• 2025/08/20 掲載

ロボット開発の壁を破るか? 300億円超を投じる国産オープンソフト基盤の勝算は(2/2)

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
3
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。

多業種で使える多様なロボットの開発を簡単に

 「ロボティクス分野におけるソフトウェア開発基盤構築」の3事業について、もう少し詳しく見てよう。詳細はまだ発表されていないが、実施企業をみればある程度推測できる。

 まずは「ロボットSI効率化に向けた品質・信頼性・安全性強化型ソフトウェア開発基盤の構築」(産総研、eSOL、ROBOCIP、セック、パナソニック ホールディングス、富士ソフト、豆蔵、立命館)から。ガッチリ大手と手堅いシステム開発会社が入っているこの研究開発では、オープンソースソフトウェアの活用とモジュールベースのロボットアーキテクチャの定義を通じて、ロングテール領域にも柔軟かつ低コストで導入可能なロボットシステム開発手法の確立を目指すとされている。

 研究開発、実装、ミドルウェアや信頼性、機能安全や品質管理に関する技術、インテグレーション技術やなどを持つ企業名、そして産業用ロボット大手が参画するROBOCIP(技術研究組合 産業用ロボット次世代基礎技術研究機構)が並んでいることから、産業用ロボットに搭載できるリアルタイムOSとミドルウェアを開発し、その品質評価や安全設計を踏まえたライブラリの整備などを行って、標準化や普及促進を狙うものと思われる。相反する要求を調整する点や異なるロボット構成への対応、リアルタイム性と汎用性のバランスなどが課題となるかもしれない。既存設備と、新たに開発したものをどう適合させるのかも課題となるかもしれない。

 二つ目の「SI効率化と多彩なロボットシステムの創出を実現する共創基盤開発」(川崎重工業、NTTビジネスソリューションズ、ダイヘン、FingerVision、安川電機、ヤマハ発動機、ugo)はどうだろうか。こちらはメーカーと通信、そしてスタートアップの組み合わせで、多様なロボットシステムを容易に作りやすくするための共通基盤を作ろうとしているようだ。

 現在のロボット活用現場はそれぞれ異なるベンダーにロックインされているが、複数の大手メーカーのロボットを共通APIやインターフェースで統合しシステムインテグレーションの効率を上げたり、また、高度な触覚センサ付きのハンドを色んなメーカーのロボットと組み合わせて様々な産業分野で従来は自動化が難しかった不定形物や食品工場での弁当盛付など、多品種を扱えるようにすること、またそれらを遠隔運用することが期待できそうだ。溶接から製造、物流、サービス業まで多業種を横断して対応できる開発基盤、システムパッケージができたら面白いかもしれない。

 ただし大手が主体になりすぎると、中小SIerでは使いこなしが難しいものになってしまうかもしれない。各メーカーは独自の制御アーキテクチャやAPI、安全認証基準を持っており、共通基盤化には変換レイヤーやプロトコル統一、データ処理の統一化なども必要となる。なかなか面白い多様性を持つ組み合わせなので、製造業とサービス業の垣根を越えるようなロボット競争基盤の構築を期待したい。ただしそ場合には製造業向けの高速・高精度動作と、サービス業向けの柔軟・安全優先動作を、同じ基盤上で切り替え可能にする設計も必要となるだろう。

 三つ目、「建設市場のロボティクス分野におけるソフトウェア開発基盤の研究開発」(竹中工務店、Kudan、ジザイエ、アスラテック、燈、センシンロボティクス)はわかりやすい。これらはゼネコン各社から構成された「建設RXコンソーシアム」の加盟企業だ。要するに建設現場の課題を解決するためのロボット、そのための諸課題を解決することを目指すのだろう。迅速なPoC、業界横断での標準化や、成果物の継続的な実装を期待したい。

ロボット市場の裾野拡大は今度こそ実現できるか

 いずれの研究開発テーマも、産官学連携で現場ニーズを汲みつつ現実的な基盤技術を開発しようとしていること、標準化と横断利用による開発・導入コスト削減を探ろうとしていること、労働力不足への対応などは共通している。ニーズは、はっきりしている。

 いっぽう、標準化と特定現場特化のバランスや、異なる企業文化間の合意形成の難しさ、導入コストや現場運用体制、人材不足、プロジェクト終了後の持続的な運営体制確保などの課題も共通している。特にエコシステムをどのように回し続けられるような仕組みを作れるか。技術面もさることながら、ここが最大の課題だろう。過去の取り組みが十分な普及に至らなかった要因は、技術的な完成度の低さだけではなく、エコシステムを回し続ける仕組みの欠如にあった。

 そもそも、2023年の「ROBOCIPや建設RXコンソーシアムに見る、ロボット開発の協調と競争の切り分けは可能か」で書いたように、「協調領域」と「競争領域」、「共創基盤」と「自社専用ソリューション」の切り分けは、いうほど簡単ではない。共通化・規格化する領域を明確にし、それ以外は各社の差別化領域として競争させることで、プラットフォーム上でのイノベーション誘発を促さなければならない。そのような大きな目的はみんな理解していても、共創と競争の境界設計は現実的には難しい。

 また、ロボット開発のためのハードウェア・ソフトウェアの「部品」を定義して組み合わせやすいようにしてロボット開発のコストを下げよう、新たな事業者が参入しやすくしようという取り組みは、これまでにも何度も行われてきた。

 取り組み自体はコンセプトも含めて、以前も「正しかった」。だが「正しい」からといって成功するわけではないのである。今度は成功するかどうか。機能が完璧でなくても、ある程度動くものであれば採用されるはずだとすれば、既存のプレイヤーだけではなく社会を含めた大きなサイクルが、本当にロボットを必要とするかどうかが重要なのかもしれない。

 具体的には例えば、特定の産業領域で即時に導入できる機能を優先開発し、使える状態にして現場に持ち込むことができれば採用事例を早期に積み重ねることもできる。これにより、参加企業やユーザーのフィードバックが基盤改善のサイクルを加速させることができるだろう。

 国際展開の視点も必要だ。日本市場だけを前提にした規格では、将来的な競争力が削がれる。海外標準との互換性や輸出先での法規制対応を織り込むことで、国内外の開発者コミュニティの参加を促し、スケールメリットを得られる。

 今回のプロジェクトは、日本がロボット開発競争で存在感を保てるかどうかの試金石となる。技術的完成度よりも先に、普及を前提にしたエコシステム設計を打ち立てられるか。その成否が「今度こそ」を実現する最大のカギとなる。

連載一覧

評価する

いいね!でぜひ著者を応援してください

  • 3

会員になると、いいね!でマイページに保存できます。

共有する

  • 0

  • 0

  • 0

  • 0

  • 1

  • 0

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
関連タグ タグをフォローすると最新情報が表示されます
あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます