- 2026/09/10 06:50 掲載
成城より「亀有・金町」? 路線価は10年で約2倍に…東京の“東側”が選ばれ始めたワケ(2/2)
【人口比較】亀有・金町の人口増…データに見る“人気の正体”
変化は地価だけではない。JR東日本の常磐緩行線・亀有駅、金町駅、さらに東京メトロ千代田線の北千住駅、綾瀬駅、北綾瀬駅周辺では近年、不動産価格が上昇している。足立区や葛飾区では人口も増えている。葛飾区では、2016年1月1日時点で45万2789人、22万1587世帯だった人口・世帯数が、2025年1月1日には46万9916人、25万2845世帯となった。
9年間で人口は約1万7000人、世帯数は3万世帯以上増えた計算になる。少なくとも数字を見るかぎり、亀有や金町を含む葛飾区は、人々から「選ばれる街」になりつつある。
では、その背景には何があるのか。理由の1つとして考えられるのが、常磐緩行線の交通利便性だ。同線の大きな特徴は、東京メトロ千代田線と直通し、都心へそのまま入っていけることにある。
通勤時間帯には3~4分間隔で都心方面への列車が走り、金町から大手町までは約29分、霞ケ関までは約35分。各駅停車でありながら、それほど長い時間をかけずに都心のオフィス街や官庁街へ到達できる。
しかも、平日昼間でも10分間隔で運行され、帰宅時間帯には都心からの列車がさらに高頻度になる。利用する時間帯によって利便性が大きく落ちにくい点は、日常生活では小さくない強みだろう。
一方で、小田急線から東京メトロ千代田線に乗り入れる列車は朝ラッシュ時には少なくはないが、どんどん乗り入れているというほどではなく、代々木上原で乗り換えを必要とするケースも多い。
直通列車を利用した場合、成城学園前駅から霞ケ関駅までは約28分、大手町駅までは約34分。所要時間だけを見れば、常磐緩行線と大きな差はない。
ただし、これは通勤準急という速達型の列車を利用した場合である。昼間の千代田線直通列車は20分に1本、帰宅時間帯も10~20分に1本となり、利用する時間によっては代々木上原駅での乗り換えが必要だ。
つまり、同じ千代田線へ直通する2路線でも、直通列車の位置づけや使われ方には違いがある。また、常磐緩行線側の利便性を考える上では、さらにもう1つ重要なポイントがある。
「沿線格差」を変えた交通網のカギ、「ある駅」とは?
常磐緩行線は、千代田線への直通によって大手町や霞ケ関へそのまま向かえる。さらに北千住駅で常磐快速線へ乗り換えれば、上野、東京、品川方面へ向かうこともできる。
上野東京ラインの開業前は、北千住駅で常磐快速線へ乗り換えても、列車は上野駅までだった。その先の東京方面へ行くには、上野駅で山手線や京浜東北線へ再び乗り換える必要があり、上野─秋葉原─東京間は混雑しやすい区間でもあった。
一方、西日暮里駅まで千代田線に乗り、そこから山手線や京浜東北線を利用するルートもあった。この場合は、JRの運賃とは別に地下鉄の運賃も必要になる。ところが、上野東京ラインの開業によって状況は変わった。
北千住駅で常磐快速線へ乗り換えれば、上野駅だけでなく、東海道新幹線が発着する東京駅や、その先の品川駅までJR線でアクセスできるようになった。さらに品川駅から京急電鉄に乗り換えれば、羽田空港方面へ向かうこともできる。
つまり、常磐緩行線沿線の利用者は、大手町や霞ケ関へ向かうなら千代田線をそのまま使う。一方、東京駅や品川駅方面へ向かうなら、北千住駅で常磐快速線へ乗り換える。目的地に応じて、都心へのルートを使い分けられるわけだ。
都心へ向かう道が1本ではない。北千住駅という結節点があることで、常磐緩行線沿線の交通利便性はさらに高まっている。
「セレブ路線」が勝つとは限らない…沿線価値を決める条件
一方、小田急線には、小田急線なりの強さがある。小田急線は新宿という巨大ターミナルへ直結し、複々線を生かして速達型列車を高頻度で運行している。成城学園前駅から新宿駅方面へ向かう利用者にとっては、非常に便利な路線である。ただ、新宿以外の都心エリアへ向かう場合は、目的地によって乗り換えが必要になる。新宿駅から別路線を利用するほか、下北沢駅で京王井の頭線へ乗り換えて渋谷方面へ向かうといった移動になる。
これに対し、常磐緩行線は千代田線を通じ都心部のオフィス街である大手町や、官庁街である霞ケ関へ直接アクセスできる。しかも列車の本数も多い。そう考えると、常磐緩行線は、いわば「職場に近い」路線である。
さらに、北千住駅で常磐快速線へ乗り換えれば、東京駅や品川駅方面にもアクセスしやすい。大手町、霞ケ関、東京、品川と、目的地に応じて複数のルートを選べることが、常磐緩行線の大きな強みになっている。
もちろん、だから小田急線より常磐緩行線のほうが、あらゆる面で優れているということではない。小田急線には成城をはじめとする高級住宅地があり、長年築かれてきた沿線ブランドがある。新宿方面へのアクセスでも大きな強みを持つ。
ただ、住宅地としての価値を決めるのは、沿線のイメージだけではない。
列車が何分間隔で走っているのか。乗り換えは何回必要なのか。勤務先までどの程度の時間で行けるのか。そして、都心の複数の拠点へどれだけ移動しやすいのか。こうした日々の鉄道利便性も、街の評価を左右する。
亀有ではこの10年間で路線価が約2倍になった地点もあり、葛飾区では人口も増えている。もちろん、そのすべてを鉄道だけで説明することはできない。
それでも、大手町や霞ケ関へ直結し、北千住駅を介して東京、品川方面にもアクセスできるという交通網上の強みは、常磐緩行線沿線が選ばれる理由の1つと考えられる。
こうした利便性が、東京メトロ千代田線を介してつながる小田急線とJR常磐緩行線の「沿線格差」を乗り越える作用をもたらしているのである。
そして興味深いのは、鉄道網の変化が単に移動時間を短くするだけではなく、その先にある街の評価にも作用している点だ。利便性が東京の都市構造に影響を与え、相互乗り入れする一方の路線の価値を高める。
かつて「セレブ路線」と「庶民的な路線」として語られた沿線イメージは、決して固定されたものではない。交通網が変われば、人の流れが変わる。そして人の流れが変われば、街の価値もまた変わっていくのである。
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