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- 2025/12/29 掲載
BYDの軽EV「RACCO(ラッコ)」は何がヤバいのか?軽自動車市場で始まった本当のEV競争
なぜ軽自動車市場でEV競争が本格化するのか
日本の軽自動車市場は、独自の規格と価格帯によって形成されてきた。年間新車販売の約35%を占め、都市部から地方まで生活インフラの役割を担う。だがEV化では、航続距離や価格設定の難しさから参入が遅れていた。軽自動車は小型であるがゆえに電池を搭載しにくく、製造コストも上がりやすい。国内メーカーはハイブリッド技術に強みを持つ一方、軽EVの採算性には慎重な姿勢を取ってきた。こうした状況を背景に、10月に開催されたJAPAN MOBILITY SHOW 2025において公開されたBYDとスズキによる軽EVは、停滞していた市場が動き出す契機と捉えられている。特にBYDが日本の軽規格に完全対応した量産前提の車両を投入するとした点は、海外メーカーが軽市場を「実験」ではなく「本格的な事業領域」と位置付けたことを示す。EVの雄と軽の王者が同じショーで軽EVを世界初公開した事実は、軽セグメントをめぐる競争が本格化してきた証左と言えるだろう。
BYDは世界最大級のEVメーカーであり、電池・モーター・制御を自社で一貫生産する垂直統合型モデルを採用する。これにより低価格帯のEVで高い競争力を持つ。日本市場向けの軽EVは、欧米市場とは異なる独自仕様だが、BYDは専用設計を選び、存在感の強化に動いている。
軽自動車のEV化は、脱炭素の社会課題とも直結する。地方の移動手段として軽自動車は不可欠であり、この層でEV普及が進まなければ、国内の電動化目標の達成は難しい。今回の発表は、社会的な要請と産業競争の双方が高まる中で実現したものといえる。
価格と航続距離はどうなる?軽EVの特徴
BYDが発表した軽EV「RACCO(ラッコ)」は日本専用設計の軽規格BEVであり、2026年夏ごろの発売を目指す。車体サイズや電池容量、航続距離はいずれも軽自動車ユーザーの実使用を強く意識した設計とされ、都市部と地方の双方での利用を想定している。航続距離は2種類のバッテリーサイズによるが、ベースモデルで240km前後、ロングレンジ仕様で370km程度とされる。航続距離を過度に追求せず、電池容量と価格のバランスを優先した点は、軽EVにおける現実的な落としどころを示したものといえる。一方のスズキの「Vision e-Sky」は日常使いを想定した都市型EVで、2026年度内の量産化を目指す。スズキは軽自動車の小型・軽量設計に強みを持つが、EV化では電池コストが課題となってきた。同社はコンセプトモデルを通じ、ユーザーの利便性と価格のバランスを重視した軽EV像を提示した。
両社の軽EVは、価格帯として200万円前後のレンジが目標になるとみられる。このゾーンは軽自動車ユーザーにとって重要な判断基準となる。ガソリン車と比較したときの価格差を補助金でどこまで相殺できるか、また、航続距離が日常使いに十分かどうかが普及の決め手となるかもしれない。
加えて、商用軽EVとしての展開も期待される。配送事業者や訪問サービスは短距離走行が中心であり、EV化による運用コスト低減の効果が見込める。軽商用車はEV化と相性が良く、今後の普及段階を後押しする可能性が高い。
【次ページ】技術とサプライチェーンの争点──競争軸は「電池」と「ソフト」へ
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