• 2026/09/08 06:50 掲載

ホンダ・BYDもズレてる?「SDVの価値」がユーザーに響かない…自動車業界の厳しい構造

連載:桃田健史のSDVトレンド最前線

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ユーザーにとってSDVの価値とは何か? 自動車メーカー各社はまだ、その方向性が定まっていない印象がある。製造プロセスにおいてSDV活用の話は数多いが、SDVを活用した商品として出口戦略が見えてこない。実際に試乗や取材を重ねると、メーカーが語る「クルマの価値」と、ユーザーが求める価値との間に無視できないズレが見えてきた。その根底にある、自動車業界ならではの業界構造とは何か、解説する。
執筆:ジャーナリスト 桃田 健史

ジャーナリスト 桃田 健史

桐蔭学園中学校・高等学校、東海大学工学部動力機械工学科卒業。専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

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SDVの価値とは何か、なぜユーザーとメーカーで認識がズレているのか。本稿で解説します
(Photo:Cobalt S-Elinoi・bella1105/Shutterstock.com)

【試乗もしてみた】BYD「世界初SDV軽」の実力

 「世界初、SDVによる軽自動車」。中国のBYDが都内で開催した新型軽EV「RACCO(ラッコ)」の発表記者会見で、そんなフレーズが出てきた。

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【画像3点付き記事全文(約4300字)はこちら】BYDの新型軽EV「RACCO(ラッコ)」
(出典:BYD HP

 ラッコは、海外メーカーが初めて日本固有の車両規格である軽自動車をBゼロベースで開発したモデルだ。合わせて、軽自動車市場で最もシェアの高いスーパートールワゴン(スーパーハイトワゴン)で唯一の軽EVであるため、ラッコは世間の注目を浴びている。

 そんなラッコに対して、BYDオートジャパンが打った営業戦略が、3つの「ラッコ楽」サービスだ。順に見ていく。

 1つ目が車両やバッテリーなどに対する軽トップクラスの新車保証だ。たとえば、走る・曲がる・止まるなど重要部品を含めた車両保証全般で6年/15万キロメートル。他社の3年または5年/6万キロまたは10万キロを凌ぐ手厚さが特徴である。

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BYDオートジャパンが打った営業戦略である3つの「ラッコ楽」サービス
(画像:本文をもとに生成AIで作成)

 2つ目が、据置型ローン。支払い期間5年間・均等払いで据置率50%の場合、ベースモデルの「ラッコ200」(メーカー希望小売価格:214万5,000円)で国からの購入補助金(CEV補助金補助金:15万円)を活用すると、月々の実質支払い額が1万9,300円と2万円を切る。

 そして3つ目が、「世界初、SDVによる軽自動車」。「ラッコは、購入後もOTA(Over The Air)で装備を(後に導入される)新車同等にアップデート」するとの説明だ。

 関連してOTA活用方法について他社との比較を示した。競合A社では更新不可、B社では「カーナビゲーションソフトの更新のみ」であるのに対して、ラッコは「車載SIMでソフトウェア更新可能」と競合他社に対する優位性を強調した。

 会見後、BYDオートジャパン関係者らと意見交換したが「SDV=クルマのスマホ化」といったカタチで、ラッコがユーザーの日常生活に溶け込んでいくことを期待していた。

 翌週には静岡県の富士スピードウェイホテルを基点に報道陣向けラッコの公道試乗会が開催され、愛らしい外観デザインからは想像できないガッシリと力強い乗り味を確認できた。一方で、OTAについては、ADAS、パワートレイン制御、インフォテインメント関連ソフトウェアなどが今後どのようにアップデートされるのかについての技術説明はなかった。
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いまだ見えてこない…? ユーザーにとっての「SDVの価値」

 ラッコに限らず、近年はほとんどの自動車メーカーが「SDVの価値」としてOTAの重要性を挙げている。ただし、「SDVの価値」はOTA前提であるとは言い切れない。

 ユーザーにとってのSDVとは、自動車メーカーが想定する「ユーザーにとってのクルマの価値向上」の手段の1つに過ぎず、その中にOTAが含まれると見るべきだ。

 ところが、自動車製造業のサプライチェーン関係者と意見交換していると、前述のBYDラッコのように、ハードウェアとしてのクルマの付加価値を維持し続けることを前提としてSDVを語る人が多い。

 ここでいうサプライチェーンとは、自動車メーカー(商品/製品企画、設計、量産開発、調達、製造等)、自動車部品メーカーなどを指す。

 たとえば、フォーミュラE世界選手権東京E-Prix(2026年7月25日、26日:東京お台場特設ストリートコース)に併催された、東京都主催の「TOKYO GX ACTION FAN VILLAGE」でのこと。自動車メーカーブースで話を聞いた、ADAS(先進運転支援システム)開発担当者は次のように話した。

「SDVには、大きく2つの側面があると思う。1つは製造側でのプロセスとして、もう1つがユーザーの体験価値としてだ」

 これを受けて筆者から「では、SDVを活用したユーザーの体験価値とは何か?」と聞くと、その答えは「ADASではOTAの活用が重要」という。さらに「ADAS機能以外の、SDVによるユーザーの体験価値」について問いかけても「担当外だ」として、会話の中身は一般論の範疇を超えなかった。

 こうしたやり取りは、SDVをめぐるメーカーとユーザーの認識のズレを象徴している。実際、ソニーホンダモビリティの「アフィーラ」やホンダの次世代EV「0シリーズ」でも、高度なADASや車内インフォテインメントなど技術面の進化は示されたものの、「クルマの価値」の再構築まで踏み込んだ内容とまでは言えないと感じた。

 その背景にあるのが、自動車メーカーとユーザーの間にディーラーが入る「製販分離」の構造だ。メーカーがユーザーと直接、接する機会は限られ、市場の声もディーラーなどを介して集めることが多い。この「遠い関係」のままでは、ユーザーが本当に求める価値をSDVに反映するのは難しい。

 SDVの本質は、単にOTAで機能を更新することではない。ユーザーや車両、地域社会から得られるデータを生かし、新たなサービスやビジネスにつなげることにある。その実現には、「SDVで何ができるか」を語るだけでなく、製販分離を含めた自動車業界の構造そのものを見直す議論が欠かせないだろう。
【次ページ】期待外れの声も…ソニーホンダ設立発表で感じた「物足りなさ」
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