- 2026/09/15 06:50 掲載
廃業寸前→売上10倍「鯱もなかの秘密」、14万件投稿して分かった「X運用5つのコツ」
1993年早稲田大学第一文学部卒業後、ぎょうせい入社。地方行政をテーマとした月刊誌の編集者として、IT政策や産業振興、防災、技術開発、まちおこし、医療/福祉などのテーマを中心に携わる。2001年に日本能率協会マネジメントセンター入社。国際経済や生産技術、人材育成、電子政府・自治体などをテーマとした書籍やムックを企画・編集。2004年、IDG Japan入社。月刊「CIO Magazine」の編集者として、企業の経営とITとの連携を主眼に活動。リスクマネジメント、コンプライアンス、セキュリティ、クラウドコンピューティング等をテーマに、紙媒体とWeb、イベントを複合した企画を数多く展開。2007年より同誌副編集長。2010年8月、タマク設立、代表取締役に就任。エンタープライズIT、地方行政、企業経営、流通業、医療などを中心フィールドに、出版媒体やインターネット媒体等での執筆/編集/企画を行っている。
X・Instagram・TikTok・Googleマップの「異なる役割」
前編で見たように、古田氏のSNS活用には、購買につながる動線を逆算して組み立てる発想が貫かれている。その中で各媒体は、それぞれ異なる役割を担っているという。軸となるのはX(9月3日時点で約6.1万フォロワー)だ。古田氏は毎日、朝のあいさつから自身の裁量で発信を続けている。
「Xは毎日やっています。朝のあいさつから、あとは自分のさじ加減で、思いついたときに発信するという感じですね」(古田氏)
一方、Instagramは綺麗な画像やリール(最大3分までの縦型ショート動画を作成・投稿できる機能)を軸に、こつこつと運用してフォロワーを積み上げる媒体と位置付ける。当初は外部の協力者に運用を任せていたが、現在は4000フォロワー超にまで育った。
これらのSNSでファンとの接点をつくり、顧客のGoogleマップ経由の来店やECサイトでの購入へとつなげていく。無料で使えるSNSを入り口に、購買までの1本の導線を描く──この設計思想は、媒体が変わっても一貫している。
なお、ショート動画については試行錯誤の途中だ。2022年に1度、TikTokに挑戦したものの伸びずに中断したが、改めて専門の制作会社と組んで再開を準備しているという。撮影はすでに終え、公開を待つ段階にある。
連日完売の「ひとりじめショートケーキ」、バズの舞台裏
その動線の先で、近ごろ大きな話題となったのが「ひとりじめショートケーキ」である。数カ月前に入社したパティシエの社員とともに商品開発を進める中で生まれた、1人用の小さなホールケーキだ。意外なことに、これはバズを狙って開発したものではなかった。
「人気商品にはしたかったのですが、これがバズるとは思っていませんでした。むしろ、早く綺麗な写真を撮って投稿しようと社内を急かしていたくらいで。でも少し時間がかかっていたので、まず私が適当に写真を撮って『新商品、ひとりじめショートケーキ』とだけ一言で投稿したら、それがバズってしまったのです。偶然でした」(古田氏)
結果として、この投稿には2万件を超える反応が集まった。凝ったバナーではなく、商品名だけのシンプルな投稿だったことが、かえって功を奏したと古田氏は振り返る。
店に長い行列ができるというより、「近くにあれば」という感想付きの引用が数多く広がった。作る数も限られるため、連日ほぼ完売が続いたという。商品名だけで味も情景も想像させる分かりやすさが、拡散を後押しした形だ。
このバズの背景を、古田氏は「余白」という言葉で説明する。
「ニーズとマッチしたこともありますが“余白”を残すのは大事だと思っています。全部を説明しきってしまうと、見た人は『はい』としか言えなくなりますから。そうではなく『行ってみたい』『どこの店だろう』『遠いから行けない、悔しい』と、みなさんが言いたくなる余白があった。いまはコメントや引用がつく投稿ほど伸びるので、そこが良かったのだと思います」(古田氏)
古田氏が5年足らずで14万件を超える投稿を重ねる中で導き出した「X運用5つのコツ」は、企業公式の文化に馴染む、毎日のあいさつを大切にする、エゴサーチと通知欄を欠かさず確認する、トレンドの波に乗る、そして炎上を避けるというものだ。中でも重要なのは、派手なバズを狙うこと以上に、日々の交流を積み重ねることだという。
アカウントが小さいうちは、自ら他の企業公式アカウントに絡みに行き、認知してもらう。そこで反応が生まれれば担当者のやりがいにもなり、継続する力につながる。実際、鯱もなかも地元企業などとの交流を通じて認知を広げてきた。
14万件という圧倒的な試行錯誤の中で、トレンドを捉える感覚や伸びる投稿の型も磨かれていった。廃業寸前から売上10倍を実現したSNS活用の強さは、一度のバズではなく、こうした地道な継続と交流の積み重ねにあるのだろう。
古田氏が教える「X運用5つのコツ」
1つ目は「企業公式の文化に染まれ」だ。企業公式アカウントには独特の文化があり、まずはそこに馴染んでいくことが出発点になる。
2つ目は「毎日のあいさつを大切にせよ」。古田氏自身、朝晩のあいさつポストを欠かさない。一見なんの変哲もないやり取りだが、この日々の積み重ねが大きな意味を持つという。
3つ目は「エゴサーチと通知欄チェックを怠るな」。自店がどう語られているかを把握し、反応を見逃さない姿勢である。
4つ目は「トレンドの波に乗れ」。常に生まれ続けるトレンドにすぐ乗れるよう、アンテナを張り続けることが欠かせない。
そして5つ目が「炎上だけは絶対に回避せよ」。SNSで最も恐ろしいのは炎上であり、これだけは何としても避けるべきだと説く。
これら5つのコツの根底に共通して流れているのが、ストーリーの力への信頼だ。古田氏は承継直後から、自身の思いを物語として発信することにこだわってきた。マーケティングを学ぶ中で、ストーリーが人の心を動かし、共感を生み、購買へとつながることを確信していたからである。
「ひとりじめショートケーキ」の余白もまた、受け手が自らの物語を重ねられる余地を残す工夫だったと言える。派手なテクニックよりも、共感の設計こそが軸にある。
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