• 2026/05/08 掲載

【独占】なぜ不動産業? 倒産寸前の桃谷順天館が「奇跡のV字回復」を遂げた4つの改革

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倒産寸前まで追い詰められながらも経営を立て直し、復活を遂げた老舗化粧品メーカー、桃谷順天館。ここ20年で売上は3倍以上に伸び、2025年11月期には過去最高の185億円超を記録した。代表取締役社長(5目社長)の桃谷 誠一郎氏はいかにして、倒産寸前だった経営を立て直したのか。当時の経営危機を描いた前編に続き、後編となる本稿では経営改善への取り組みについて紹介する。
聞き手・構成:編集部 井内 亨   執筆:ビジネスライター 和地 慎太郎(わち・しんたろう)

ビジネスライター 和地 慎太郎(わち・しんたろう)

東北大学大学院応用化学専攻修了。大手製造業を経て自治体に勤務し、大学での産学連携業務も経験。現在はビジネス分野を中心に取材・執筆。導入事例、記事広告、技術紹介、セミナー記事、SEO記事、法令解説記事などのほか、企業向けコンテンツ制作にも携わる。理系・技術職出身で、環境分野(脱炭素・廃棄物・水質)に強み。脱炭素アドバイザー(環境省認定)、公害防止管理者。著書に『ビジネス教養として知っておくべきカーボンニュートラル』(ソシム)。

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桃谷順天館 代表取締役社長 桃谷 誠一郎氏
東京理科大学 薬学部卒、薬剤師。慶應義塾大学大学院経営学修士課程(MBA)修了。1989年、桃谷順天館入社後、営業部・海外・経営企画室等を経て、1996年、代表取締役社長に就任。

(画像:桃谷順天館提供)

【改革1】まず手を付けた「人件費の是正」

 桃谷順天館はかつて、量販店の台頭による価格崩壊と広告費による利益の圧迫により、倒産寸前まで追い詰められた。売上の4~5倍にまで膨れ上がった借入を抱えた末、銀行が介入し、創業家は全員、会社を去ることを求められた。

 その後、経営状況が一向に改善されない中、一族の1人として呼び戻されたのが、現社長の桃谷氏だ。最悪の状態から、同氏は経営改善に向けた施策を次々と打ち出していく。

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【画像付き記事全文はこちら】
現在の工場で包装の仕上げを行っている作業風景
(画像:桃谷順天館提供)

 1996年、社長に就任した桃谷氏がまず取り組んだのが、人件費の是正であった。

 業績が悪化する中でも、研究員の給与水準は業界トップクラスのまま維持されていた。営業や工場で働く他の職種と比べても格差は明らかで、社内には職種間のヒエラルキーとも言える状況があったという。

「給料が高い研究員が白衣を着て一番上にいて、真ん中に営業がいて、一番下が現業員、つまり工場の人たち。まるでカースト制みたいなものが社内にあったんです」(桃谷氏)

 同社の研究所は、日本最古の化粧品専門研究所としての歴史と実績を持つ。優秀な研究者が集まり、同社の技術基盤を長年支えてきた中核組織でもある。しかし一部では、自社技術への自負の強さが外部への視点を鈍らせ、競合品の分析などの取り組みが十分に機能していない状況も見られた。

 こうした状況を打破するため、桃谷氏は管理職全員に年俸制を導入する。翌年の目標を自ら掲げさせ、その達成水準に応じて報酬を決める。結果が伴わなければ見直す。評価と報酬を直結させる仕組みによって、人件費の適正化と組織全体の意識改革を図ろうとしたのである。

「当時、年俸制を導入する企業は珍しかったと思いますが、業績に貢献する人を適正に評価すべきだと考えました」(桃谷氏)

 制度導入の翌年、目標未達の幹部層の給与は実際に引き下げられた。これを受け入れられなかった人たちは、自ら会社を去っていった。

「プライドの高い人は給料を下げると辞めるんですね。そして、その次の比較的若い人を所長にしました」

 結果として研究所の体制は大きく入れ替わる。その若い人材が責任あるポジションに就いたことで、桃谷社長の提案や意見にも耳を傾けてくれるようになり、外部動向にも目を向けた柔軟な研究開発が進み始めた。一方で、長年低賃金に甘んじていた工場作業員の給与は引き上げられ、組織内の給与格差は是正されていった。

【改革2】大阪から岡山へ…きれいな水を求めて「工場移転」

 年俸制の導入と並行して、桃谷氏が取り組んだのが工場の移転による抜本的な生産体制の見直しである。

 大阪市港区市岡にあった工場は70年以上の歴史を持ち、老朽化が進んでいた。生産効率を高めるためにラインを改修しようとすると、現行の消防法への対応が求められ、大幅な追加投資が必要となる。資金に余裕のない状況では、既存工場での設備刷新は現実的ではなかった。

 そこで桃谷氏は、ゼロから新たな生産体制を構築するため、工場移転を決断する。移転先の選定にあたって掲げた条件は、「水のきれいな場所」であった。化粧水をはじめとする製品づくりにおいて、水質は品質を左右する重要な要素である。

 全国を探し回った末に選んだのが岡山県和気郡和気町。清流・吉井川のほとりに位置し、上流には名水百選に選ばれた岩井の滝がある。その環境が決め手となった。

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岡山県和気郡和気町に建設された現工場
(画像:桃谷順天館提供)

 もう1つ重視したのが、人材である。既存の工場社員が通える距離にすることで、特にものづくりの真髄を知る特定のベテランを新工場でも生かしたいと考えた。日々クリームの状態を観察し、出来栄えを瞬時に見極めるような職人肌の社員は、欠かせない人材である。電車で2時間程度であれば往来が可能な範囲と判断した。

「職人さんっていうのは、口は悪いけど、いいもん作るんですよね。当時を思い出してみると、職人さんが毎日クリームの顔色を見てね、『今日はいい顔色してるからいいクリームできたで』みたいなことを言う人だったんですよ。毎日一緒じゃないことをわかっているんです」

 結果として、それぞれの事情から移転には同行しない社員も多かったが、一方で職人肌のベテランは岡山まで足を運んだ。

 岡山への移転により、最新の生産ラインを法令に沿って一から設計できるようになった。さらに地元で採用した若い社員が現場の中心となり、年功序列で膨らんでいた工場の人件費も大幅に削減された。職人肌のベテランと若手社員が力を合わせ、工場は新しく生まれ変わったのである。

「新しい考えの人たちと、新たな気持ちでものづくりができるようになりました」(桃谷氏) 【次ページ】【改革3】不動産業への参入
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