- 2025/11/18 掲載
「絶対乗らない」46%vs「また乗りたい」76%、英国・横浜から始まる無人タクシー革命(2/2)
「事故ったら誰の責任?」──ロボタクシー普及を阻む課題
無人タクシーが街を走り出す未来は、もはや絵空事ではないが、その実現には依然として高いハードルが立ちはだかる。最大の焦点は、事故が起きた際の責任の所在だろう。英国では2024年に自動運転法が制定され、自動運転機能が作動中の事故については、ドライバーではなく製造業者や運行事業者が責任を負う枠組みが整えられた。この法律により、利用者は運転時の違反行為や事故から免責される一方、自動運転システムを認可した事業者や、車両を監督する立場にある運行事業者に責任が移行する仕組みとなった。さらに、事故原因の究明に必要なデータ開示義務も課され、違反すれば認可の停止や罰金といった制裁が科される。
日本でも同様の議論が進む。国土交通省は2025年4月、自動運転における損害賠償責任に関する報告書を公表した。この報告書では、レベル4の自動運転タクシーにおいて、タクシー事業者が引き続き運行供用者として責任を負う方向で議論が進められている。乗客は車両の運行に直接関与しないため、事故時の責任を問われることはない。一方、遠隔監視を担う業務受託者は、原則として運行供用者には該当しないが、事業者の指示に従わず無断で車両を使用した場合には責任を負う可能性がある。
技術面でも課題が残る。通信遮断時の安全確保、悪天候や想定外の状況への対応、サイバー攻撃への備えなど、クリアすべき項目は多岐にわたる。日本の報告書でも、通信が遮断されて遠隔監視装置が機能不全に陥った場合、車両に「構造上の欠陥または機能の障害」があるとみなされる可能性が指摘されている。
さらに、一般市民の受容度という見えにくい壁もある。米国の調査会社EVIRが8000人を対象に実施した調査では、46%が「ロボタクシーには絶対に乗らない」と回答、さらに31%が「今は乗る気はない」と答えている。65歳以上では58%が否定的で、若年層(18~44歳)の35%と比べて抵抗感が強いことも分かった。
英国でも同様の傾向が見られ、別の調査では「今すぐ無人車に乗る」と答えたのはわずか11%にとどまる。それでも実際に乗車経験した人々からは高評価を得ている。JDパワーの調査によれば、ロボタクシーを肯定的に評価するという割合は、利用したことがない人々では20%だったのに対し、利用経験者では76%という非常に高い数字となった。技術の進化だけでなく、アクセシビリティや安全性を含め社会全体でどう受け入れるかが、普及の成否を左右することになりそうだ。
消える仕事、生まれる仕事──移動革命がもたらすインパクト
法整備や技術的な課題をクリアした先には、ロボタクシーがもたらす社会変革が待ち受けている。その影響は、移動手段の変化にとどまらず、雇用構造や働き方、都市のあり方にまで及ぶ。最も直接的な影響を受けるのは、タクシーやライドシェアのドライバーだ。ジョージ・ワシントン大学の研究によれば、ロボタクシーへの移行により、最前線で働く運転手の数は57~76%減少する見込みという。ただし、人手が完全に不要になるわけではない。遠隔監視や車両メンテナンス、顧客対応といった新たな役割が生まれ、労働力は依然として重要な要素として残る。むしろ、こうした業務に必要なスキルは従来より高度化し、賃金水準も上昇する可能性があると指摘されている。
実際、テスラは2025年末までにオースティンで500台、ベイエリアで1000台のロボタクシーを稼働させる目標を掲げ、24時間体制での運用に向けた夜勤専門スタッフの募集を開始した。募集地域はテキサス州やカリフォルニア州、フロリダ州など全米8都市に及び、車両の保守管理や遠隔監視体制の構築が急ピッチで進む。
遠隔監視の役割は想像以上に重要だ。英ウォーリック大学の研究者は、レベル4の自動運転サービスは人間による遠隔監視なしには安全に機能しないと断言する。Waymoでは現在、車両1台につき約1人の遠隔オペレーターを配置しており、システムが判断に迷った際には人間が指示を出す仕組みだ。道路工事や予期せぬ障害物に遭遇した場合、遠隔から誘導する「フリート・レスポンス・スペシャリスト」と呼ばれる専門職が対応している。
日本でも雇用の地殻変動が始まりつつある。自動運転ラボのまとめによると、自動運転関連の国内求人は2025年9月時点で6251件に達し、5カ月連続で過去最高を更新。前年同月比では21.3%増の急拡大となった。日産などの自動車メーカーやタクシー配車大手が商用展開に乗り出すにつれ、関連求人はさらに増える見通しだ。
生活面での変化も大きい。移動の自由度が増せば、車を持たない高齢者や障害者の行動範囲は飛躍的に広がる。深夜や早朝でも気軽に移動できるようになれば、働き方や余暇の過ごし方も変わるはずだ。地方では、公共交通の衰退を補う新たな選択肢としても期待が高まる。
ただし課題も残る。遠隔監視員の訓練や資格認定の基準は未整備で、国際標準化の動きも始まったばかり。今後は、技術だけでなく、それを支える人材育成の仕組みや制度にも目を向ける必要がある。
自動運転のおすすめコンテンツ
PR
PR
PR