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  • 2020/09/23

米メディアから見たバフェットの日本買い、実は後継者へのメッセージか

「投資の神様」と崇められ、尊敬の念を込めて「オマハの賢人」と呼ばれる米保険・投資会社バークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェット最高経営責任者兼会長(90)が、日本の大手総合商社5社それぞれの株式の5%超を取得する「日本買い」を行って注目されている。基本的に米国株にしか投資せず、「米国買い」が揺らがなかったバフェット氏は、なぜ投資のパターンを変えたのか。米メディアの論調をもとに、その「日本買い」がコロナ後の株式投資に対して持つ意味を探る。

在米ジャーナリスト 岩田 太郎

在米ジャーナリスト 岩田 太郎

米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。

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日本の5大商社株購入についてはさまざまな分析がすでになされているが、後継へのメッセージという見方もある
(Photo/Getty Images)


投資の神様が描く、「理想の日本企業観」

 バフェット氏と日本の関係は浅からぬものがある。そもそも、バフェット氏がバークシャー・ハサウェイの経営者となった経緯には、日本が深く絡んでいる。

 元来は紡績・繊維企業だったバークシャー・ハサウェイが1960年代前半に、安価な製品で米市場を席巻する日本との競争に敗れ、落日の企業となっていたところに、バフェット氏は投資先として目をつけた。ところが、バフェット氏とバークシャー・ハサウェイの旧経営陣の間でいざこざが起こり、バフェット氏は同社を投資先ではなく買収先に変更し、1965年に旧経営陣をクビにして経営を乗っ取った。

 これが、バフェット氏の下でのバークシャー・ハサウェイの後の驚異的な成功につながるのだ。つまり、日本が繊維で米国をつぶさなければ、バフェット氏の投資人生には別の展開が待っていたかもしれないわけだ。

 バフェット氏といえば、毎年の株主総会に合わせて丹精込めて書き上げる「株主への書簡」が有名だ。株主と企業の関係性の理想を体現したものとして宗教書のような取り扱いを受ける。その「株主への書簡」で現存するものとしては最も古い1977年の書簡が、バフェット氏の日本商社買いを導いた原則を表していると、ブルームバーグが8月31日付の解説記事で報じている。

 それによるとこれら5社(伊藤忠商事、三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅)は、バークシャー・ハサウェイ同様にコモディティを手掛けることから「投資先として理解できる」。三井物産や住友商事は17世紀から事業を続けており、「好ましい長期的な投資先」である。スキャンダルは皆無ではないが、「正直で有能な経営陣」がいる。現在の株価は日本株の中でも割安であり、「魅力的な価格」で購入できる。つまり、そもそも日本は常にバフェット氏にとって潜在的な優良投資先であったというのだ。

 だが、バフェット氏はすぐに日本株に手を伸ばしたわけではない。それを象徴的に物語るのが、ソニーの盛田昭夫元会長が、ニューヨーク市の自宅にバフェット氏を招待して食事を運ばせた際、次から次に出てくる日本料理20品に一切手をつけなかったという逸話だ。

 「わからないもの」への警戒心が強く、それは投資に関しても米国株以外はほとんど買って来なかった歴史に表れている。これに関して本人は、「盛田昭夫氏と友人関係にあるのでソニー株を買いたかったが、割高で買えなかった」と言い訳気味に語っている。

 一方、日本株に手を出さなかった理由に関しては、1998年にバフェット氏をインタビューしたジャーナリストの牧野洋氏に対して、「株主資本比率(ROE)が低すぎる」と答えている。要は、米国株と比較して日本株は財務安定性が低すぎると言うのである。今回、バフェット氏はようやく日本株を買ったのだが、それは日本企業の体質の米国化を示すものではないだろうか。

 それからかなりの時が過ぎ、東日本大震災直後の2011年11月にバフェット氏は被災地福島県いわき市にオープンした孫会社のツール製造企業タンガロイの新工場完成式典に出席した。記者会見で「日本を投資対象としてどう見ているか」と問われ、「やはり日本というのは先に進むことを止めない国だなという気持ちを新たにした」と答えている。

 さらに、「日本企業に投資を考える場合、どういう企業や業種が魅力的か」と聞かれたバフェット氏は、「持続可能な競争力を基礎的な事業に置いて持つ会社、その期間が何十年にも渡って続く会社だ」と回答した。

 今回「満を持して」投資先に選ばれた伊藤忠商事、丸紅、三菱商事、三井物産、住友商事は、そのようなバフェット氏の「理想の日本企業観」の条件に合致するものであったと言えよう。


分析1:「ドル安対策」としての日本買い

 ここで、バフェット氏の日本商社への投資が、バークシャー・ハサウェイにとってどのような投資の妙味をもたらすか、メディアの見方をまとめてみよう。

 筆頭に挙げられるのは、近未来に予想される米ドル安進行に対する安全策の意味があるとの分析である。米CNNビジネスは「今回の投資は、どのようにバークシャー・ハサウェイがドル安をヘッジしてゆくかを示唆している」とする豪金融企業AxiCorpのスティーブン・インネス主任投資ストラテジストの見解を紹介した。

 英ロイターは米国発の分析記事で、「ここに来て他通貨に対し2年来の安値をつけている米ドルの動きが、米投資家全般にとって日本を魅力的にしている」とする、投資企業の米ルートホールド・グループのジム・ポールソン主任投資ストラテジストの分析を伝えている。

 バークシャー・ハサウェイは、商社5社それぞれの株式を取得中の2019年9月と今年4月に、合計6255億円相当の円建て債券を発行した。円金利がドル金利と比較して安かったためである。同社全体の投資運用から見れば、わずか1%程度にすぎないものの、買い増しを検討するだけでなく、さらなる「日本買い」にも道を開くものであるため、その意義は小さくない。

 バークシャー・ハサウェイが日本円で購入した日本株は、「円で調達したマネーを円建ての株式資産で運用・評価する」形になっている。ポールソン氏は、「日本円が米ドルに対して強くなる局面においては、円高になるほど日本で得られた利益のバークシャー・ハサウェイに対する貢献度が大きくなる」と付け加えている。

 コロナ禍を受けたドル安の進行は、日本商社5社への投資の理由としては後付け的になるのだが、ドルが弱含んでいる以上、正当化できる判断であるといえよう。

【次ページ】海外メディアのさらなる分析、実は後継への足固めか

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