- 2026/05/22 掲載
「訴えるぞ」逆ギレ荷主も逃げられない…物流の常識「タダ働き」が消える法改正の威力(2/2)
連載:「日本の物流現場から」
運送も荷主も見落とす「隠れ付帯作業」とは
巷では、「最近、荷主・元請事業者に対し、荷待ち・荷役や付帯作業の有償化交渉が圧倒的にやりやすくなった」という運送会社からの声も聞こえてくるようになった。ここまで述べてきた「付帯作業等を無償で行わせることは、もはや許されない」という新たな商慣習が、荷主や元請事業者、そして運送会社に広まっているのだ。冒頭に挙げたエピソードに話を戻すと、棚入れを行っていた運送会社Cに対し、荷主Dがクレームを入れたのは、「これが発覚すれば、罰せられるのは荷主である当社である」という正しい危機感を抱いていたからである。
ちなみに、「基本的にはドライバーが着荷主に自ら棚入れを行うことを申し出ることはない」と書いたが、例外的にドライバーが自ら、あるいは望んで棚入れ等の付帯作業を行い、それを勤務先である運送会社側にも伝えないケースは、実際のところ散見される。
筆者がコンサルティング業務の一環として、勤務する全ドライバーに対してインタビューを行ったある運送会社では、店舗から強制されたわけでもなく自ら進んで棚入れを行っているドライバーが複数人いた。
いずれのドライバーも、「店舗側から感謝されるのがうれしかったから」と言っていた。また別のケースでは、配送先の店舗担当者に恋心を抱いたドライバーが、少しでも会話を行う時間を確保したくて、この店舗に対してのみ会社には隠して棚入れを行っていたケースもあった。
こういった隠れ付帯作業は、荷主側にとっては大きなリスクとなり得る。
先日、経団連は「『特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法』改正案等に対する意見」なる意見書を発表したが、その一節に「運送を受託した事業者の責めに帰すべき理由がある場合には、当該行為が規制対象に含まれない旨を明記すべき」とあるが、気持ちとしては理解できる。
荷主Bが言った『訴える』が示す「今までとの違い」
このように、(理由はどうあれ)「無償の付帯作業等を解消していこう」と意識を新たにする荷主・元請事業者もいるが、一方で相変わらず運送会社を「酷使して良い存在」として認識している荷主Bのような荷主・元請事業者もいる。荷主Bは、無償で棚入れを行わせて、これが直接的な原因となってドライバーが退職するという、運送会社からすれば看過しがたい損害まで被らせておきながら、逆ギレして運送会社側の責任を追及するという暴力的な行動を起こした。
ただし今までと違うのは、「業務不履行で訴える」と主張した点である。荷主・元請事業者が、運送会社に対して無償の付帯作業といった優越的な地位の濫用を乱発していたのは、「代わりの運送会社は見つけられる」、つまり運送会社が余っていたからである。
しかし今はどの運送会社もドライバー不足に悩んでおり、荷主・元請事業者も仕事を引き受けてくれる運送会社を探すことに苦労している。荷主Bも、こういった運送業界が現在直面している状況を知っているからこそ、裁判をちらつかせてまで運送会社Aを引き留めようとしているのだろう。
今の運送業界は、運送案件の量に対し、それを引き受ける運送会社側のリソース不足という、需要と供給の関係がアンバランスな状態にある。それに加え、法令改正が運送取引の正常化を強く後押ししようとしている。
荷主・元請事業者と運送会社のパワーバランスが逆転する必要はないが、「お互いに欠くことのできない対等なパートナー」という新たな関係が、今築かれようとしている。逆に、こういったマーケットの変化を理解できない事業者は退場してもらったほうが世の中のためになるだろう。
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