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  • 2024/06/13 掲載

東大先端研・杉山所長が語る「人類の幸せ」とは、新たな幸せ創出に何が必要か?

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カーボンニュートラルや生物多様性といった持続可能性が叫ばれる時代となった。こうした現状に対し、「人類が地球を支配してコントロールするモデルが通用しなくなった」と語るのは、東京大学 先端科学技術研究所 所長の杉山 正和氏だ。これが経済の閉そく感につながり、そして「人類の幸せの総量」が小さくなっているという。そこで今回、「幸せ」とは何か、また「幸せ」を生み出すには何が必要か、同氏に話を聞いた。
聞き手・構成:編集部 井内亨、執筆:井上猛雄、写真:大参久人

聞き手・構成:編集部 井内亨、執筆:井上猛雄、写真:大参久人

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東京大学 先端科学技術研究センター 所長 杉山 正和(すぎやま・まさかず)氏
2002年東京大学大学院工学系研究科電気電子工学専攻講師、同専攻の助教授、教授を経て、2017年東京大学先端科学技術研究センター教授、2022年同所長。専門は化合物半導体を利用した高効率太陽電池、太陽光エネルギーの化学的貯蔵システム、電気化学によるカーボンリサイクルなど。

人類による「地球支配の限界」

1ページ目を1分でまとめた動画
 これまで人類は、ある意味で地球のすべての構成要素に対して支配的な立場でした。人類は、言語を獲得し、知能が発達し、モノゴトの支配原理を科学として追及して、エンジニアリングを発展させてきました。

 その象徴として第一次産業革命が起き、化石燃料による膨大なエネルギーを使えるようになりました。この200年間、人類の立場から見れば、便益を追求し続けて、ずっと活動を拡大できるものと信じてきました。しかし、人類が地球上のすべての要素(資源)を支配できるわけもなく、その一要素に過ぎません。

 結果として、ここに来て「プラネタリ・バウンダリー(注)」という言葉に代表されるように、我々自身の活動によって、地球の在り方そのものが変わってきてしまいました。これが現在、我々が直面する大きなパラダイムシフトと言えるでしょう。

注) 人類が生存できる安全な活動領域とその限界点を定義する概念

 人類が地球を支配してコントロールするモデルが通用しなくなったことが、全体の閉そく感につながっていると思います。経済が右肩上がりに発展すれば、人類は相対的に幸せになるのですが、化石エネルギーの利用に伴うCO2排出による地球温暖化などの影響で、経済発展はもはや限界を迎え始めてきました。


 日本経済もバブル期までは拡大路線で繁栄してきましたが、世界よりも一足先に縮退し、拡大基調から外れてしまいました。現状、「その壁を打破するために、一体どうすれば良いのか?」ということを模索している状態だと思っています。

 経済が停滞し、「幸せの総量」が小さくなっていく中で、どのようにその幸せを分配していくべきか?「足るを知ること」も意識しなければならないとも言われます。ただ、幸せとひと口に言ってもさまざまな軸がありますので、幸せの多様性も考えていく必要があるでしょう。

宇宙開発で「地球資源を食いつぶす」可能性も

 地球上のリアルな世界が限界を迎える中で、地球外の宇宙に物理的な資源を求めていくという考え方もあるかもしれません。しかし、それを本当の意味で実現するには、地球上の資源をどれだけ使わなければならないでしょうか。このことを考えると、話はそう簡単ではありません。

 たとえば一発のロケットを打ち上げるにしても、莫大なエネルギーが必要になります。そのエネルギーがあれば、何か別の手段に使えるでしょうから。

 もちろん宇宙空間への拡大は、学問や技術の発展をドライブさせる点で人類が追求すべきことです。しかし、地球資源を食いつぶしてしまう可能性もあり、新しいステージに至ることができないリスクもあります。

 その一方で、サイバー空間へのバーチャルな拡大には可能性がありそうです。サイバー空間を拡張するのに必要な物質消費はそれほど多くないでしょう。半導体など、色々な物質を使っても、全体の消費からすれば少なくて済みますから。サイバー空間への拡大が妨げられることにはならないと思います。

 ただし情報爆発により、それなりに電力が必要になりました。日本だけでも、2050年に向けて、情報処理の電力消費量が全電力消費の2~3割を占めるとも予想されています。

 それぐらいで済んで、再生可能エネルギーで賄うことができるならば、サイバー空間への能力拡張がもたらす便益は、より我々を幸せにしてくれるかもしれません。ただ、仮想通貨の採掘やAIの活用といった、あまりにも大きな電力消費を伴う活動は制約されていく可能性も考えられます。膨大なエネルギー消費をどう賄うべきか、真剣に議論しなければなりません。 【次ページ】今後は「異分野で感じ合う」ことが超重要

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