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  • 2024/05/28 掲載

デンソーの「生成AIロボット」は何ができる?「体」を手に入れた生成AIの衝撃の実力

連載:デジタル産業構造論

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近年、急速に活用が進む生成AIは、モノづくりを支えるロボットにも大きな変革を起こしている。今回は、ロボットに生成AIを融合させ、新しいロボット活用や、人間とロボットの在り方を探求するデンソーが開発した「生成AIロボット」の全貌を解説する。同社が目指す“ドラえもんの世界”とは何か。
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何が凄い? デンソーが開発した「生成AIロボット」の全貌とは
(Photo:sdx15 / Shutterstock.com)

生成AIが「ロボット」を激変させる理由、何が変わるのか?

 ロボットは、単に調達すればその日から自社のオペレーションの中ですぐに活躍してくれるわけではない。当然、自社の業務オペレーションや用途に合わせてロボットにインテグレーション(調整・据え付け)が必要になる。あらかじめロボットに実施させたい動作を定義しておき、その通りに動くようにロボットをティーチングすることで、ようやく業務の中で使えるようになるわけだ。

 また、そうしたティーチングには、ある程度のノウハウや知見が求められることから、ロボットを導入したいと考える企業の多くは、ロボットシステムインテグレーター(ロボットSI)と呼ばれる企業にティーチングを外注することが多い。

 こうした「やってほしい動作を教え込む必要がある」という特徴から、従来型のロボットは、繰り返し業務と相性が良いとされ、たとえば、製造業における加工、塗装、溶接、搬送などの工程において、歴史的にロボットが多く導入されてきた。

 一方で、事前にすべての動作をロボットに学習させておくことは困難であることから、人のニーズに合わせて柔軟に動作を切り替えなければならない作業はロボットの苦手分野とされてきた。そのため、製造業や物流を超えて、一品一様が求められる建設業やサービス業、農業などの分野では一部のロボット導入に留まっていた。

 しかし、そうした状況が生成AIとロボットの融合により変わりつつある。事前に動作をすべてティーチングしなくても、自然言語による指示や、その場の状況判断を基に、柔軟に動作を切り替えることができるようになるのだ。

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従来のロボットオペレーションと、生成AI融合による変化
(出典:筆者作成)

 これにより、ロボットのティーチングの負荷が最小化されるため、導入企業にノウハウがなくとも、導入しやすくなる。また、今までロボットの導入対象とされてこなかった工程に、ロボットの適用範囲が広がることになる。

 ここからは、ロボットに生成AIを融合させることで、新しいロボット活用や、人間とロボットの在り方を模索するデンソーの取り組みを解説する。

デンソーの生成AIロボット「Generative-AI-Robot」とは

 デンソーが開発した生成AIロボット「Generative-AI-Robot」は、人間との会話の中から実行タスクをロボット自身が判断して動作するロボットだ。事前のティーチング通りに動くロボットとは大きく異なるロボットの在り方なのだ。

 たとえば、Generative-AI-Robotに人が話しかけ、「水・お茶・ペンを取って」や「ベルを組み立てて鳴らして」と指示をすると、その指示に応じてロボットが動作を判断・実行する。また、「甘い飲み物が欲しい」「書けるものが欲しい」といったあいまいな指示であっても、生成AIが実施タスクを判断し・実行することができる。

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デンソーのGenerative-AI-Robot
(出典:デンソー)

 Generative-AI-Robotは、人の指示をテキストに変換する音声認識AIと、その指示から実行タスクを判断する生成AIの大きく2つの仕組みによって構成されている。

 まず、あいまいなものも含めた人の指示や会話を音声認識AIがテキスト化する。そのテキスト化された人の指示を基に、「スキル」と呼ばれる事前にプログラムされた小さい単位の動作モジュール(例:掴む、組み立てる、渡す)などを組み合わせ、「どのタスクを実施すべきか」を生成AIが判断する仕組みだ。生成AIには、事前にどういったスキルができるロボットなのかなどをプロンプトとして指示をしており、その前提に基づきロボットは動作する。

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デンソーのGenerative AI Robotの仕組み
(筆者作成)

