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- 2025/09/23 掲載
ブラック・ジャックがすでに実践していた…「AI時代の名医」に求められる役割
1962年、大阪府生まれ。大阪府立北野高校、東京大学医学部卒業。英レスター大学経営大学院修了。医師、医学博士、経営学修士(MBA)。専門は医療未来学、放射線医学、核医学、医療情報学。東京大学医学部附属病院22世紀医療センター准教授、会津大学教授を経てビジネスの世界に身を転じ、製薬会社、医療機器メーカー、薬事コンサルティング会社などに勤務。現在、東京科学大学医療・創薬イノベーション教育開発機構特任教授。著書に『Die革命』(大和書房)、『未来の医療年表』(講談社現代新書)、『世界最先端の健康戦略』(KADOKAWA)、『未来の医療で働くあなたへ』(河出書房新社)、『医療貧国ニッポン』(PHP新書)、『人は死ねない』(晶文社)、共著書に『死に方のダンドリ』(ポプラ新書)などがある。
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「よく効く年間6万円の薬」vs「まあまあ効く月2,000円の薬」
地域に根ざした診療を行い、多くの住民の「かかりつけ医」として人間関係を構築できている医師であれば、個々の患者さんの社会的な立場や家庭の事情なども考慮した診療ができるのも、AIに勝る点でしょう。特に開業医なら、場合によっては患者さんの経済事情を考慮する必要が生じます。医師は一般に、医学部の講義では個々の薬に関する教育は受けませんし、勤務医になって薬の種類や名前を覚えるようになっても、驚くことに、その薬の値段までは意識しません(この点は保険制度の弊害ともいえます)。しかしそうした医師がいざ開業し、高い薬をそれと知らず処方して患者さんに嫌がられる経験を何度か重ねると、もう薬の値段に無頓着ではいられなくなります。
そうした苦労も、住民の平均所得が極めて高い高級住宅地で開業している医師なら無縁かもしれませんが、普通の場所で開業している医師が、単によく効くからという理由で高い薬ばかり出しているとご近所の評判が下がってしまい、Googleの口コミでも低い点数をつけられて気がつけば閑古鳥というような話は意外とよく聞きます。ですからなるべく安く、それなりの効果も期待できる薬は常に選択肢として備えておく必要があるわけです。
患者さん一般の傾向としても、「非常によく効くけど、毎日服用すると月4,000~5,000円、年間で6万円近くかかる薬」と「効き目はまあまあだけど、月2,000円で収まる薬」であれば、後者のほうが喜ばれるというのは頻繁にあります。
こうした場合、AI医師ならば、あくまで医学的な見地からよく効くほうの薬を選択して処方箋を書くのでしょうが、人間の医師はある程度の融通を利かせることができるわけです。AI時代の人間医師は自分が受け持つ患者さんの生活全般にまで目を光らせ、患者さんの人生設計に助言できるくらいのことまでできて、ようやく名医と呼ばれるのかもしれません。
【次ページ】「AI時代の名医」像を先取りしていた『ブラック・ジャック』
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