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- 2025/07/10 掲載
優秀人材だらけ?広島電鉄がたどり着いた「一流職人」を高速で育てる“ある方法”
大手水処理プラントエンジニアリング会社である水ing株式会社にて、9年間、国内・海外の水処理プラントのコンサルティング営業・プロジェクトマネジメントを実施。設備メンテナンスプラットフォームの事業開発にも携わる。 株式会社INDUSTRIAL-X参画後、インフラ・建設業・製造業等におけるDXプロジェクトのプロジェクトマネジメントやDX研修コンテンツ開発を実施。 早稲田大学大学院経営管理研究科(MBA)卒。
実力は一級品?広島電鉄の技術部門
1912年から110年以上、広島の街中を走る路面電車を運営してきたのが広島電鉄だ。毎日の乗降者数は約10万人超(2023年3月)と、日本国内の路面電車においては群を抜いてトップの乗降車数を誇る会社だ。そんな同社は、軌道(路面電車の線路)や車両、電気設備のメンテナンスを自社で行っている。路面電車を運営する国内の鉄道会社の多くは、こうしたメンテナンスなどは外部に委託している中で、技術のプロフェッショナル集団を抱える広島電鉄は、メンテナンスの大部分を内製化してきたのだ。
原爆が投下された1945年8月6日、広島は壊滅的な被害を受け、その日、広島電鉄が運営する路面電車も全線不通となった。しかし、そのわずか3日後には技術者たちの尽力により、一部の区間で運転が再開されたという逸話も残されている。
まさに職人集団と言える広島電鉄の技術者たちの存在により、「安全な鉄道運行」は守られてきたのである。
技能継承に迫るタイムリミット──広島電鉄の危機感
そんなプロ集団を抱える技術部門の会議にて、この先10年後、「電車技術部門はどんな部門でありたいか」「どのように広島の町や社会に貢献していきたいか」という議論が、若手からマネージャークラスのメンバーが集まり行われた。そこでは「広島の町と路面電車業界全体の『未来』と『安全』をつくりたい」、「デジタル技術と電車のメンテナンス技術を結びつけて革新的な取り組みをしたい」という意見が挙がった。
未来に向けた前向きな議論が行われた一方で、数年以内にベテラン社員の多くが定年退職してしまう現実がある。新しい社員を採用することも簡単ではなく、仮に採用できたとしても、ベテラン社員が持っていたノウハウは失われてしまう。
大きな戦力ダウンが見込まれる中、今後、ベテラン社員に頼らずして、いかに安全に、時間通りに、町を支える電車を運行していくかが、技術部門の大きな課題になっていたのだ。
「見て覚える」は難しい…若手技術者の抱えていた不満
安全に電車を走らせ続けることがミッションの技術部門には高い技術力が求められる。その技術を習得するには10年はかかると思われてきた。しかし、ある会議の中で、「10年かけて1人前に育つというのでは、時間がかかりすぎる」といった若手からの指摘があったという。
教わる立場の若手からすると、「先輩の背中を見て覚えるしかないので、予習や復習がしづらい」、「先輩によってやり方が少しずつ違うので、毎回覚え直す必要がある」など、技術継承の方法にもいくつかの問題があったのだ。

特に、被爆してもなお、未だ現役で走り続けている「被爆電車」のメンテナンスが問題に挙がった。被爆電車のように古い電車は、「原爆の記憶」を感じられる乗り物であり、広島の町、そして日本にとって、大事な財産である。そのため、こうした電車のメンテナンス方法も後世に残していくべきだが、たまにしかメンテナンスをする機会はなく、そのノウハウを覚える機会は限られていた。
こうした状況の中、広島電鉄は“ある改革”により、メンテナンスのノウハウ習得の時間を短縮することができたという。その具体的な内容を見ていきたい。 【次ページ】修行期間が激減? シンプルだけど“効果抜群”の改革
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