- 2026/09/14 06:50 掲載
竹中工務店「万博工事・水増し」事件、なぜ起きた?建設業界の“現場任せ”に潜む盲点(2/2)
「権限集中」が生むリスク…業界特有の構造的問題
大規模な建設現場では、多くの担当者に業務が分散される一方、重要な判断や情報が所長など特定の人物に集中することがあります。建設工事は案件ごとに施工条件や工程、関係する業者が異なるため、円滑に進めるには、状況を最もよく把握している責任者に一定の裁量を持たせることが必要です。しかし、その裁量が大きくなるほど、会社側からは「なぜその業者を選んだのか」「なぜこの金額になったのか」といった判断の過程が見えにくくなる可能性があります。さらに問題となるのが、取引先との力関係です。
今回の事件では、元所長が下請業者の選定や工事代金の支払いなどに影響力を持っていたと報じられる一方、下請業者側は、水増しの指示に「従わざるを得なかった」と説明しています。
事実認定は今後の裁判を待つ必要がありますが、仮にこうした関係があったとすれば、下請業者が元請会社の担当者に対して「それはおかしい」と声を上げることは容易ではなかったでしょう。
現場を任せる以上、責任者への一定の信頼と権限付与は欠かせません。しかし、「現場を任せること」と「その人にしか分からない状態にすること」は別の話です。
業務は多くの人に分散されているのに、重要な情報や判断だけは1人に集中している。こうした状態こそ、不正や異変が周囲から見えにくくなる大きなリスクと言ええるのではないでしょうか。
実はどの業界でも起こり得る、今回の事件の“本質”
今回の事件は、大阪・関西万博という巨大プロジェクトで、大手ゼネコンの元所長が逮捕されたという点では、特殊な事例に見えるかもしれません。しかし、「特定の担当者にしか分からない仕事がある」「その担当者に大きな裁量が与えられている」という構造自体は、決して大規模な建設現場だけに限った話ではないでしょう。
たとえば、「この協力会社とのやり取りは○○さんに任せている」「資材の発注先や価格は1人の担当者が決めている」「この現場のことは所長に聞かなければ分からない」といった状況は、多くの企業で起こり得ます。
そして問題は、必ずしも今回のような大きな金銭的不正だけではありません。「これくらいなら会社には分からないだろう」「今まで問題になっていないから大丈夫だろう」。こうした小さな判断から、会社のルールを外れた処理が少しずつ常態化していくことも考えられます。
むしろ、中小企業では1人の担当者が営業、見積もり、発注、現場管理、請求確認など複数の業務を兼ねていることも珍しくありません。人数が少ないからこそ、お互いの仕事が見える面がある一方で、「その人に任せておけば大丈夫」という属人化が起こりやすい側面もあります。
今回の事件は「大手ゼネコンの特殊な不祥事」として見るだけではなく、「自社にも、その人にしか分からない仕事はないか」「担当者の判断を誰も確認できない状態になっていないか」と置き換えて考える必要があります。
問題の本質は会社や現場の規模ではなく、権限を持つ人を周囲が適切にチェックできる仕組みがあるかどうかなのです。
不正を防ぐために、会社は何を確認すべきか?
どれだけ採用時に人物を見極め、社員教育を徹底しても、人の考え方や置かれている状況はさまざまです。不正が起きる可能性を完全にゼロにすることは難しいでしょう。
だからこそ重要なのは、「不正は起こらない」という前提ではなく、不正が起きにくく、仮に起きても早い段階で気づける仕組みをつくることです。
たとえば、業者の選定、発注、検収、支払いの判断を1人で完結させない、一定金額以上の取引には複数人の承認を求める、特定の協力会社への発注が不自然に増えていないか定期的に確認する、といった方法が考えられます。
それでも考えなければならないのは、「制度があること」と「実際に利用できること」は同じではないという点です。
下請企業にとって、元請企業は仕事を発注してくれる重要な取引先です。「元請の担当者がおかしなことをしている」と感じても、「通報したことが知られたら、次から仕事をもらえないのではないか」と考えれば、声を上げることをためらうのも無理はありません。
だからこそ、通報窓口を設けるだけでなく、現場責任者を通さず相談できることや匿名性、不利益な取り扱いをしないことを協力会社にも継続的に周知し、「何かあれば言っても大丈夫」と思える環境までつくる必要があります。
まずは、自社に「その人にしか分からない仕事」がないか、業者選定や発注、検収、支払いの判断が特定の担当者に集中していないかを確認してみてはいかがでしょうか。今回の事件は、自社の管理体制に思わぬ死角がないかを見直すきっかけになるはずです。
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