• 2026/05/08 掲載

【独占】なぜ不動産業? 倒産寸前の桃谷順天館が「奇跡のV字回復」を遂げた4つの改革(2/2)

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【改革3】不動産業への参入

 工場の移転は、生産体制の刷新にとどまらず、商売のかたちそのものを変えていった。

 かつての大阪工場は老朽化が進んでおり、バイヤーや取引先を積極的に招ける状態ではなかった。一方、新工場は清流のほとりという豊かな自然環境に最新設備を備える。2000年にはISO9001を取得し、品質管理の水準は大きく向上した。当時、この認証を持つ化粧品メーカーは業界でも珍しく、資生堂など一部の企業に限られていたという。

 こうした変化により、国内外から多くのバイヤーや取引先が訪れるようになり、取引は拡大していった。

「自信を持って、見に来てほしいと言える工場になりました」(桃谷氏)

 さらに副次的な効果も生まれた。大阪に残された広大な工場跡地である。都市部でこれだけの土地が空くことは珍しく、多方面から活用の相談が寄せられた。

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現在の大阪本社
(画像:桃谷順天館提供)
 最終的には、一部に本社機能を残し、残りの土地をスーパーに貸し出すこととなり、結果的には不動産業へ参入することとなる。この決断が資金繰りに与えたインパクトは計り知れなかった。

「問屋取引による手形回収が当たり前だったんですけども、不動産業というのは毎月安定して家賃が入ってくるので、資金繰りが一気に改善されました」(桃谷氏)

 手形は現金化までに時間がかかるが、不動産賃貸業では月末締めの現金収入。キャッシュフローは大幅に改善されることとなった。

【改革4】研究員の技術・意識を変えた「OEM事業の開始」

 さらに工場移転と並行して、同社は自社ブランドに加え、OEM事業にも注力する方針を打ち出した。新工場の稼働率を最大限に高めるため、外部からの受注を積極的に取り込む戦略である。

 OEMへの参入は、研究員にとっても大きな変化をもたらした。自社ブランドでは、商品は問屋やバイヤー、営業を経て顧客に届く。そのため売れ行きが伸びない場合でも、売り方に原因があるのではないかと考える余地があった。

 一方、OEMは発注元の要求に対し、研究員が直接応えるビジネスである。競合各社の研究員と技術力を競い、受注を勝ち取る必要がある。

「私は“他流試合”と呼んでいますが、他社に勝つことは売上になるだけでなく、研究者としての誇りにもつながります」(桃谷氏)

 さらに取り扱う商品の幅も広がった。量販店向けの自社ブランドは低価格帯が中心で、使用できる原材料には制約があった。一方、OEMでは高価格帯の商品も多く、それに見合った高品質な素材を採用できる。多様な価格帯の商品開発を通じて、研究員の技術と知見は大きく広がっていった。

 その効果は工場にも及んだ。OEM先の検品は厳格で、箱のわずかなシワや印刷のにじみ、リボンの結び方に至るまで細かい指摘が入る。その積み重ねが品質に対する意識を引き上げていった。

「さまざまな価格帯の商品を扱う中で、どんな商品でも手を抜かずに作ろうという意識に変わっていきました。その結果、常に高い品質を保てるようになりました」(桃谷氏)

 研究と工場の双方でレベルが底上げされ、その成果は自社ブランドにも還元されていった。品質と価格のバランスに優れた商品として口コミでも評価が高まり、大きな広告費をかけずとも売上が伸びる好循環が生まれた。

【まとめ】改革を完遂できた「経営術の秘密」

 数々の改革が実を結び、倒産寸前まで追い詰められていた経営はついに立て直された。長く苦しい時期を乗り越えた同社は現在、売上を着実に伸ばしながら成長を続けている。

 桃谷氏が改革を進める上で、常に立ち返ってきた価値観がある。「天に順(したが)い、人々に奉仕する」という意味を持つ「順天」の精神である。創業者がこの言葉を社名に込めて以来、その考え方は同社の根幹として受け継がれてきた。桃谷氏もまた、この精神を経営の軸に据え、社員に伝え続けている。

 その象徴が、創業以来140年以上にわたり売れ続けている「美顔水」である。にきびで悩む妻のために、創業者が当時の最高峰の西洋医学の知見を取り入れ、情熱を持って作り上げた製品である。

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1885年当時の美顔水の容器
(画像:桃谷順天館提供)

「目の前の1人のために、最高のものをつくる。こうした思いが込められているからこそ、時が経っても多くの人に使ってもらえるのだと思います」(桃谷氏)

 企業経営に浮き沈みはつきものである。好調なときに慢心せず、苦境にあっても諦めずにやり続ける。その積み重ねこそが、企業を長く存続させる力になると桃谷氏は語る。

 現在、同社では新たな挑戦も始まっている。1人ひとりの肌に向き合ったスキンケアを提供する新ブランド「シェフドボーテ」をリリースし、現在は自社で初となる旗艦店オープンに注力している。140年前、創業者が妻1人ために化粧水を作ったことがすべての出発点であったように、目の前の1人のために価値を届けるという原点は、これからも変わらない。

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