/Shutterstock.com)

実は「原発反対」だった欧州

 振り返れば、欧州は原子力への容認姿勢をもともと示していたわけではない。

 1970年代から1980年代にかけて欧州各地では、反核運動が広がった。冷戦下における核兵器への不安と原子力発電所の安全性への疑念が結びつき、国民世論は急速に反原発へ傾斜したのだった。決定的だったのは、1986年のチェルノブイリ事故だ。放射能汚染が国境を越えて拡散する恐怖を各国が共有した。

 スイスやベルギーは段階的な原子力依存の縮小を進め、ドイツは「エネルギーヴェンデ」(エネルギー大転換政策)と呼ばれる大規模なエネルギー転換政策を掲げた。イタリアは国民投票で原子力放棄を選択し、オーストラリアも新規導入に背を向けた。こうした流れの中で、原子力は環境的にも政治的にも忌避される対象となり、法制度によって将来的な廃止が既定路線とされた。

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ドイツでは大規模なエネルギー転換政策が掲げられていた
(Photo/Shutterstock.com)

 21世紀に入ると再生可能エネルギーの拡大が進み、風力や太陽光のコスト低下が議論を主導した。再生可能エネルギーが未来を担うとの楽観的見通しが広まり、核の役割は縮小し続けた。ドイツは2011年の福島事故を受けて脱原発を加速し、2023年に最後の原子炉を閉鎖した。ベルギーも2003年に制定された廃止法に基づき、2025年をめどにすべての原発を停止する計画を掲げた。欧州のエネルギー戦略は再生可能とガスの組み合わせに依存し、核の余地はどんどん縮小していった。

価値観が「大逆転」した「あの出来事」

 2022年のロシアによるウクライナ侵攻はこの構図を一変させた。ロシア産ガスへの依存が深刻な脆弱性として露呈し、代替調達を急いだ各国は石炭や液化天然ガスに傾斜した。その結果、電力価格は急騰し、供給不安が長期化した。従来の反原発国家であったベルギーやスイスでも、原子力を「信頼できるベースロード電源」として再評価する機運が高まった。再生可能エネルギーは重要な資源であるが、間欠性があるため需要の急増や価格変動を吸収できない弱点を抱える。輸入燃料に依存するリスクを減らす選択肢として、原子力が再び政治的議題の中心に戻ってきたのだ。

 欧州メディアはこの変化を「エネルギー安全保障と気候目標を両立するための必然的な政策転換」と位置付ける。Euronewsは「核は低炭素で豊富な電源であり、供給の安定、価格の制御、気候目標の達成を同時に可能にする」と伝えた。かつてイデオロギーの象徴であった脱原発政策は、地政学的危機と環境目標の板挟みに直面し、現実的対応として修正されつつある。 【次ページ】原子力「重視」は一時的じゃないと言えるワケ
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