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  • 2025/08/20 掲載

ロボット開発の壁を破るか? 300億円超を投じる国産オープンソフト基盤の勝算は

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ロボット開発で長年の課題である「オープンなソフトウェア開発基盤」の構築に、再び大型プロジェクトが動き出した。経済産業省は300億円超を投じ、産官学の連携による基盤モデル開発や汎用モジュール化、標準化を推進する8つの研究開発テーマを採択。狙いは多様なロボットを迅速かつ低コストで開発できる環境を整え、裾野を広げることだ。過去にも同様の試みはあったが真の普及には至らなかった。果たして今回は、その壁を越えられるのか──? 必要な戦略を考える。
執筆:サイエンスライター 森山 和道

サイエンスライター 森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。

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遠隔操作でロボット動作のデータを収集する
(出典:AIRoA プレスリリース)

200億円かけた国産「ロボット基盤モデル」開発がスタート

 経済産業省と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、2025年8月、ロボット分野のオープンなソフトウェア開発基盤の構築に向けて、2つの事業で計8件の研究開発テーマを採択したと発表した。最初は7件がプレスリリースされたが、あとから一つ追加されて合計8件となった。

 後で追加された一件は「AIロボット社会実装用データセット構築と基盤/個別モデル開発」。ロボットの生成AI基盤モデル、いわゆる「ロボット基盤モデル」の開発を行うプロジェクトだ。期間は2025年度~2029年度の4年間、受託者は一般社団法人AIロボット協会(AIRoA)で、予算は205億円である。

 AIロボット協会は「汎用ロボット」実現を目指して2024年12月に設立された団体で、2025年3月から本格的に活動を開始している。理事長は早稲田大学教授の尾形哲也氏で、いわゆる「フィジカルAI」の実現を目指し、トヨタそのほか大企業や、テレイグジスタンスのようなスタートアップが会員企業として参画している。

 汎用ロボットのためのモデルを学習させるためには本連載でも繰り返し紹介してきたように、大規模なデータセットが必要だ(「ロボットは大規模基盤モデルでどう変わる?まだまだ「賢くなる」、最新研究の数々」 )。そのデータセットを収集・整理し、各企業が活用できるようにすることを活動の主な目的としている。実際にロボットを遠隔操作して収集しようが、シミュレーション上で収集しようがコストがかかる。NEDOプロジェクトの予算はそのために活用される。

 ロボットに限らないが基盤モデル開発は規模の競争、すなわち予算の競争となっている。200億円は巨額だが、最近の米中ロボットスタートアップへの投資金額を見ていると、かなり見劣りしてしまう。だが、これが日本の現状である。この環境下で「日本ならでは」の戦い方は、どうすればできるのか。おそらくは徹底的に現場ニーズにこだわることだろう。そのためにも知恵と協力が必要だ。データセットの収集と基盤モデル開発のポジティブループを回せるかどうかが重要なポイントだ。

多様なロボットの迅速開発には100億円以上

 残りの研究開発テーマについても見てみよう。そもそもこのプロジェクトの目的は、多様なロボットシステムを迅速に開発できる環境を整備することだ。ソフトウェアを起点としたオープンな開発基盤を構築し、ロボットシステムの開発を容易にする。そしてロボット活用範囲の拡大、多様なプレイヤーの参入による産業全体の効率化と、技術革新の加速をねらいとしている。

 ロボット分野のオープンなソフトウェア開発基盤の構築に向けたこのプロジェクトは、大きく二つの事業からなっている。まず一つ目は「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/ロボティクス分野におけるソフトウェア開発基盤構築」。ロボットシステムの機能をモジュール化し、品質や性能を可視化する技術やツールを開発する。期間は2025年度~2027年度。予算は3年間合計で103億円。

 こちらには3件の研究開発テーマが含まれる。具体的には以下の3つの事業である。()内が実施予定先だ。

  • ロボットSI効率化に向けた品質・信頼性・安全性強化型ソフトウェ ア開発基盤の構築
    (産総研、eSOL、ROBOCIP、セック、パナソニック ホールディングス、富士ソフト、豆蔵、立命館)

  • SI効率化と多彩なロボットシステムの創出を実現する共創基盤開発
    (川崎重工業、NTTビジネスソリューションズ、ダイヘン、FingerVision、安川電機、ヤマハ発動機、ugo)

  • 建設市場のロボティクス分野におけるソフトウェア開発基盤の研究開発
    (竹中工務店、Kudan、ジザイエ、アスラテック、燈、センシンロボティクス)

 連携する二つ目のプロジェクトは「デジタル・ロボットシステム技術基盤構築事業」。こちらではロボットシステムを構築するための汎用的なモジュールを開発する。期間は2025年度~2029年度。2025年度の予算は2.3億円。

 こちらは4件の研究開発テーマからなる。

  • ロボティクス分野におけるソフトウェア開発基盤を活用した建設ロボットシステムの研究開発
    (竹中工務店、鹿島建設、大林組、フジタ)

  • LLM/VLM を用いた産業用ロボットの動作指示システムの開発
    (チトセロボティクス)

  • 中小製造業の自動化を支えるROS2を用いた動的ピッキングプラットフォームの構築
    (Thinker)

  • 先進技術の社会実装の加速を目的としたソフトウェア群の研究開発および実証
    (ヤンマーホールディングス、ファーストシステム、UCHIDA)

 要するに、ロボットシステムの各機能を、自在に組み合わせられるようにモジュール化して、品質や性能を可視化できる技術を開発するプロジェクトと、そのソフトウェアの「土台」の上で、実際にロボットに使える部品としての汎用的モジュールを開発するプロジェクトというわけだ。「開発環境」と「部品」である。両者は相互に連携しながら研究開発を進める予定で、多種多様なロボットを高速かつ低コスト開発できるようにすることを目指す。 【次ページ】多業種で使える多様なロボットの開発を簡単に
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