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- 2024/10/25 掲載
IHI・日立造船・川崎重工業「改ざんだらけ」、エンジンの検査不正はなぜ起きるのか
連載:実践!企業不祥事から学ぶリスク対策術
3社で行われた不正行為とは?
船舶用ディーゼル機関(舶用エンジン)のNOx(窒素酸化物)放出量に関する規制が2005年から開始されています。この規制は、船舶からの海洋汚染などを防止する国際条約である「海洋汚染防止条約」に基づくものです。今回発覚した不正行為は、舶用エンジンの試運転および記録作成のプロセスにおいて、主にNOx放出量確認に関連して行われました。3社の調査報告書には、表1のような不正行為が記載されています。
表1 舶用エンジンの試運転および記録作成のプロセスにおける不正行為
IHI子会社 | 日立造船子会社 | 川崎重工業 | |
燃料消費率/ 燃料消費量 |
NOx放出量確認時および出荷前試運転での実測値書き換え | 陸上公試運転時の燃料重量計表示の操作、燃料消費量の改ざん | 燃料消費量・消費率に関わる不正 |
NOx放出量 | 排ガス成分濃度の書き換え・誤入力 | 排ガス温度にかかわる不正 | |
その他の試験 | バイパスラインにより燃料消費量を少なく見せる デジタル流量計の不正操作により燃料消費量を少なく見せる |
水制動機荷重計測に関わる調整操作 その他エンジン性能に関わるデータの書き換え、誤入力、再計測時の修正漏れ |
水動力計表示トルクに関わる調整操作 過給機コンプレッサ吸込み温度に関わる補正機能の目的外操作 |
燃料消費率・燃料消費量に関する不正は3社で共通して行われています。これは、NOx放出量が規制値を満足する運転条件では、燃料消費率が仕様値を満足しない場合があるためです。仕様値とは、顧客が船舶建造を発注する段階で造船所と取り決める仕様書に記載された値で、舶用エンジンメーカーが造船所と顧客に約束した性能です。
水制動機や水動力計は、舶用エンジンの陸上試運転のときにプロペラの代わりにエンジンにつなげるもので、エンジンの出力を計測します。燃料消費率はエンジン出力・時間当たりの燃料消費量なので、エンジン出力を操作することにより燃料消費率を調整できます。
なお、3社の調査報告書での表現が異なるため、そこから読み取れない部分が漏れている可能性があり、表1や説明の記載の有無が不正の有無と一致しない場合があります。
なぜ不正行為が行われたのか? その原因
では、なぜ不正行為が行われたのでしょうか。3社の調査報告書から不正行為の原因を読み取ってみましょう。不正行為の動機は3社とも共通していて、燃料消費率が仕様値を満たさなかったときの顧客への説明を回避するためでした。燃料消費率は試運転時の気温・湿度などの条件により変化するので、試運転における燃料消費率の実測値が仕様値を満たさない場合があります。
そのときに、顧客から説明を求められるそうです。試運転は、性能部門・設計部門・エンジニアリング部門や製造組立部門、言い換えると、顧客から求められれば説明をする立場の組織が担っていました。
また、舶用エンジンの試運転および記録作成のプロセスには手書きの記録やシステムへの手入力が多く、実測値と違う数値を記録することが可能な手順でした。
一方、試運転には顧客と船級協会(船舶の船体やエンジンなどの構造や状態が良好であることを検査・証明する機関)が立ち合います。プロである彼らさえ不正に気付かず、信頼しきっていたことから、試運転がセレモニーのようになっていたことが推察されます。 【次ページ】3社が取り組む不正行為の再発防止策
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