• 2026/03/23 掲載

パナやシャープの牙城に異変…なぜ象印は電子レンジに再参入?「17年ぶり」逆襲の真相(3/3)

新連載:家電で読むメーカー戦略図鑑

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【業界初】「ツインエンジン」を採用した深いワケ

 EVERINOシリーズのラインアップを拡充して認知を拡大しつつ、30Lのフラッグシップモデルの開発が進められていった。そして2025年9月に発売した「ES-LA30」のハードウェア面での最も大きな特徴が、マイクロ波を発生させるマグネトロンを2基搭載する「ツインエンジン」を国内家庭用オーブンレンジとして業界で初めて採用したことだった。

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象印マホービンが2025年7月に発売したフラッグシップモデルのオーブンレンジ「EVERINO ES-LA30」(実勢価格8万5,000円前後)
(写真:筆者撮影)

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ES-LA30は2基のマグネトロンを搭載するツインエンジン構造を採用する
(写真:筆者撮影)
 金井氏は、ツインエンジンを採用した理由について「26Lまでは1つのエンジンでカバーできますが、30Lでは2つないとムラが生じやすくてパワーが不足するのが分かっていたため、時間をかけて30Lモデルを開発しました」と語る。ES-LA30はツインエンジン搭載によって根本的に加熱ムラを解決したことに対し、「競合大手の高性能センサーは加熱ムラがあることを発見できるものの、その改善にはつながっていません」と金井氏は自信を見せた。

 ES-LA30は、マイクロ波を発生させるマグネトロンを本体下部と本体奥の2カ所に配置し、下部は最大1000W、奥は最大900Wまで出力できるようになっている。通常の自動あたため機能はシングルエンジンだが、上下2段に置いた食材を最大で4品同時に温められる「2段あたため」機能や自動の「全解凍/半解凍」機能などにツインエンジンが用いられている。

 シングルエンジンの手動レンジ機能は150W、300W、500W、600W、1000Wから選べて、ツインエンジンの「Wレンジ」機能は「弱」「中」「強」の3つから選べる。「弱」は下150W+奥150W、「中」は下600W+奥150W、「強」は下1000Wと奥900Wを30秒ごとに切り替える仕組みだ。

 下と奥のエンジンの配分もそうだが、配置にもかなり悩んだという。

「開発当初は下と横、下と上もありましたが、横だと幅が広くなりますし、上にはヒーターがあるため、なかなかうまくいきませんでした。いろいろなパターンを試した上で、配置的にも性能的にもベストなのが下と奥でした。電波は直進性があるので、90度直角に出る方が混ざりやすく、ロスを最小限に抑えられているのではないかと考えています」(金井氏)

 出力の組み合わせは、下600W+奥150Wが最も効率がいいと金井氏は自信を見せた。

「下500W+奥200Wなどいろいろと組み合わせてみましたが、下600W+奥150Wが最も加熱効率が良くて加熱ムラもなく仕上がりました」(金井氏)

 面白いのが「すごはやWレンジ」機能だ。これは手動レンジで500Wまたは600Wで時間指定したときに、それをWレンジ(下600W+奥150W)に切り替えることで時短調理ができるというものだ。

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冷凍パスタを600W、6分で設定したところ
(写真:筆者撮影)
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「レンジ/Wレンジ」ボタンを押すと4分48秒に切り替わる
(写真:筆者撮影)
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カチカチの冷凍パスタが……
(写真:筆者撮影)
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しっかりとムラなく温まった
(写真:筆者撮影)
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サーマルカメラで撮影したところ。冷たいところはなく、全体的にムラなく温まっている
(写真:筆者撮影)

 ツインエンジンは、上下2段の食品を同時に温める「2段あたため」機能などにも活用されている。下段の方が温まりやすいため、上段は下段よりも設定温度を上げられない仕組みになっているが、それぞれの料理に合った温度で食卓に上げたいという人にはピッタリの機能ではないだろうか。

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ES-LA30は上下段を同時に別々の温度で温められる2段あたため機能を搭載
(写真:筆者撮影)
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上段60℃と下段80℃など、それぞれの段で温度を設定できる
(写真:筆者撮影)

 自動解凍機能も実際に体験したが、こちらもかなり魅力的な機能だと感じた。冷凍ミンチ肉を解凍すると、一般的には外側が生焼けで中心部は固いといった状態になりがちだ。しかしEVERINOのツインエンジンなら生焼けになることはなく、サクッとほぐれる程度に仕上がった。

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約500gの冷凍ミンチ肉を「全解凍」で自動解凍する
(写真:筆者撮影)
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できあがったところ。約6分でサクッとほぐれる程度に仕上がった
(写真:筆者撮影)

成熟市場で見抜いた勝機、象印の“再発明”が示すこと

 ツインエンジンを搭載するES-LA30は、完全に枯れたというか進化しきってしまったかと思われていた電子レンジを“再発明”したと筆者は感じた。今後、改良が見込まれる部分としては、「自動あたため」機能にツインエンジンを利用していない点だ。

 「使いこなしているお客さまの声の一部として、『Wレンジをデフォルトでやらないの?』という声も徐々に増え始めてきています」と稗田氏は語る。

 自動あたため機能は加熱ムラが生じたりと失敗しやすいので、電子レンジの操作に慣れた人ほど手動レンジ機能を活用する傾向はあるかもしれない。しかし今後「電子レンジは象印」というイメージをより多くの人に持ってもらうためには、自動あたためにも初期設定でツインエンジンを利用する方向に向かうべきなのかもしれない。

 象印の電子レンジ戦略は、単なる再参入ではない。炊飯器で培った「加熱技術」を武器に、あたためムラという不満点を徹底的に突き詰めた製品開発。そして26Lから市場に入り、ブランドを育ててから主戦場の30Lへと広げる段階的な戦略だ。

 成熟市場と言われる電子レンジでも、生活者の不満を起点に設計思想を作り直せば、まだ勝機はある。EVERINOは、象印が「炊飯器の会社」から「調理家電の会社」へと領域を広げようとしていることを示す象徴的な製品と言えるだろう。

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