- 会員限定
- 2024/10/01 掲載
成功率「まさかの」9割越え、テルモ開発者が製品開発で「無双」できた納得理由とは
最初の仕事は「ソフトウェア解析」から?
(アクト・コンサルティング 野間 彰氏)──沓澤さんのこれまでのキャリアについて最初にお聞きしたいのですが、大学時代は電気を専門的に学ばれていたそうですね。沓澤章雄氏(以下、沓澤氏):大学時代の専攻は電気工学、電子工学でした。同じ研究室の人間の多くは電機メーカーに就職しますが、当時、まことしやかに言われていたのが「(電機メーカーでは)一生、冷蔵庫の取手を設計しているだけかもしれない」ということです。極端な例ですが、大企業では役割がそれだけ分業化されているという意味です。
私が就職した当時、テルモはそれほど大きな会社ではなかったので、「テルモであれば、専攻分野だけでなくさまざまな製品を手がけることができるかもしれない」という思いはありました。ですから、入社してからは、自分の専攻した技術分野には特にこだわらずに取り組んできました。
──沓澤さんは要素技術開発から商品化まで幅広く携わり、輸液ポンプや体外式膜型人工肺(ECMO)コントローラーなどのME機器を開発してきました。最初にテルモで取り組んだ仕事はどんな仕事でしたか?
沓澤氏:入社して最初の仕事は超音波診断装置のソフトウェアです。当時のプロジェクトでマシン語プログラムの前任者が不在になり、私は趣味でマシン言語の経験があったため、ソフトウェア担当として、解析からスタートしました。誰にも頼れない中で試行錯誤しながら取り組み、その後は、製品にしていく段階で、機械の設計も行いました。これも機械技術者がいなかったので「板金設計もやってくれ」と指名されました。
当時の上司がユニークで、私が「板金設計は経験したことがないです」と言ったら、「最初はみんな初めてだよ」と、チャレンジしてみれば良いというタイプの上司だったのですね。それからだんだん、経験する領域が広がって、ソフトウェアも機械もやるというふうに自分のキャリアが広がっていきました。
テルモの企業理念である「医療を通じて社会に貢献する」ということを実現するためには、医療になくてはならない製品を、必ず世の中に届けなければなりません。これを高い成功確率で実現するためには、「必ず世の中に届けるために、世に出たらどうなるか追究する」という考えが重要になります。
そこで必要になることは、開発テーマで「本当に何が求められているか」を追求し、なくてはならないものだと確信が持てるまで、それが世の中に出て価値提供しているところを想像することです。
一貫して持つ「ある意識」とは
──沓澤さんはこれまで30のプロジェクトを進め、29のプロジェクトで製品を世の中に出してきたそうですが、「世の中に出たらどうなるか」追求することが成功の秘訣になるのでしょうか。沓澤氏:はい。世の中に出たらどうなるか自問自答し、関係者に問い続け、徹底的に考えることは、ヒット率向上に欠かせないと思います。
たとえば、コロナ禍、医療現場を支えたECMOで、故障率や保守頻度を従来品から大きく低下させることを目指した開発プロジェクトがありました。プロジェクトは当初、新しい部品や技術を使った設計を進めていました。しかし、「世の中に出たらどうなるか」考えると、ECMOの使用頻度は低いこと、出荷台数が少ないことに気が付きます。
年に1回しか使わず、しかし10年は使い続け、年間では100台程度しか出荷されない。従って部品メーカーへの交渉力は低い。そのような中でポンプを止めないことが必要だと想像できます。すると、安定運用が確認できている枯れた部品で代替品が得られるものを中心に設計することが必要になると分かるのです。
──製品開発の成功確率を高めるために、ほかに重要なことはありますか。
沓澤氏:先ほどお話したことと重なりますが、開発者としては「自分のプロジェクトが生み出すものが、なくてはならないものだという確信を持つこと」を大事にしています。言い換えれば、「これを世の中に届けたい」という思いです。
たとえば、輸液ポンプの開発において、流量安定精度を向上しようとしていたときは、シリンジポンプは輸液ポンプよりも高精度で薬液の注入ができますが、50mlより大きいシリンジがセットできないことから、頻繁にシリンジ交換することが必要でした。
交換の都度、患者さんの状態が変化し、医師として適切な診断ができないことや、これに起因する患者さんのQOL低下、医師のシリンジ交換の手間といった問題が解決できるところまで想像することで、『大量の薬液をより高精度で注入できる輸液ポンプがなくてはならない』という確信が持てます。この確信が、何があっても実現するモチベーションにつながりました。
また、常に「任されればその領域のエキスパートになる」という意識も持っています。そのためには、関連する技術を勉強しつつ、自分のスコープを狭く定めず可能な限り自分でも手を動かし、世に出たらどうなるかを想像するための知識、技術の「引き出し」を日々拡充することが重要になります。 【次ページ】「100点」を目指す必要はないワケ
関連コンテンツ
PR
PR
PR