- 2026/07/28 06:50 掲載
政府後押しのフィジカルAI、国内44社結集でも…投資を空振りにしかねない「最大の壁」(2/3)
ソニー・ソフトバンク・NEC・ホンダなど44社が結集…2030年に誕生予定「現場で働くAI」
日本の現場データや産業知識をフィジカルAIの開発へどう生かすのか。そうした議論が進む中、具体的な取り組みとして注目を集めているのが、国産マルチモーダル基盤モデルの開発を担うNoetra(ノエトラ)だ。Noetraには、ソニーグループ、ソフトバンク、NEC、本田技研工業が中核企業として出資する。国産AIの開発企業や製造業なども参加し、出資企業は合計44社に上る。
Noetraと産業技術総合研究所は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」に採択され、研究開発を進める。
Noetraが担うのは、さまざまな分野のフィジカルAIを支える基盤モデルの開発だ。一方、産総研は国内外の研究者や研究機関と連携し、モデルに必要な先端技術を研究する。
経済産業省とNEDOも研究開発の進捗を確認し、必要に応じて方向性を見直しながら支援する。企業がモデル開発、研究機関が先端技術研究を担い、経産省とNEDOが事業を支援する体制となっている。骨太方針が、複数年度で予見可能な投資支援を掲げる背景には、こうした事情もある。
Noetraのように長期的な研究開発を必要とする事業は、日本成長戦略が複数年度で予見可能な投資支援を掲げる必要性を示す一例と言える。
Noetraが目指すのは、文章を生成するだけのAIではない。同社の開発戦略室を率いる岡野原大輔氏は、開発するAIを「実世界を見て丸ごと理解し、現場で働けるAI」と説明している。その実現に向け、推論基盤モデルと生成基盤モデルを並行して開発するとしている。
2026年度からは、高度な日本語理解、論理推論、指示遂行などの能力を備え、AIエージェントや言語処理の中核となる推論基盤モデルを順次構築予定だ。2028年度には、言語、画像、動画、音声を統合的に処理するオムニモーダル基盤モデルを開発するとしている。
さらに2030年度には、空間認識などの物理特性を理解し、実世界での利用を前提とする「実世界ネイティブAI」の実現を目指す。Noetraの丹波廣寅社長は、開発する基盤モデルを、ほかのAIをつくるための「教師」や「師匠」となるAIと表現している。
個別の工場やロボットごとにAIを開発するのではなく、さまざまな産業や用途へ応用できる共通基盤を構築する考えだ。
約2万7500基のNVIDIA製GPU、国産AIを支える巨大計算基盤
大規模な基盤モデルを開発するには、膨大な計算資源が必要になる。NoetraはNVIDIAの協力を受け、「NVIDIA Rubin GPU」を約2万7500基搭載するAI計算基盤を整備する計画だ。2027年4月に整備を始め、2028年6月から稼働させる予定としている。開発したモデルについても、研究開発や社会実装の状況を踏まえ、外部への提供や公開を順次進める。丹波氏は、海外モデル以外の選択肢を日本からつくり、安全・安心に利用できるモデルを年度ごとに公開していく考えを示している。
もっとも、ここで言う「国産AI」は、すべての技術を国内だけで賄うことを意味するわけではない。
計算基盤にはNVIDIAのGPUを採用し、産総研も海外の研究者や研究機関と連携する。海外の技術や研究知見を取り込みながら、日本の産業や現場に適したモデルを国内で構築する考えだ。
骨太方針も、「開かれたAI主権」を確立しながら、AI・データ基盤を整備する方針を掲げている。産総研は、英国、フランス、ドイツ、カナダ、米国、日本の研究者らと連携し、共同研究テーマを立ち上げる。その成果を、Noetraの基盤モデル開発へ生かしていく。
海外の研究知見を活用しつつ、日本の産業データや社会実装の基盤を国内に確保する。国産AIと国際連携は、必ずしも矛盾するものではないと言えるだろう。
ただし、Noetraが基盤モデルや計算環境を整備すれば、日本のフィジカルAI競争力が自動的に高まるわけではない。基盤モデルを現場で役立つAIへ育てるには、各企業が保有する設備や作業、製品に関するデータを、安全かつ継続的に学習へ生かす必要がある。むしろ、ここに日本企業が乗り越えるべき最大の壁がある。 【次ページ】日本企業がフィジカルAIで自滅しかねない致命的弱点
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