- 2025/10/20 掲載
ゴールドマン予測「運転手より安くなる」、ソフトバンクやNVIDIAの自動運転の衝撃(2/2)
「次の1兆ドル企業」とNVIDIACEOが評価した企業とは
ソフトバンクの遠隔支援型アプローチと対照的な道を進むのが、英国スタートアップWayveだ。2025年9月、NVIDIAはWayveへの5億ドル(約735億円)規模の投資を検討する意向書を締結したことを発表した。この動きは、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOが英国に約束した20億ポンド(約4,000億円)のAI投資の一環となる。Wayveが注目を集める理由は、その独自の技術アプローチにある。従来の自動運転システムの多くは、高精細地図(HDマップ)を前提とし、センチメートル単位で道路の詳細を事前にマッピングする必要があった。
しかしWayveは、カメラやレーダーからのデータをAIが自己学習し、地図に依存せず走行する「地図いらず」の方式を採用したのだ。このエンドツーエンドのニューラルネットワークは、センサーから得たデータが直接運転判断に反映される仕組みとなっている。
このアプローチはテスラの戦略と類似しており、自動車メーカーにとって特に魅力的とされる。理由は明快で、特定のセンサーや地図に縛られないため、既存の車両に搭載されているカメラやレーダーをそのまま活用できるからだ。工事中の道路や地図が整備されていない地域でも柔軟に対応できるとして、期待を集めている。
技術の中核を支えるのが、NVIDIAの最新チップ「DRIVE AGX Thor」。Blackwellアーキテクチャを採用したこのシステムは、最大2000テラフロップスという圧倒的な演算性能を誇る。これは複数のカメラ映像、レーダーデータ、各種センサー情報を同時処理しながら、加速・制動・操舵について瞬時に判断を下すための計算能力に相当する。
WayveとNVIDIAのパートナーシップそのものは2018年に遡る。当初はNVIDIADRIVE PX2という比較的初期のプラットフォームから始まり、Wayveの全世代にわたってNVIDIA技術が採用されてきた。今回のGen 3プラットフォームは、レベル3(条件付運転自動化)からレベル4への進化を目指す野心的な試みとなる。
フアンCEO自身もロンドン中心部でWayve搭載車両に試乗し「次の1兆ドル企業」と評するなど、今後の開発動向が注目されている。
小松と塩尻で走り始めた自動運転バスの狙い
グローバルな技術競争が加速する一方、日本国内でもソフトバンクの取り組みを含め自動運転の実用化に向けた動きは着実に進展している。その先頭を走るのがTIER IVだ。同社は世界初のオープンソース自動運転ソフトウェア「Autoware」の開発元として知られ、2025年3月には石川県小松市で運行する自動運転バスがレベル4の認定を取得した。

この認定が対象とするのは、小松駅から小松空港までの全ルートと帰路の指定区間だ。道路運送車両法に基づくレベル4車両としての分類を受け、道路交通法の許可取得後には、定められた環境条件下で周囲の車両や歩行者を検知しながら自律走行できる。
この取り組みが始まったのは2022年8月。TIER IVは小松市、BOLDLY、アイサンテクノロジー、損保ジャパンと提携し、通年の自動運転バスサービス確立を目指した。北陸新幹線小松駅の開業に合わせ、駅と空港の接続性向上を図る狙いがあった。
2023年からAutowareを搭載したTIER IVのMinibusで運行を開始。損保ジャパンによる包括的リスク評価、アイサンテクノロジーの高精度3Dマッピング技術、BOLDLYの遠隔監視と車両管理が統合された。2024年3月には有料の通年サービスが始まり、2025年2月末までに1万8000人以上を輸送。自動運転による公共交通の需要と実現可能性を実証した。
また長野県塩尻市でも興味深い展開が見られる。2024年10月31日付でレベル4の車両認可を受けたTIER IVの自動運転バスが市内中心部で定常運行を開始(運行はレベル2)。LiDAR、カメラ、レーダーなどを搭載した電気自動車が東回りと西回りの2ルートを走行する取り組みが実施された(2025年9月26日まで)。

塩尻市の取り組みは地域との連携が特徴的だ。駅や商業施設を結ぶルート設定に加え、地元企業と協力したポイントキャンペーンやスタンプラリーを展開。住民が自動運転技術に親しむ機会を創出している。これは技術の社会受容性を高める上で重要な要素となる。
これらの事例が示すのは、完全自動運転への段階的なアプローチだ。ソフトバンクの遠隔支援型システムやWayveの地図不要技術を活用する日本独自の発展経路も見えてくる。地方の交通維持や高齢者の移動支援という社会課題の解決に向け、実用化への道筋は明確になってきている。
2030年、運転手より安くなる自動運転トラック──物流に迫る大転換
自動運転の普及は、移動手段の変化にとどまらず、産業構造そのものを変える可能性を秘める。ゴールドマン・サックス・リサーチは、米国におけるロボタクシーが2030年には約3万5000台に達し、年間70億ドルの収益を生み出すと予測。これはライドシェア市場の約8%に相当し、現在の1%未満から大幅な成長となる。2025年から2030年にかけて年平均成長率は約90%に達する見込みだ。
物流分野ではさらに劇的な変化が起きる。自動運転トラックの1マイル(約1.6キロ)当たりコストは、2025年の6.15ドルから2030年には1.89ドルまで低下する見通しだ。対照的に、人間が運転するトラックのコストは運転手の賃金上昇により2.61ドルから2.80ドルへ上昇。この逆転現象により、自動運転トラックは2030年に約2万5000台まで増加すると予測されている。
遠隔オペレーターの効率化も進む。遠隔オペレーターとは、自動運転車を直接操作するのではなく、複雑な状況や判断が難しい場面で仮想的な支援を提供する安全網のような存在。ソフトバンクのAITRASも、この遠隔支援システムの1つ。現在は1人のオペレーターが3台しか管理できないが、AIの進化により2030年には10台、2040年には35台まで拡大する見込みだ。人件費が削減されていくことで、完全無人化に向けたコストと安全性のバランスが取れていくシナリオが予想されている。
流通業界における運転手不足が深刻化する日本で、自動運転がもたらすインパクトは図りしれない。2024年に施行された残業規制により、国内輸送能力は2030年までに34%減少する見込みだ。トラックが貨物の約90%を運ぶ日本において、この危機は単なる物流問題ではなく、国民生活全体に関わる国家規模の問題。早急かつ根本的な解決が求められている。
この状況を打開するため、国土交通省は東京-大阪間に自動物流道路を建設する計画を発表。高速道路の中央分離帯に物流専用スペースを設け、クリーンエネルギーで動く無人搬送機器が24時間貨物を運ぶ構想を明らかにした。2027年から2028年に試験運用を開始し、2030年代半ばの本格稼働を目指すという。

スイスや英国も同様のシステムを計画しており、日本も物流自動化という世界の潮流に乗ることになる。技術の成熟とコストの低下、そして社会課題の深刻化。3つの要素が重なる今、自動運転は「未来の話」から「目の前の選択肢」になりつつある。
自動運転のおすすめコンテンツ
PR
PR
PR