「生成AI×ロボット」が活躍する分野

 デンソーは、Generative-AI-Robotのような生成AIロボットの登場により、今までロボットの導入対象であった製造業の大量生産ラインから導入シーンは大きく広がり、人が作業をするシーンすべてが導入範囲になっていくと考えている。

 たとえば、製造業においては、製品のニーズやライフサイクルの変化の中で、「試作段階」、「大量生産段階」、「少量生産段階」といった段階を踏むことが一般的だ。

 このうち「大量生産段階」では、従来通り、事前のティーチングが必要なロボットが活用され、高速で同じ作業を繰り返す製造ラインとなるだろう。

 一方、今回のGenerative-AI-Robotが対象とするのは、「試作段階」や「少量生産段階」となる。これらの段階で利用されるロボットには、状況や生産計画に応じてフレキシブルにオペレーションを変えることができる能力が求められる。

 たとえば、そうした領域において使われている従来の協働ロボットは、動作速度が遅いほか、衝突停止機能が付いていることから、ロボットの周りに設置する柵(工場内で働く人間の安全確保のため)の必要のない「安全な産業ロボット」としての使い方が主流であり、本当の意味で人間と作業を協働して取り組むケースはまれであった。

 一方、Generative-AI-Robotはこうした協働ロボットと人の連携の在り方も変えることになり得る。

 加えて、食品製造業、建設業などの人との協働が求められるかつ、フレキシブルな対応が求められるモノづくりの領域や、物流・小売・医療・サービス業、さらには農業をはじめとした1次産業、そして通信がなくとも自律的に復旧し動作する宇宙ロボット、家庭内で人と一緒に調理するロボット、部屋の状況を判断し分担して片付けをしてくれるロボットなど、生成AIとの融合によって今までロボットが導入されてこなかった分野に適用範囲が広がっていくかもしれない。

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Generative AI Robotの適用業界一例
(出典:筆者作成)

 今までも人とコミュニケーションしながら協働するロボットやソフトウェア開発の取り組みは、AIコンシェルジュなどをはじめ、あらゆる企業によって取り組みがすすめられてきた。ただし、それの多くは、デジタルの「画面上」における“人との協調”の域を超えていないケースがほとんどであった。

 一方、Generative-AI-Robotでは、AIが分析・検討した結果を踏まえ、ロボットが人間と協働しながら動作をすることにより、デジタル空間の枠を越え、現実空間とつながるようになる。

 「生成AIには身体性がない(物理的な実行手段がない)」と言われていたが、デンソーの取り組みは、生成AIの分析・検討結果に、物理的な実行手段・身体性(=ロボット)を付与することになる大きな変化である。

生成AIでロボットの「ティーチング」はどう変わる?

 また、生成AIにより、ロボットの動作をプログラムするティーチングの在り方も大きく変わる。今まではティーチングペンダントと呼ばれる入力・操作装置を使い、専門知識を有するエンジニアがロボットに動作をプログラムしていた。

 一方、同社のGenerative-AI-Robotでは、「つかむ」「わたす」「組み立てる」などの基本スキルは事前にプログラムをする必要があるものの、それらをどう組み合わせて動作するかは、生成AI自身が考えて実施することになる。そのため、動作全体は、生成AIとのコミュニケーションを通じて、生成AIに考えさせながらプログラムしていくことになる。

 たとえば、予想外の動作をした際に、ロボットに対して「なぜそのような動作をしたのか」と聞くと、AI側が「●●と考えるから、XXと動作しました」と回答するとする。それに対して、「じゃあここを修正しようか」と指示を出し、プロンプトに盛り込んでいくことにより、人間の意思を伝えながらロボットを作り上げていく形へと変化してきている。

 これにより、ロボットの導入やインテグレーション自体も民主化していくこととなる。専門のエンジニアや、ロボットSIerと呼ばれるロボットのインテグレーションを行う専門企業がいなくとも、事前のモジュールが定義されていれば、ロボット導入企業自身が、直接ロボットとの対話の中で、ロボット動作のプログラミングや、ロボットの調整ができるようになる世界も想定される。 【次ページ】【事例】カフェ店員「生成AIロボット」の衝撃の働きぶり

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