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- 2021/06/07 掲載
「デジタルドル」は発行されるのか?現実化した場合の影響と課題
1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを歴任。一橋大学名誉教授。
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「デジタルドル」の検討が始まる
米連邦準備理事会(FRB)は5月20日、ドルの中央銀行デジタル通貨(CBDC)である「デジタルドル」の発行についての検討レポートを今年の夏に出すと発表した。パウエルFRB議長は、異例のビデオ声明で、「我々が最終的に(発行の可否について)どのような結論を出すにせよ、CBDCを巡る国際的な標準の策定にあたり、主導的な役割を果たすつもりだ」と述べた。
米国連邦政府もFRBもこれまで、デジタル通貨の発行について消極的な態度をとっていたので、このような報告書を出すこと自体が、大きな転換といえる。
実は「電子マネー後進国」の米国
中国では、アリペイやWeChat Payなどの電子マネーが極めて広範に普及している。ところが、米国には、それらに相当するような電子マネーは存在しない。キャッシュレスの手段としてはクレジットカードが古くから使われているが、これは、店舗が支払う手数料が高い。
米国では、PayPalが20年前から使われている。これは、ネット上の支払いにクレジットカードを使う場合に、その番号を相手に知らせなくても支払いができるようにしたものだ。米国では、ネット上の支払いにはごく普通の送金手段として使われるようになっている。ただし、クレジットカードのシステムを改良しただけのものであり、あまり革新的な技術とはいえない。
したがって、仮にデジタルドルが発行されることとなれば、米国のマネーの仕組みは大きく変わる。
「金融包摂」を重視するバイデン政権
上述のようなFRBの態度変更には、政権交代の影響もある。バイデン政権は、「ファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)」を重視している。これは、誰でも金融サービスを利用できることだ。
米国では、低所得層を中心に全世帯の5%が銀行口座を持っていない。CBDCが使えるようになれば、こうした人々も金融サービスにアクセスできることになる。
イエレン財務長官は、2021年2月に、「金融包摂は重要であり、CBDCはこれを改ぜんしうる」と発言した。
ブレイナードFRB理事も5月、デジタルドルは「いつでも銀行口座にアクセスできるようにするという課題への幅広い解決策の一部になり得る」と語っている。
【次ページ】デジタル人民元やデジタルユーロの動向は?
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