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- 2024/06/18 掲載
後回しにすれば「カオスな世界に…」、東大・杉山正和教授が説く「脱炭素の現在地」
Seizo Trendキーパーソンインタビュー
前編はこちら(この記事は後編です)
製造業も“貪欲”になるべき「組み合わせの妙」
以前のように業界全体が拡大基調なら、1つの分野にいても拡大の波に乗ることができ、それほど不自由なくビジネスは進展していきました。ですが、現在のようにあらゆる側面で限界が見え始め、パラダイムの組み換えが求められる時代では、そもそも業種の存在意義も問われており、新しいスタイルを模索しなければなりません。
一から何か新しいものを作り出すのは大変なことです。しかし何かを組み合わせれば、比較的容易に新しいものをつくることができるでしょう。その感覚や感性が、これまで以上に製造業でも問われることになると思います。
実は大学も状況は同様です。いまは学問の世界も単一領域をカバーする研究だけでは、この複雑な世の中に対処できなくなってきました。
たとえば私が研究しているエネルギー分野を見ても、電力だけでなく各種の燃料などさまざまなエネルギー源が混ざって使われていますし、省エネ技術も重要です。製造技術がどんなエネルギーを使っているのか、あるいは生物多様性を勘案するといった消費者の行動がどう変容しているのかなど、色々なことを考えなければなりません。
どんなにエンジンや蒸気機関の効率を良くしても、CO2を排出する限り、温暖化問題の根本的な解決になりません。持続可能性という大きな目標を達成するためには、化石燃料の使用を少なくすることに目を向けるだけでなく、複雑な要素の絡み合いを考えることが重要なのです。
そうなると、単純に文系と理系にわけるのでなく、色々なことを掛け算する必然性が強くなっていると感じています。それが新しい価値を生み出し、幸せを生み出す可能性があるからです。
目先のことだけでなく、横を見る、さらに先を見ることが大切な時代になっています。そういう中で、我々は「クリエイション」(創造)と「イマジネーション」(想像)を大きく発達させ、色々な掛け算をしなければいけないのです。日本の製造業も、こういった掛け算に貪欲になる必要があるでしょう。
「何をやっているかわからない」のが先端研
前編でお話したように、東大の先端研では、色々な分野を越境して掛け算して新しいタネを生み出すことを目標にしています。よくわからなくて、説明することさえも難しいのですが、逆によくわからないのが特長であり、わかってしまったらダメとも思っています。わからないところが我々のポテンシャルでもあるからです。何をやっているのかわからないけれど、シーズ(タネ)が出てくる前のカオス的な状況で、ビックリ箱的な可能性のある研究所だと思っています。
したがって、1つの研究テーマにターゲットを絞って人材を集めていません。しかも世の中のありとあらゆる大事なものや面白いものをリストアップし、それらを他の研究と組み合わせられる余地を残しています。
領域の壁を取り払って、交じり合い、自由にやってもらうために、我々がやるべきミッションは、分解した要素を深く突き詰めるだけでなく、異なる種の交配による新しいタネをつくってもらうことにあるわけです。
そのタネが芽吹くためには水をやり、栄養を与える必要がありますが、それを実行するのは実は社会全体です。何か面白い研究が出てきたときに、その研究に対して応援してもらえるサポーターの存在が大切です。そのためには大学も開かれたものにならなければいけませんし、研究を見える化することが求められるのです。 【次ページ】「エネルギーと国際情勢」の研究を組み合わせ
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