- 2026/05/18 掲載
【比較】トヨタ系部品5社“天国と地獄”、「ナフサショック」で勝ち残るのはどこか?(2/2)
ナフサショックに「勝てる会社」はどこか?
各社の決算から見えてきた利益率の明確な違いを、さらに「ナフサ感応度」という切り口で深掘りしてみよう。自動車部品を構成する多種多様な要素のうち、どの領域に原価高のリスクが潜んでいるのかを会社別の事業構造からひも解く。まず豊田合成である。同社の主力事業は、ウェザストリップ(窓ガラス等の隙間を塞ぎ気密性を保つゴム部品)や内外装の樹脂部品、そしてエアバッグに代表される機能部品・安全システムなどである。事業の性質上、製品の大部分がナフサ由来の材料である合成ゴムやプラスチックに依存しており、材料との関係性が極めて深い。
一見するとナフサ高の直撃を最も受けやすい企業に見える。しかし、同社が高い利益率を確保している背景には、単なる材料高リスクに甘んじない戦略がある。世界的な安全規制の強化を追い風にしたエアバッグなどの高付加価値製品が多ければ、それはコスト上昇分を価格に転嫁する正当な理由となる。素材を扱うからこそ、自社の技術力を顧客に認めさせ、適正な価格改定を勝ち取る「価格転嫁力」が厳しく問われている。
次にトヨタ紡織である。同社は主力の自動車用シートをはじめ、ドアトリムや天井などの内装材、エンジン関連のフィルターなどを広く手掛ける。シート表皮に使われる合成皮革やファブリック、内部のウレタンフォーム(クッション材)、樹脂製の内装骨格、さらにはフィルターのろ材に至るまで、クルマの居住空間を構成する要素の多くがナフサ由来材料の直接的な影響を受ける。
トヨタ紡織の利益改善基調が今後も続くかどうかは、単なるパーツの供給にとどまらず、快適性や疲労軽減といった「車室空間全体の価値」をいかに高め、それを販売価格に転嫁できるかにかかっている。素材高のリスクを乗り越えるためには、内装という枠を超えたソリューション提案が不可欠だ。
豊田自動織機はどうか。主力のフォークリフトなどの産業車両や自動車の受託組み立て、カーエアコン用コンプレッサーといった事業は、一見すると鉄や機械の比重が高いように思える。しかし、車両を完成品として組み立てる事業の性質上、タイヤに用いる合成ゴム、各種ホース類、内外装のプラスチック部品、そして車体用の塗料に至るまで、ナフサ由来素材を広範かつ大量に消費する。多角的な事業展開は強みである反面、ナフサ高の影響が全方位から複合的に押し寄せるため、原価上昇の波を局所的にコントロールすることが極めて難しいという構造的なリスクを抱えている。
一方で、金属加工や精密な機械部品のイメージが先行するデンソーとアイシンにも、サプライチェーンの深層には隠れたナフサ高の影響が存在する。たとえば、自動運転技術を支えるデンソーの各種センサーや電子制御ユニット(ECU)は、繊細な電子基板を過酷な環境から保護するために、特殊な樹脂製のケースやコネクターを大量に使用する。
また、アイシンが強みを持つトランスミッションやブレーキシステムにおいても、気密性を保つシール材としてのゴム部品、樹脂製のハウジング、各種オイルパン部品が欠かせない。
さらに、両社が次世代の柱として注力する電動化部品においても、絶縁材や特殊接着剤、電子材料といった高機能な石油化学製品が不可欠である。個々の使用量は少なくとも、高単価で代替困難な材料が多いため、サプライチェーン全体を俯瞰すればその影響は決して無視できるものではない。
今後見るべき「ポイントは3つ」
これまで見てきたように、各社の事業構造に根ざした「原価耐性」の違いを浮き彫りにした。しかし、中東情勢という地政学リスクは極めて流動的であり、いつ終息に向かうか先行きが見通せない。ナフサ価格の高止まりがさらに深刻化し、事態が長期化するリスクは常に市場でくすぶり続けている。もしこの危機的状況が長引けば、現在「勝ち組」と見なされている部品メーカーの顔ぶれが、今後の決算発表のたびに入れ替わる可能性すらはらんでいる。
まず、短期的なシナリオを想定してみる。数カ月から半年程度の局所的なナフサ高であれば、過去の資源高の経験を持つ多くの部品メーカーは一定のバッファーで吸収できるだろう。安価な時期に調達を済ませた材料在庫の活用や、あらかじめ完成車メーカーと取り交わしている材料価格のスライド条項に基づく機械的な価格改定などによって、コスト増の大部分を相殺することが可能だ。
この短期的な段階においては、在庫戦略が機能し、なおかつ電子部品や駆動系など、もともと材料費の割合が低く技術的な付加価値が高い部品群を持つ会社が相対的に高い耐性を示し、利益を確保しやすい。
しかし、情勢不安が長期化した場合のシナリオはまったく異なる様相を呈する。高止まりしたナフサ価格は、川下のプラスチック樹脂、合成ゴム、合成繊維、塗料、工業用接着剤といった中間素材の取引価格をじわじわと、しかし確実に押し上げていく。在庫の恩恵が完全に底をつき、スライド条項などだけではカバーしきれない加工費や副資材のコスト増が表面化してくる。
こうなると、完成車メーカーへの価格転嫁の交渉が遅れる会社、あるいは激しい競合関係の中で値上げを躊躇する会社から順番に、容赦なく営業利益率が削り取られていくことになる。次回の決算、次々回の決算と回を重ねるごとに、そのダメージは決算書に蓄積していくだろう。
結論として、今後の自動車部品メーカーを評価する上で見るべき指標は、単なる「ナフサ由来の素材使用量」の多寡ではない。本当に重要なのは、その部品が「他社製品に代替しにくいものか」「車の走行性能や安全性、環境性能の向上に直結するものか」、そして何より「価格改定を堂々と受け入れさせることができる競争力を持った部品か」という3点に尽きる。
汎用的なプラスチックカバーと、人命に関わるエアバッグ周辺部品とでは、価格転嫁力に雲泥の差が生まれる。そこにこそ、“勝ち組部品”の本質が隠されている。中東リスクが長引くほど、「自らの価値で値決めができる企業」と「下請けとしてコストを被る企業」の残酷なまでの二極化が、サプライチェーン内で進行していくはずだ。
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